2021年7月16日から細田守監督の『竜とそばかすの姫』が公開。その他続々と作品が公開される2021年7月16日・17日・18日。
本記事では、公開される作品を順番に紹介しながら、その中でもライターオススメの厳選5作品をコラムにてお届けしていきます。
『ファイナル・プラン』
伝説の爆破強盗、悪徳FBI捜査官への復讐計画遂行!
引退を決意した伝説の銀行強盗 カーター(リーアム・ニーソン)が、自身を拘束しないことを条件にこれまで盗んだ金をすべてFBIに渡そうとしたところ、FBI捜査官側がその金の横領を画策したことから始まる復讐劇。
いつのまにかタフガイ・アクション・スターと化していたリーアム・ニーソンが、今回はもう若くはない枯れオヤジ的な悲哀も醸し出しつつ、極悪非道FBIにリベンジを仕掛けていきます。
悪徳FBI捜査官の内、ひとり(2021年7月30日より公開のミュージカル映画『イン・ザ・ハイツ』の主演に堂々抜擢されたアンソニー・ラモス)はなし崩し的に悪事に巻き込まれた男ですが、その巻き込んだ張本人を演じる『ザ・スーサイド・スクワッド』(キャプテン・ブーメラン! もちろん2021年8月13日より公開の続編『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』にも出演)ジェイ・コートニーがなかなかの憎まれ役! 正直、今回リーアム・ニーソンが意外に受け身のスタンスで役に臨んでいる分、彼の狂気度が引き立ちます。
(個人的には『ターミネーター2』のT-1000ことロバート・パトリックが出ているのに注目していたのですが、彼は何と……嗚呼! そういえばジェイ・コートニーは2015年の『ターミネーター:新機動ジェネシス』にもカイル・リース役で出てましたね)
そもそも、せっかく堅気になる気なら無理に警察側に接触せず、静かに身を引いてればいいのに……とか、ツッコミを入れたいところもいろいろありますし、クライマックスももう少し華々しくて良かったかなといった不満もないではないのですが、それでも“ハリウッド・アクション・スター”リーアム・ニーソンによるアクション映画の定番として遜色ない、涼しい映画館でひととき暑気をしのぐのに最適な作品ではあるとは言えるでしょう。
●2021年7月16日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督:マーク・ウィリアムズ
出演:リーアム・ニーソン、ケイト・ウォルシュ、ジェイ・コートニー
–{2作品目は…}–
『17歳の瞳に映る世界』
妊娠した17歳の少女とその友人による静かで強固なロード・ムービー
予期せぬ妊娠をしてしまった17歳の少女オータム(シドニー・フラニガン)が、いとこのスカイラー(タリア・ライダー)と一緒にペンシルバニアからニューヨークまで中絶手術をするために向かいます。
映画ははじめ少女たちの日常を、中盤からはふたりの数日間にわたる旅をロードムービー仕立てで描いていきます。
思春期とは、女性に対するさまざまな現実の世界を真のあたりにしていく時期かもしれませんが、本作のふたりの少女はべったり甘えたり泣きわめいたりといった日本のキラキラ映画のキャラクターとは別世界の住人のように、無口でストイックで、心の痛みを決して表に出さないように腐心しています(表に出す術を身に着けてない、といったほうが正しいのかもしれません)。
一見ハードボイルドな風情を崩すことのない、特に当事者であるオータムはそれゆえに感情を殺し続けていますが、そんな彼女がマンハッタンで審査室でカウンセラーから淡々とあれこれ質問を受けていくうちに涙がこぼれてしまう瞬間などは圧巻です。
一方で、ずっと一緒にいるゆえか、オータムとスカイラーの間がどことなくぎこちなくなってしまう瞬間など、さりげなくも「あるある」な事象ではあるでしょう。
しかし、それでも最終的にこのふたりの不可思議な連帯感によって旅はまっとうされるとともに、ハッピーエンドかアンハッピーかといった次元を優に超えた幼い人生の情感が醸し出されていきます。
2017年に『ブルックリンの片隅で』(Netflix配信中)でサンダンス国際映画祭監督賞を受賞したエリザ・ヒットマン監督が「女性たちの語られざる旅の物語」として真摯に取り組んだ本作、10代の若い女性はもちろんのこと、同世代の男性にこそ見ていただき、いろいろ気づいていただきたいもの(その伝ではこういう作品こそ、本当は学校の視聴覚教育で生徒に見せるべきでしょうね)。
第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)やサンダンス映画祭2000ネオリアリズム賞など現在世界各国の映画賞を席捲中。
ふたりの女優の存在感も含め、ニューヨークの街をリアルに活写した撮影エレーヌ・ルヴァールの映像も特筆しておきます。
●2021年7月16日よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
配給:ビターズエンド&パルコ
監督:バリー・ジェンキンス
出演:シドニー・フラニガン、タリア・ライダー
