40周年を迎え、アニバーサリーイヤーならではのスペシャルモデルやイベントの話題が引きも切らないG-SHOCK。それはもはや「かつて一大ブームを巻き起こした時計」ではなく「日本を代表する時計ブランドであり、世界中にファンを持つ文化」として根付いている。
そのG-SHOCKについて、50周年を視野にカシオはどのような戦略と未来を描いているのだろうか。2023年4月より同社時計事業部長に就任された高橋 央(たかはし おう)氏に、お話を伺った。
高橋氏は長年通信事業での経験を持つ通信のエキスパートだ。古くはポケベルのページャー(ポケベル)やPHSや携帯電話の設計やソフトウェア開発、商品企画も手がけていたという。
高橋氏「当初、通信事業は時計事業部の一部でした。なので、その頃から時計とは縁があったんです」
かつて、そのタフネス性能と未来的なデザインが大いに話題となったG-SHOCK携帯「G’zOneシリーズ」も、高橋氏が手がけたプロダクツ。製品としては別とはいえ、G-SHOCKとも浅からぬ縁があったのだ。
では、高橋氏は時計事業部長としてどのような戦略を描いているのだろうか。
高橋氏「時計事業は、カシオのなかでもビジネスモデルとして完成している事業なんです。だからといって、それをかたくなに守るだけでは発展はありませんよね。守るべき伝統は守り、同時に新しい要素を積極的に取り入れていく。“伝統と挑戦の両方”が必要ということです。
近年では、携わっている社員も時計ひと筋のメンバーに加え、私のように違う畑の出身者も増えました。そういった部分でもバランスが取れ、お互いが知識や技術、経験を持ち寄ることで、新たな引き出しも増える。
“伝統と挑戦の両方”が必要というのはもう4年くらい前から発信し続けていて、時計事業部のメンバーにも浸透している考え方ですが、時計事業部長というポジションになって、あらためてその大切さを感じています」
今後のG-SHOCKの方向性として、高橋氏は以下の3点を挙げる。ひとつは「高価格帯の強化」、そして「マスターピース戦略」、もうひとつが「スマート機能の付加」だ。
まず、G-SHOCKに新たな要素を採り入れる“挑戦”のひとつ「スマート機能」について聞いた。
高橋氏「一般のお客様が時計に求めるものは、時代に合わせて変化しつつあると思います。機械式かクォーツかアナログかデジタルか……それ自体より”便利でワクワクするもの”を求めていらっしゃると思うんです。そのワクワクする部分として、カシオが何を提供できるかを考えたとき、G-SHOCKは多くの強みを持っている。
仕上げや質感を含めた“デザイン性”、時計としての“精度”、耐久性などの“品質”、そして“最先端の機能”。この最先端の機能を担う新しい付加価値こそがスマート機能だと思っています」
しかもこれは、前述の通り、高橋氏がもっとも得意とする分野でもある。
高橋氏「6月に発売した『DW-H5600』は、私たちのスマート機能に対する考え方が詰まっているといえます。他メーカー製のOSに依存せず、光学心拍計というカシオが得意とするセンサーデバイスを組み合わせて、“毎日の運動を多角的にサポート”という明確な価値とメッセージを提示する。
また、できるだけバッテリーライフを長く(※)、時計としてだけならソーラーのみで使用できる。つまり、利便性とサステナビリティの両立です。さらに、高精細でコントラストの高いMIP液晶を採用して、時刻や数値といった情報の視認性を高めています」
※「DW-H5600」は、スマホと常時接続した状態で日常的な歩数や睡眠時の計測を行った状態(ただし、アクティビティ計測モードは使用しない)で、筆者の場合は一週間は余裕をもって使用できた。
※DW-H5600は毎日アクティビティ1時間と睡眠計測を行った場合、5日程度稼働する。
カシオは日本の主な時計メーカーのなかで唯一、クォーツムーブメントのみに特化したメーカーだ。それゆえスマート機能や通信技術、デジタルデバイスの活用、省電力のノウハウなど、エレクトロニクスと時計技術の融合はカシオの大きな強みといえる。
そして、これらの価値を提供するうえでもっとも大切なことがG-SHOCKの「カッコ良さ」と高橋氏は語る。
高橋氏「スマートウオッチがどんなに便利でも、カッコ良くなければ着けてみたいとは思いません。先日発売された『DW-H5600』も、実は企画は以前からあったのです。しかし、あの(5000/5600系の)デザインとサイズに収まるようになるまでは発売しないと決めていました。あのデザインであってこそ、DW-H5600は身に着けてもらえると思ったのです」
