伊丹十三監督全10作品の4Kデジタルリマスター版を上映する「日本映画専門チャンネルpresents 伊丹十三4K映画祭」を開催中の東京・TOHOシネマズ日比谷で6日、『大病人』上映記念イベントが行われ、伊丹監督を心の師匠と仰ぐ映画監督の山崎貴氏が登壇した。
-
山崎貴監督 撮影:蔦野裕
伊丹監督から受けた2つの影響「免罪符にしてます」
伊丹監督とは『マルサの女2』の製作時に出会ったという山崎監督は「主人公が悪夢を見るんだという、それをVFXでやりたいという話がうちの会社に来て、僕は映画があったらやらせてくださいとアピールしていました。これは山崎で良いんじゃないかっていう話になり、社長と一緒に伊丹さんのところに行ったという感じです」と経緯を説明。
「伊丹さんは(役者の時は)結構怖い役をやっていたので、怖いな~と思いながら行ったんですが、めちゃくちゃ優しい人で。すぐに絵を描いてくれて、“こういう巨大な崖があってそれを1人の男が一生懸命支えるんだけど支えきれなくてズルズル滑っちゃうんだ”という話をしてくれたんです。面白い仕事が来たなと思いながら伊丹さんのギャップにヤラれちゃいまして、頑張って良い仕事をして褒めてもらいたいと思いながら始めました」とハマったという。
その時の仕事は「崖が崩れていくのと、崖が呼吸しているみたいな感じ」と2つのオーダーがあったそうで、「呼吸する岩が難しくて70%の労力を使っていましたが、呼吸するやつはいらないと言われました(笑)」と苦笑い。それでも、「ちょっと残念な気持ちになりましたが、喜んでくれたのでやって良かったなと思いました」といい、“崩れていく”ものの出来栄えについては、伊丹監督も大満足だったようだ。
当時から伊丹監督はVFXに興味を持っていたといい、「全体的に新しいものが好きでしたね。どういうことができるのかすごく興味を示してくれました」と山崎監督の話に耳を傾けたという。2人は31歳の年の差があったが、「全然怒らなかったですね。現場は恐ろしいぐらい和やかで笑い声が絶えませんでした。怒ったところを見たことがありませんでしたよ」と終始笑顔で接してくれたと回想。「ただお弁当だけは1人で食べているんですよ。何で一緒に食べないのか分からなかったです」と不思議に感じていたそうだ。
山崎監督は、2000年公開の映画『ジュブナイル』で監督監督としてデビュー。以降は『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ、『ゴジラ-1.0』など次々と話題作を世に送り出している。
映画監督として伊丹監督に影響されたことは2つあったといい、「1つは若い子たちの意見を聞いてくれたので、これは真似したいなと思いました」と挙げ、もう1つは「伊丹さんはセットの装飾とかいろんなことに手を出すんです。あの人はデザイナーでしたからね。そういうことに対してこだわりがあったので、監督がこういうことをやっても良いんだと、自分の中で伊丹さんもやっていたからと免罪符にしています」と明かした。
-
日本映画放送の宮川朋之氏(左)と山崎貴監督
「伊丹十三4K映画祭」の開催は「本当にうれしいこと」
映画ファンから好評である「伊丹十三4K映画祭」については、「何よりお客さんがたくさん入っていると聞いてうれしかったです」と自分のことのように喜び、「伊丹映画が蘇って、たくさんの人たちに見てもらえるというのは本当にうれしいこと。もっともっとたくさんの人たちに伊丹映画というものがあったんだと、すごい映画があったんだということを広めてもらいたいと思います」と観客にアピールする。
続けて、伊丹映画の魅力にも言及し、「伊丹さんはアートムービーではなくエンタメを作っていました。とても超えられない、すごいなと思うのは、題材とエンタメの結びつけ方。どれを見ても普通の人が絶対エンタメにできないものがエンタメになって、しかもめちゃくちゃ面白い。“税務署の人たちを主人公にしてエンタメ作ってください”と言われても絶対に無理ですから」と称賛。特に『スーパーの女』について、「卑怯なことをしてお金を稼ごうとする人に全うなことをして対抗するという話って、何でこんなに面白いんだと思いましたね」と衝撃を受けたという。
そんな伊丹監督に憧れる山崎監督は「本当にすごい頼れる存在でした。僕も頼れる感じになりたいと思っています。包み込むような感じがあったんですよ。監督っていうのはこういう感じなんだよっていうのはすごい思いましたね」と、在りし日々を懐かしそうに振り返っていた。
「日本映画専門チャンネルpresents 伊丹十三4K映画祭」は、TOHOシネマズ 日比谷・梅田で3月から開催中で、全10作品を4K最高画質で1週間ずつ上映。また日本映画専門チャンネルでは、伊丹映画全10作品を4K最高画質で、5月に一挙放送する。
「伊丹十三4K映画祭」の今後の上映スケジュールは、以下の通り。
『大病人』4月4日~10日
『静かな生活』4月11日~17日
『スーパーの女』4月18日~24日
『マルタイの女』4月25日~5月1日