–{3作品目は…}–
『少年の君』
孤独な少女と少年の出会いと事件から浮かび上がる現代中国のリアルな青春
受験戦争、イジメ、ストリート・チルドレンと、現代中国が抱える思春期世代の諸問題を背景にした青春サスペンス映画の秀作です。
進学校のクラスメイトの自殺により、次なるいじめのターゲットにされてしまうチェン・ニェン(チョウ・ドンユイ)と、ふとしたことで彼女に助けられてボディガード的な役割を担うことになる孤独な不良少年シャオペイ(イー・ヤンチェンシー)。
映画はお互いが置かれた不遇な立場と、それゆえに心の拠り所として寄り添っていく過程を瑞々しく描いていきます。
しかし中盤、そうした青春映画的な情緒を巧みに保ち得ながらも、ある事件が勃発してしまうことから、後半はサスペンスフルな展開へとなだれ込んでいくあたりも実に妙味。
一方で、イジメをモチーフにした作品は日本でも(残念なことに!)今や珍しくも何ともありませんが、本作の場合、やはり熾烈な受験戦争が大きく影響を及ぼしているあたりも本作は隠さず描出できていて、さながら軍隊の訓練かと見まがうような全体主義的な色合いの異様さは、意外に自国の人々は気づいていないのかもしれません(日本も1980年代の受験戦争期、これに似た光景はあれこれ見受けられたものです)。
中国では「13億人の妹」とも称される若手女優チョウ・ドンユイ(どことなく元乃木坂46の生駒里奈にも似た面影を感じてしまいました)と国民的アイドルにして演技派イー・ヤンチェンシーの存在感だけで映画料金の基は十二分にとれるほどですが、ヒロインをイジメる美少女役・周也の可愛さ余って憎さ100倍ぶりも特筆すべきものがありました。
監督は香港映画界の個性派名優エリック・ツァンの息子デレク・ツァン。映画監督という形で親の映画的「血」を受け継いだとしか言いようのない見事さです。
第39回香港電影金像奨で12部門候補となり作品賞をはじめ8部門を制覇するなど、現在までに50以上の映画賞を受賞し続ける秀作。
実はエンドタイトルのみ個人的に違和感を覚えたのですが、その違和感もまた現代中国の現実をリアルに物語っていると言えるでしょう。
●2021年7月16日より新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマほか全国公開
配給:クロックワークス
監督:デレク・ツァン
出演:チョウ・ドンユイ、イー・ヤンチェンシー
–{4作品目は…}–
『共謀家族』
1000の作品を見てきた映画マニアとその家族が挑む決死の完全犯罪!
こちらも中国映画で、興収21週トップ3入りを果たした大ヒット作ですが、舞台はタイ北部の中華系移民街で、タイに帰依しない一般層と帰依した富裕層の家族双方の闘いを描いたサスペンス映画です。
主人公は、今までに1000本の作品を見たと豪語する映画マニアのリー(シャオ・ヤン)。
正直、映画マニアの中には「いやいや1000本なんて少ないでしょ」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、それでも彼が説く「映画を1000本も見れば、世界にわからないことなどない」には大いに共感できることでしょう。
そして本作は、彼の長女ピンピン(オードリー・ホイ)が警察署長ラーウェン(ジョアン・チェン)の愚劣極まるバカ息子に薬を盛られてレイプ&脅迫された果てに誤って死なせてしまったことから、リーが家族全体で罪を隠蔽すべく画策していきます。
しかし盲愛する息子が行方不明になったことにおののく一方で「1000の事件を研究してきた」と自負する冷徹な鬼でもあるラーウェンは、またたくまにリー家族に疑念の目を向け、取り調べを開始。
本作は前半で事件のあらましとリーの行動を、中盤からリーVSラーウェンの丁々発止の戦いへと移行していきますが、時間が経てば経つほどにそのサスペンスがスリリングな情感を伴っていき、ついにはクライマックスの土砂降りの名シーンへと行き着きます。
リーが愛してやまない『ショーシャンクの空に』(95)や韓国映画『悪魔は誰だ』(14)などのエッセンスを活かした犯罪計画、かたや我が子可愛さのあまり非道へ走る署長からは日本映画『人間の証明』(77)ヒロイン(岡田茉莉子)とも共通するおぞましさと哀しみの双方が醸し出されていました(『人間の証明』も中国で大ヒットしています)。
実は本作、現在日本でも公開中の『唐人街探偵 東京 MISSION』と実は無縁ではなく、サム・クワー監督は『唐人街探偵』シリーズにずっと参加しており、シリーズ監督のチェン・スーチェンから本作の脚本を渡された事から企画が始動している由。リー役のシャオ・ヤンもシリーズに出演しており、次女役のチャン・シーランは『TOKYO MISSION』で長澤まさみの少女時代を演じています。
また『ラストエンペラー』(88)『サルート・オブ・ザ・ジャガー』(89)などでおなじみの名優ジョアン・チェンですが(こんなにおっかない役を演じるなんて!)、今回家族の長女ピンピンを演じているオードリー・ホイは、何と彼女の次女なのでした!