初代を引き継いだ5000/5600系はG-SHOCKにとっても、ユーザーにとっても特別なモデルとカシオは考えている。それは読者の誰もが頷けるだろう。大ヒットしたフルメタルオリジン「GMW-B5000」(2018年4月発売)のベースでもあり、2023年3月にはG-SHOCKのフラッグシップMR-Gシリーズ初のデジタルモデル「MRG-B5000」が登場。新しいCMF(Color:色、Material:素材、Finish:仕上げ)展開の登場時にも、必ずといっていいほど5000/5600系がラインナップされる。
高橋氏「『GMW-B5000』や『MRG-B5000』、そして前に述べた『DW-H5600』は、前述の戦略の2つめ“高価格帯モデルの強化”に関わるモデルです。カシオ全体としては実に幅広い価格帯の商品をリリースしていて、下は数千円くらいから上は限定モデルなど770万円台。G-SHOCKだとフルメタルの商品(GMW-B5000で77,000円)は高価格帯なんです。
この価格帯では、やはりお客様はひとつ上の上質を求められます。その高級感、満足感を明確に提示、提供していこう。そういうラインナップを確実に増やしていこうという戦略です。数千円のモデルでも手を抜かないカシオが、5万円、10万円、それ以上のモデルを作ると、こんなにすごい(満足度が高い)ものができるんだと、G-SHOCKをはじめカシオウオッチのファンの皆さんにしっかりと伝えていこう、と」
そのためには、より広くG-SHOCKのモデルを知ってもらうこと、つまりさらなるブランドの認知度向上が重要だと高橋氏はいう。
高橋氏「マイナビニュースでカシオの記事を読んでくださる皆様は『GA-2100』のフルメタルモデル『GM-B2100』や、MR-Gのフロッグマン『MRG-BF1000R』をご存知かもしれません。これらも高価格帯モデルとして展開している製品です。しかし、これらのモデルも、ごく一般的な方々にとっては、まだまだ認知されていないのです。
カシオもさまざまなマーケティングをしていくなかで製品に関する調査を行っていますが、その結果を見ると、私たちが思う以上にG-SHOCKのメタルモデルは認知されていませんでした。ブランド認知度を向上させるためには努力が必要です」
「GA-2100」や「GM-B2100」はスマッシュヒットとなり、アナログのオリジンとも呼ばれるほどG-SHOCKの新しい顔となった印象がある。が、それはあくまで「G-SHOCKに強い関心を持ってくれる方々のなかでの認知度」なのだと高橋氏はいう。
高橋氏「そこで大切になるのが3つ目の『マスターピース戦略』です。最近のトピックとしては-5000/5600系をG-SHOCKのマスターピース(※2)として、立体商標(※3)として登録されたことが挙げられます。これは、いわゆるオリジンの形状とブランド認知を商標として認められたということです」
つまり、5000/5600系のあのケースとバンドの形状はカシオの商標となり、他の類似品を法的に排除できる力を持つということだ。
高橋氏「この形状が多くの人々にG-SHOCKの形として認知されているかの調査など、申請はかなり大変なプロジェクトでした。しかし、今回この立体商標が無事登録されたことで、G-SHOCKがまた新しい一歩を踏み出せたと思っています」
立体商標は、商品がすでに認知されていることを証明するものです。が、その商品が持つ正統性や伝統を認知させるという側面も持っている。これを機にマスターピースたるDW-5000/5600系のデザインの認知を広げ、それをきっかけにG-SHOCKのことをもっと多くの人々に知っていただきたいし、こんな楽しい、カッコいい時計があるのかとワクワクしてほしい。G-SHOCKは(性能もデザインも)こんなことまでやっちゃうのかと、みなさんに驚き、楽しんでいただけることを考えています。ご期待ください」
40周年記念モデル「Clear Remix」シリーズで「基板とチップが見えるスケルトンモデル」に挑戦したり、7月には渋谷で大掛かりな広告ジャック&体験イベントを開催したりと、日本だけでなく世界中でG-SHOCKの40周年イベントが行われる。まだまだアニバーサリーイヤーで盛り上がるG-SHOCK。その伝統と挑戦から生まれる「ワクワク」を我々ファンも大いに楽しもうではないか。
※2 傑出した創造性や技術、出来栄えを持つ作品のこと
※3 立体的な形状に伴う商標。商品や商品の包装の形状、または役務(サービス)を提供するための店舗や設備に使用されるものに対し、商品や役務の提供元を識別する力を認め、商標としての保護されるもの。日本での例としては、ペコちゃん・ポコちゃん人形(株式会社不二家)、カーネル・サンダース立像(日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社)、ホンダ・カブ(本田技研工業株式会社)、ヤクルトの容器(株式会社ヤクルト本社)、阪神甲子園球場スコアボードなどがある。
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