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■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

以前某お笑い番組の中でハーフ芸人が一堂に集って、ハーフならではの自分たちのあるあるネタを面白おかしくしゃべって笑いを誘うものがあり、こちらもそのときは楽しく笑いに誘われながら見ていたものの、たとえば「『英語しゃべれないの?』って驚かれるけど、俺、日本で生まれて日本で育ったから、しゃべれるわけないんですよ」などと言ったときの彼らの一瞬悲哀に満ちた表情などが、妙にその後も心に引っかかるものがありました。

本作はまさにそんな「ハーフ」と呼ばれる人々の複雑な想いを素直に綴った作品として、見過ごせないものがあります。

私などが小さな頃(1970年代の頭くらいかな)までは「混血児」と呼称され、それが差別やイジメの一因にもなっていることから「ハーフ」が一般的になっていったものの、1990年代からはそれも「半分」という意味の差別用語ではないかという声、一方でふたつのルーツを持つという意味での「ダブル」という呼称も用いられるようになったものの、これまた人によって違うものとして疑問視する声も多いのは事実です。

本作では「ハーフ」と呼ばれることを嫌っては「ダブル」と訂正する春樹(サンディー海)と、ハーフと呼ばれても躊躇しない代わりに「俺は日本人や」と当然のように公言する誠(川添ウスマン)の、それぞれの葛藤が描かれていきます。

もっとも、答えが安易に提示されるようなことは一切なく、観客ひとりひとりに委ねられることで、こちらも何か大切な課題を突き付けられた想いに捉われていきます。

それはハーフ(半分)かホール(全部)かということのみならず、たとえばLGBTQなどの要素も含めて、それぞれの人がそれぞれのアイデンティティに対していかに対峙していくべきかという、これからの21世紀をいかに乗り切っていくかにも関わる重要な問題としても目を見開かされるものがありました。

監督・編集は日本生まれ、日本育ちの川添ビイラル、脚本・主演は川添ウスマンの兄弟。

44分の中編作品ですが、2時間越えの大作に負けることのない真摯なメッセージの描出を、多くの人に体感していただきたいと願います。

(文:増當竜也)

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『WHOLE/ホール』作品情報

【あらすじ】
ハーフの大学生、春樹(サンディー 海)は親に相談しないまま、通っていた海外の大学を辞め、自分の居場所を見つける為、生まれ故郷である日本に帰国する。だが、日本に着くや否や、周囲から違うものを見るような目に晒され、長年会っていなかった両親からも理解が得られない。そんなある日、春樹は団地で母親と二人暮らしを送る建設作業員でハーフの青年・誠(川添 ウスマン)と出会う。“ハーフ”と呼ばれることを嫌い、“ダブル”と訂正する春樹とは違い、うまくやっているように見える誠だったが、実は国籍も知らず、会ったことのない父親と向き合うことができないという葛藤を抱えていた。様々な出来事を通して、彼らは“HALF/半分”から“WHOLE/全部”になる旅を始める……。 

【予告編】

【基本情報】
出演:川添ウスマン/サンディー海/伊吹葵/菊池明明/尾崎紅/中山佳祐/松田顕生

監督:川添ビイラル

脚本:川添ウスマン

撮影監督:武井俊幸