岡田准一×綾野剛×藤井道人監督のタッグで話題を呼んでいる映画『最後まで行く』(公開中)。2014年に公開された韓国映画をリメイクした同作は、ひとつの事故を発端に、極限まで追い詰められていく刑事の姿を描いたクライムサスペンスで、二転三転する状況と岡田&綾野のハードな対決が見どころとなっている。

今回、同作に出演する広末涼子にインタビュー。広末は、刑事・工藤祐司(岡田)の別居中の妻で、一人娘を育てながらも工藤との関係に苦悩している工藤美沙子を演じる。主演の岡田とは約20年ぶりの共演で、藤井組の熱さも感じたという今作にういて、また自身が仕事で心掛けていることについても話を聞いた。

  • 広末涼子 撮影:宮田浩史

    広末涼子 撮影:宮田浩史

■監督に尋ねた「どうして…」

――今作について、広末さんも「すごい作品になった」とコメントを寄せていましたが、どういうところにすごさを感じたのか教えていただけますか?

初号で観た後に、現実世界で2人(岡田&綾野)がご健在で本当によかったと思いました(笑)。アクションが激しすぎて、ノンストップエンターテイメントと謳われている通りで。私は普段、あんまりアクション映画を観ないので、息するのを忘れていたので、観慣れてない方には「ちゃんと息をしてください」と言いたいです(笑)

撮影現場のスピード感もすごかったんです。私がクランクインしたときはすでにある程度アクションのシーンが撮られていたので、監督が短く編集されている映像を見せていただきました。スピード感、光、音、世界観、すべてにわくわくしました。しかも監督は撮影しながら同時進行で編集してまとめていて、途中から参加する私にも全体の雰囲気や温度感がわかるように見せてくれて、初日から勢いや熱量を感じさせてもらったんです。

――藤井監督も乗りに乗っているし、チームのすごさを感じられたのでしょうか?

勢いのある監督さんとチームだからこそできる作品なんじゃないかなと思いました。ここまでハードな現場も久しぶりに体験した気がします。熱量を持って全力で挑んでいるスタッフさんたちがいて、アクションはもちろんのこと、気の抜けないシーンの連続が多く、集中を切らしたら怪我や事故につながるので、一致団結していました。

――岡田さんとは、2000年のドラマ『オヤジぃ。』(TBS系)以来久々の共演で夫婦役とのことですが、印象の変わった部分などはありましたか?

もう本当に、大きくなって(笑)。完全に厚みは出てるんですけど中身は全然変わっていなくて、あの頃のままで。随分お会いしていなかったのに、懐かしく、幼馴染に会ったような気持ちでお芝居ができました。歌番組や他の現場で少し会うようなことはあっても、共演するのは20年ぶりくらい。緊張感や探り合いみたいなこともなく、やっぱり同世代感、同じ時代を生きてきたことが大きいんだろうなと思います。

――お二人だからこそ、しっくりくる夫婦感があったように思いました。

大丈夫でしたか? 私は台本の時点で、美沙子がどうしてこんなに怒ってるのかがあんまりわからなくて(笑)。もちろん、お母さんが危篤なのになかなか病院に来ないとか、お葬式の場で遅れてくるとか、工藤がひどいところはあるんですけど……。だから監督に「美沙子が工藤を焦らせたり、イライラさせたりするのは、彼が追われているという緊迫感を煽る要素の一つですか?」と聞いたんです。

そしたら監督が「そうではないんです」と、映画の中で描かれていない夫婦の物語や美沙子の生きてきた背景を説明してくださって。「出会った時にこういうことで救われたんだけど、例えばこんなことで裏切られてきて、こんなこともされてきたから、もう期待もしていない」と。とてもありがたくて、納得してお芝居ができました。それでも現場では「もっと酷くしていいです」と言われたので、岡田さんと久しぶりの共演だったのに、冷たい目線ばっかりぶつけていて、芝居とはいえ申し訳ない気持ちでした。

――じゃあ、あまり夫や父親としての工藤にツッコミをいれるようなことはなかったんですか?

