芥川賞作家・綿矢りさ氏による同名小説の実写化映画で昨年10月に劇場公開された『ひらいて』が、1日にTELASAで配信された。
恐れを知らない女子高生・木村愛(山田)。同じクラスの男子・西村たとえ(作間龍斗)に片思いしていたが、彼が糖尿病の持病を抱える少女・新藤美雪(芋生悠)と交際していると知ったことから奇妙な三角関係が始まる。恋心が暴走し、意中の彼の恋人にまで向けられるエキセントリックでありながらも切実な純愛が描かれた同作。今回は山田、作間、芋生の3人に、それぞれの役どころに共感した点や、注目してほしいシーンを聞いた。
■キャスト陣が読み解く愛、美雪、たとえ
――まずは皆さんが演じた役について教えてください。山田さんは、マネージャーさんに「この役、合いそうだよ」と言われていたとのことですが。
山田:マネージャーさんが原作を読んだときにそう思ったらしいのですが、まったく別のところで映画化を進めていた首藤凜監督も私を愛役に考えてくださっていたみたいで。演じる役と自分の性格は別だという前提がありつつも、私はマネージャーさんや首藤監督が何を思ってそう言ってくれたのか、私のどこに通ずるものがあるのか見つけられないくらい愛を理解できませんでした。それでも自分の衝動や欲望のまま、なりふり構わず行動できるところは愛の魅力だと感じたので、撮影の最後まで愛がブレないよう悩みながら演じました。
――続いて、芋生さんはオーディションで美雪役を勝ち取ったとのことですが、オーディションで作り上げた美雪像は、首藤監督と話して変わっていきましたか。
芋生:私は愛ちゃんに感情移入しながら原作を読み進めた“愛ちゃん派”だったので、美雪はどんな子なんだろうとイチから考えました。原作での美雪にはミステリアスで実体がない印象を持ちましたが、オーディションで演じてみると人間味を感じられるようになって、だんだん肉付きのある存在に変わっていきました。美雪は自立していて、自分を喜ばせる方法を知っているたくましい子ですが、もともとそういう性格だったわけではなく、1型糖尿病で苦しんでいるときに家族や物にぶつかってしまった過去があったから今がある。監督とも多くは話していませんが、準備期間に監督がどういう美雪を求めてるのかを考えながら作っていきました。
――作間さんは初めて現場に入ったとき、首藤監督から「たとえとして現場に来てくれた」というお言葉を頂いたそうですね。
作間:演技経験が多いわけではないので、撮影初日にそう言ってもらえて本当にうれしかったです。たとえくんは、安心安全を確立した生活圏を自分で確保している人。愛みたいな危険人物が来たら拒んで、美雪みたいな信頼できる人は大切にして、必要最低限で生きているなと。学校に行く目的も勉強だけ。口数は少ないですが、すごく色々考えている少年だと思います。
■役柄への共感ポイント
――作間さんがたとえに共感できるのはどんなところですか。
作間:人の侵入を拒むところです。いいことではないと思いますが、僕もズカズカ来る人が苦手。面倒ごとがすごく嫌いで、何か起こりそうだったら自分からストップをかけてしまうところに共感できました。たとえの1つひとつの言動が理解できたので、すんなり演じることができたと思います。
――一方、愛を「分からない」と言っていた山田さんですが。
山田:誰かを好きになって、仲を深めたい、自分のものにしたいという欲望は誰もが持っているものだと思います。その感情が分かるからこそ、行動に移してしまえる愛の強さがよく分からなくなってしまって。私は「これをしたらどうなるのかな」と考えてから行動するタイプなので、愛の自信はどこから来るんだろう、いや、自信なんて持っていないのになりふり構わず行動してしまうのかなとか、ずっとぐるぐる考えていました。完成した物語の中で生きている愛を見ると、演じていたときと比べて少しは愛情を持てたんですけど。やっているときは愛が怖かったので、一歩引いた今のほうが愛に共感できる部分が生まれた気がします。
――芋生さんが美雪に共感できるポイントはありますか。
芋生:美雪には、愛ちゃんがぶつかってきたときにすんなり受け入れられる懐の深さが備わっている。過去に愛のような経験があるから、自分のことを愛せるし、人に愛を与えることができるという強い人ですよね。私もそんな人になりたいなと思いましたし、完成した映画を見ると、美雪がより一層敵わない女性になっていて羨ましいなと感じました。今までお芝居をするときは自分の役について考えることが多かったですが、美雪は常に愛ちゃんとたとえのことが気になっているので、美雪を演じるにあたって、自分のことより人のことを考える時間を過ごしました。
■注目してほしいシーン
――3月より配信が始まり、気に入ったシーンを何度も見たりと配信ならではの楽しみもできるようになりましたが、「ここは何度も見てほしい」「特に注目してほしい」というシーンを教えてください。
芋生:愛と美雪がカラオケに行くシーンです。微笑ましくてかわいい。初めて友達とカラオケに行ったときの緊張感を思い出します。
山田:愛が橋の上で美雪にこれまでのことを打ち明けるシーンは、お芝居をしていて楽しかった。陽も良かったよね。
芋生:ちょうど陽が落ちる直前だった。
山田:陽の照り具合がちょうど良くて。
芋生:その間にいいものを撮ろうと、全員がぐっと集中して臨んだ撮影だったな。
作間:僕は、愛が鶴の飾られた木を蹴り倒すところ。見れば見るほど爽快感が重なっていくシーンだと思います。
山田:実は私の脚力では倒せなくて、スタッフさんが糸を引いてくれて出来上がったシーンなのですが(笑)、気持ちよかったです。
――3人がそろうたとえの家でのシーンも印象的でした。たとえの父を演じた萩原聖人さんのお芝居や、あのシーンのエピソードがあれば教えてください。
芋生:愛、美雪、たとえの3人がそろうのは初めてとなるシーン。美雪としては愛もたとえも心配で、守らなきゃという気持ちもあって、でもお父さんが怖くてガードを張っている感じでした。萩原さんのお芝居がすごくて、独特の怖さがありましたね。かまぼこがもう……。
山田:切り方もすべてが怖かった。
作間:あれはやばかった。切れ味、悪そうだったね(笑)。
芋生:お父さんを見るのが怖くてずっとかまぼこを見ていたので、かまぼこがトラウマになってしまいました(笑)。
山田:愛にも美雪が大切だという意識があったので、美雪を守らなきゃと思いながらお芝居をしていました。愛が自分以外のために動くことで、人間味が出てきたのかなと。そして、お父さんに通じるものを感じた愛にとって、拳を向けたのは自分自身でもある、そんなシーンです。あとは萩原さんの水の掛け方が上手で、さすがすぎて……。
作間:そう。上手すぎた!
山田:服とかは濡れてないんですよね。プロだなと思いました。
作間:包丁も出てくるし怖いシーンなのですが、よく考えたらクスッとできるポイントが多いんですよね。美雪が醤油もつけず、しぶしぶかまぼこを食べるところとか。
一同:(笑)。
作間:大先輩・萩原さんの演技を見せつけられたシーンでした。水をかける場面についても話をしましたが、ああいったお芝居も「人生を積んでいくと分かるようになってくるよ」とアドバイスを受けて、さすがだなと感じました。
(C)綿矢りさ・新潮社/『ひらいて』製作委員会、配給:ショウゲート