なお、本作は中国での大ヒット受けて、現在『誤殺2(原題)』が発表され、2022年公開予定。主演のシャオ・ヤンほかジャニス・マン、チョン・ブイの名前が挙がっていますが、内容に関してはまだ不明とのこと。
またインド・マラヤーラム語映画『DRISHYAM』(13)のヒンディー語版リメイク『ビジョン』(15/Netflixで鑑賞可)のこれまたリメイクであるという本作、なぜ舞台を中国国内ではなくタイ北部に据えているのか、中国の現状を鑑みていくといくつか興味深い事象にも気づかされるでしょうが、それはまた別のお話として、ここでは映画マニアだからこそ考え抜いた家族救済ミッションおよび被害者と加害者双方の家族の悲劇に心を寄せてみてください。
●2021年7月16日より新宿バルト9ほか全国公開
配給:インターフィルム&アークフィルムズ
監督:サム・クァー
出演:シャオ・ヤン、ジョアン・チェン、タン・ジュオ
–{最後の作品は…}–
『SEOBOK ソボク』
人類初のクローンをめぐる生死の問題をエンタメ要素盛り沢山で描いた快作
クローンを巡るSFポリティカル・サスペンス・サイキック・アクション&バディ・ロードムービーという、てんこ盛りもここまでくれば大したものと唸らざるを得ない韓国映画の快作。
さらには監督が建築と男女の恋愛を巧みに融合させた『建築学概論』(12)のイ・ヨンジュなので、今回も実にしっとりした情感を漂わせたアーティステックな構えも成されており、まさに全方向から楽しめる(ないのは男女の恋愛要素くらい?)真のエンタテインメントともいえるでしょう。
また主人公は余命宣告を受けた元情報局員ギホン(コン・ユ)と、通常の人間の2倍の速さで老いてしまうものの薬でそれを制御することで永遠の命をものにできるクローン人間ソボク(パク・ボゴム)。
テロリストの襲撃に端を発するふたりの逃走から始まる連帯は、単にバディもの特有の友情めいた情緒を醸し出すだけでなく、死にたくない者と死ねない者の対比が濃厚に浮き彫りになっていくという秀逸な効果までもたらしてくれています。
またそれは同じく不老不死をモチーフにした現在公開中の日本映画『ARC アーク』とも共通した死生観を漂わせており、つきつめて考えるとそれは凡アジア的な生命の思想に辿り着くのかもしれません。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)で日本でも人気を得たコン・ユは今回死を目前に控えた設定ということもあって10キロの減量を経て撮影に臨んだとのことですが、そのげっそりした風情はキャラクターの悲哀感にも大きく貢献しています。
韓国国内のみならず今やアジア全域の人気スター、パク・ボゴムの純粋無垢なクローンとしての、文字通りソボク(素朴)な立ち振る舞いの数々と、それゆえのクライマックスの……おっと、ここから先はネタバレ厳禁!
いずれにしましても、昨今の波に乗るコリアン・ムービー・パワーをまたしても痛感させられる快作です。
●2021年7月16日より新宿バルト9ほか全国公開
配給:クロックワークス
監督:イ・ヨンジュ
出演:コン・ユ、パク・ゴモム
(文:増當竜也)
–{他にもこんな作品が公開}–
他にもこんな作品が公開
2021年7月16日 公開
『竜とそばかすの姫』
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『SEOBOK ソボク』
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『プロミシング・ヤング・ウーマン』
『17歳の瞳に映る世界』
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『ファイナル・プラン』
『共謀家族』
『劇場版 クドわふたー』
『少年の君』
『ダルバール 復讐人』
『星空のむこうの国』
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『リスタート』
2021年7月17日 公開
『ウェンディ&ルーシー』
『オールド・ジョイ』
『クレストーン』
『劇場版 怪談百物語』
『サンマデモクラシー』
『ジャッリカットゥ 牛の怒り』
『ヴィクトリア』
『ミークス・カットオフ』
『リバー・オブ・グラス』
2021年7月18日 公開
『ラン・ハイド・ファイト』
2021年7月19日 公開
『三眼ノ村 黒魔術の章』
『三眼ノ村 輪廻の章』