今年1月に29歳になった橋本愛。2009年より始まる芸能界でのキャリアは15年をまわった。最新主演映画『早乙女カナコの場合は』では、大学の演劇サークルで出会った脚本家志望の先輩への思いを軸に、主人公・カナコの心の揺れを10年にわたって演じ切っている。
そんな橋本に、初共演となった先輩・長津田役の中川大志の印象や、昨年末に公開された『私にふさわしいホテル』に続いて共演した、のんへの“特別な”思いを聞いた。
また、カナコの「自意識に振り回されている」様に共感したという橋本が、「自分は生きづらい特性を持っていて、ずっと葛藤してきた。自分が苦しまなくてもいいように、相手のことも苦しめずにすむように」「最近になってやっと落ち着いてきた」と心の内を明かした。
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橋本愛 撮影:望月ふみ
初共演の中川大志は「頼もしくて心強かった」
――2012年に発表された柚木麻子さんの小説(「早稲女、女、男」)が基ですが、原作を引き継ぎつつも、いまの映画になっています。
私は東京の大学生のリアルは通らずに過ごしてきたけれど、「学校にこういう子いるよね」と、実際に生きている人の息遣いが聞こえるような人物描写がすごくステキだと感じましたし、最終章は大人になったカナコの視点で語られるのがすごく面白かったです。
――10年間にわたるカナコの変化を演じましたが、彼女の心には、付かず離れずの関係を続ける長津田がずっといます。橋本さんとしては共感できますか?
そこは自分と違いますね。私は長津田みたいなタイプは好きにならないかもしれないです(笑)。だからカナコにとって、この人がどれだけ特別な存在かというところを入念に落とし込みました。魅力的な人なんですよ。ただ私はもう少し現実的な言葉でしゃべってほしいと思うかな。特に最初は地に足がついてない印象を持ってしまうから、生涯を共にするパートナーという認識にはならないかも。
――長津田を演じた中川さんはどんな印象でしたか? 初共演とのことですが。
ものすごく頼もしかったです。私は思ったことを言うのに勇気を振り絞って言うタイプなのですが、中川さんの物おじせず、世間話をするような温度感で矢崎(仁司)監督とも意見を言い合ったり、コミュニケーションを取られている姿勢に、私ももう少し気負わずにいてもいいのかなと思わせてもらいました。頼もしくて、心強かったです。
のんは「刺激をもらえる存在」「のんちゃん自身が特別な人」
――本作では、同じく柚木麻子さん原作の小説を映画化した『私にふさわしいホテル』での共演に続き、のんさんと共演しています(のんは2作で同じ役柄で登場)。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』(13)での初共演から実に10年以上が経ちましたが、『私をくいとめて』も含め、いまもお二人の共演は本当に嬉しいです。
ありがとうございます。過去の作品を、本当にみなさんが特別に思ってくださるので、自分たちの関係性も特別なものになっていて、それによって何かそわそわするというか(笑)。そんな関係性ってのんちゃん以外にいません。10年以上経ってもそうやって期待してもらうことってないと思うので、本当にありがたいことだと楽しんでいます。
――10年以上経っても聞かれることで、改めて“特別さ”を実感しますか。
すごいですよ。本当に作品の力が大きいなと思いますし、それにやっぱりのんちゃん自身が特別な存在なのだと思います。目が離せない人です。私はジクジクじゅわじゅわと内に内に煮詰めていくタイプで、のんちゃんは、内側から外へとクリエイティブがあふれるタイプの人というか。いろんなことに興味を持って、すぐに行動に移して発信していくのをとても尊敬するし、ステキだと思う。自分も何かを生み出したい、創作意欲を枯らさずやっていきたいと刺激をもらえる存在です。
ポジティブに「なし得ているものは何だろう」
――では改めて、橋本さんがカナコに共感したところを教えてください。
たくさんありますが、特に「自分はこうあるべきだ」など、自分の自意識にすごく振り回されているところ。
――カナコたちは、いわゆるモラトリアム期にいます。橋本さんは早くから芸能界でお仕事されてきて、社会的な意味では早くから自立していますが、心理的な意味での模索期間には強い共感を?