そう言われれば、自分の夫がこの人だったら嫌です(笑)。本当に、困った人ですね。でもそれもわかってて美沙子は必要としているんだろうなと理解しています。

■幼かった時からプロフェッショナルな人たちを見て来た

――例えば最近だと朝ドラ『らんまん』での母親役などもあり続いていますが、実際に母親としての経験が活きることはありますか?

「母親だからこそ」みたいなことを言われたりもしますが、私はあんまりそこは考えたことがなくて。子どもがいるいないに関わらず、素晴らしい母親を演じられる方はたくさんいらっしゃいます。自分の経験を反映するというより、その物語に入りたいと思っているのであまり意識していないです。とはいえ「娘が誘拐された」なんてシチュエーションは、その一言を聞いただけでも、悪寒が走る感覚があります。頭で考える前に体が反応するくらい感情的になるところがあるので、自分の子どもと照らし合わせているところはあるのかもしれません。

職業病かもしれないんですけど、お芝居をしていると物語の中で非日常的な出来事が起こるので、自分の生活でも心配症になってしまうところがあります。周りのママが気にしていないようなことも、気になってしまったり。例えば、芝居ではしょっちゅう「死」を経験していて。でも、だからこそ生きていることのありがたみや日常の幸福感に対して、余計敏感になれるのかもしれません。今回演じた美沙子も、警官の妻だからこそ、夫に危険が迫ることも実感しているだろうし、非日常の中で生きているという点では、似ている部分があるのかなと思いながら演じていました。

――物語で体感しているからこそということですね。職業病というお話もありましたが、いつもお仕事で心掛けていることはありますか?

常に全力投球。手は抜かない、努力は怠らない。そこは絶対に心がけています。やっぱり自分がなりたくてなった女優という職業に就いて、小さい頃から夢だったステージに立たせてもらってる以上、最善の形で自分を送り出したいし、作品の力になるような素材でありたくて、できる限りのことはしたいという気持ちで挑んできました。

もちろん自分が納得いかなかったこともあるし、反省したこともあるけど、全力でやったら、「できなかった」と思ってもそれはその時の自分の実力だから、次の機会で成長するように頑張ろうと思えるじゃないですか。でも、そこで手を抜いてしまっていたら、「なんでもっとやらなかったんだろう」と後悔につながってしまう。大好きな仕事だからこそ、全力でと思っています。

――これだけのキャリアを持ちながら、ずっと全力でできるのもすごいです。

まだ幼かった時からプロフェッショナルな方たちとお仕事させてもらって、かっこいい大人をたくさん見てきているんです。役者さんたちはもちろんのこと、技術部さんなどのスタッフの方たちも含めて、皆さん方が仕事に挑む姿勢や技術を見ていると感化されるし、自分も上手くなりたい、役に立ちたいと思うようになりました。

だから逆に、今は自分がもう若い方から見られてる方の立場だと思うと、失敗できないからちょっと嫌で(笑)。女優って評価として何か点数つくわけじゃないし、年齢を重ねたからって偉くなるわけでもないんですけど、キャリアや年齢的に、失敗しない前提でキャスティングされていると思うと……。自分の芝居に精一杯になってる場合じゃなくて、若い子とどう関わるかとか、全体のフォローに協力できるかとか、それを考えなければいけない立場になってきたんだと感じています。

――ちなみにご自身の若い頃、大学の時などの思い出や得たものはありますか?

早く仕事を始めさせてもらったけど、自分の世界を仕事だけにするのは怖くて、大学進学を決めました。学生時代の友達は本当に財産で、価値観も似ているし、一生ものです。今はみんな子育てをしているから、共通の話題と価値観をもとに情報交換もできるし、人間性もわかっている親友たちと出会えて、自分はラッキーだなと思います。住んでいるところや選ぶ進路が違っても、大切にしているものが一緒だからなんだか心強いです。

■広末涼子
1980年7月18日生まれ、高知県出身。1994年にCMオーディションでグランプリを受賞し、ドラマ、映画、音楽等多岐にわたって活躍。近年の主な出演作にドラマ『ユニコーンに乗って』(22年)、連続テレビ小説『らんまん』(23年)、『グレースの履歴』(23年)、映画『コンフィデンスマンJP』シリーズ(20年~)、映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』(22年)、『あちらにいる鬼』(22年)など。