10代の頃から10年以上ずっとそういう感じだったと思います。将来の心配というよりは、本来の自分への葛藤とか人間関係とか。自分が、割と生きづらい特性を持っているんです。人の感情があまりわからなかったり、空気を読むのが苦手で。そういうことを一つひとつ、自分が苦しまなくてもいいように、相手のことも苦しめずにすむように、整えていく必要がありました。いまだに続いていますが、最近になってやっと落ち着いてきた感じ。
――整えきらなくてもいいんじゃないかとも感じますか?
そうですね。うまく付き合うというか。その特性がなくなったり変わったりすることは多分難しい。だからそれがあるうえで、どう人と接することがいいかを模索していく。自分の気持ちを、特性をネガティブに捉えてしまうと、自分をいくらでも痛めつけてしまえるから。だったら自分の長所に目を向けたり。だからこそ、なし得ているものは何だろうと考える。ポジティブに捉えられるようにしています。
いまは表現することを「選択」している
――落ち着きが出てきたとご自身で感じていたり、ポジティブさを意識したりしているからなのか、SNSや文章などさまざまな表現の場での活躍を拝見していても、橋本さん自身の幹にたおやかさが育ってきているのかなと勝手ながら感じています。
柔軟さが出てきたのかなとは思います。以前は硬質で、少しでも刺激したら全部割れちゃうくらいの、良くない方の頑固さがあったり、適応力もなかったと思います。いまは自分に軟体動物の一部が加わった感じで、いろんな場所に適応できるようになった気がします。
――内に秘めていたやりたいことを、上手く外に出して実現できるようになってきたのでしょうか。
そうですね。あとはなんだろう。自分は頑張ればクリエイティブ以外の仕事でも生きられる気がするんです。
――そうなんですか?
頑張れば、ですけど。昔は表現することにすごく固執していました。これしかないと思ってガムシャラになってきました。そういう意味で、承認欲求的なところが枯渇していた。だけど今は「この仕事だけが自分の生きる道」というわけでもないのかも、と。
もちろんやりたくてやっているし、一番好きなことなのだけれど、「表現することでしか自分を保てない」といった切羽詰まった感じではない。自分で“選択”してやっている感じなんです。
――なるほど。ほかの道もあるけれど、「選択している」。
だけど、“渇望”があるかどうかって、表現者としての魅力に直結するとも思っていて、そこが枯渇しちゃいけないとも思います。だからちゃんと、いい意味で承認されたい欲求を持ち続けていたい。人に見られることや光ることに対しての欲求が、昔はありすぎて翻ろうされていました。でも今はそれがあまりなくて、向いてないんじゃないか?と不安になることも。なのでちゃんと貪欲でいなきゃと思っているんです。
――所属事務所が変わり、環境が新しくなりました。まさに大きな選択をしたところですが、何か変化はありますか?
シンプルになった分、これから色んなことがどんどんやりやすくなっていくんじゃないかなとは思っています。自分自身、とても身軽になった気がするし、周りのスタッフさんたちも軽やかになった感じがしていて、自分自身の変化というよりは、周囲の人たちの軽やかな空気に、自分が影響を受けていくんじゃないかなと。すでにいい空気が循環しているのを感じます。物理的にも、私、昔からめっちゃ散歩をするので、そこは常にリフレッシュしています。友達から注意されるくらい、いっつもいろんなところを歩き回っているんです(笑)。
■橋本愛
1996年1月12日生まれ、熊本県出身。映画『Give and Go』にて初出演&初主演を務める。『告白』(10)への出演で注目を浴び、『桐島、部活やめるってよ』(12)などで第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。13年前期に放送されたNHK連続テレビ小説『あまちゃん』の出演でも幅広い層から支持を集めた。近年の主な映画出演作に『熱のあとに』『ハピネス』『劇場版 アナウンサーたちの戦争』『私にふさわしいホテル』など。また、現在放送中のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』への出演を控える。映画『早乙女カナコの場合は』が3月14日より新宿ピカデリーほかで全国公開中。