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■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』が1月7日より劇場上映、8日よりオンライン上映が始まりました。

海外SFドラマ・ファンならずとも世代的にワクワクされている方はさぞ多いことと思われますが、一方ではCMなどで映像が使われているのを見たことがあっても、具体的にどんな作品なのか御存知ない若い世代の方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。

今回は「サンダーバード」の基礎知識的なことを踏まえた上で、今回の『サンダーバード55/GOGO』の魅力、さらにはそのクリエイターであるジェリー・アンダーソンの世界にも言及していければと思います。

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世界中のSF特撮に
多大な影響を与えた名作

まず「サンダーバード」とは、1965年9月30日から1966年12月25日にかけてイギリスで放送された、人形を用いた“スーパーマリオネーション”テレビSF特撮ドラマ(各話オリジナル50分/全32話)です。

日本では1966年4月10日から1967年4月30日までNHKで日本語吹替版が放送されました(全32話+16回の再放送)。

時は21世紀半ば、世界各地で発生する事故や災害の危機から人々を救うべく、秘密組織・国際救助隊“IR:International Rescue”が活躍するというもの。

創設&指揮するのは大富豪ジェフ・トレーシーで(軍隊を経て土木建築業で成功というキャリア)、その5人の息子たちがそれぞれ任務にあたります。

●スコット・トレーシー(頼もしい長男)
:サンダーバード1号(超高速偵察救助支援航空機)

●ジョン・トレーシー(天文学者の次男)
:サンダーバード5号(通信用大型宇宙ステーション ※アランと1か月交代で勤務)

●バージル・トレーシー(芸術肌の三男)
:サンダーバード2号(超高速大型輸送機)

●ゴードン・トレーシー(金メダリストの四男)
:サンダーバード4号(海難救助作業用原子力潜水艇)

●アラン・トレーシー(宇宙飛行士の五男)
:サンダーバード3号(宇宙救助活動用短弾式ロケット ※ジョンやバージルが操縦することもあり)&5号

これに英国貴族出身の秘密諜報部員レディ・ペネロープ・クレイトン=ワードと、元暗黒街の金庫破りで今は彼女の有能で忠実な執事アロイシャス・パーカーが国際救助隊ロンドン支部の諜報員として協力。

彼女らが乗るピンク色のロールス・ロイス“FAB1(ペネロープ号)”も人気の高いメカです。

こうした斬新なメカ・デザインの数々に加え、南洋の孤島トレ-シー・アイランドに彼らの巨大秘密基地が設けられていることも、その後世界中のSF特撮に多大な影響を与えました。

日本でも「ウルトラセブン」ウルトラ警備隊の設定をはじめ、数多くの特撮作品の基地&メカデザインなどに、その影響が大きくうかがえます。

その一方で「サンダーバード」はキャラクターに人形を用いたスーパーマリオネーションとして制作されていることも話題を集めました。

これは製作者のジェリー・アンダーソンが陣頭に立って開発し続けてきたもので、新作を重ねるごとに人形の精度も上がり、「サンダーバード」では台詞と同時に人形の唇が動くリップシンクロ装置によって、よりリアルな作品世界に入りやすいものになっています。

キャラクター個々の衣裳にも細心の気配りが成され、さらには背景美術など実にゴージャスで、そのまま実写映画に採り入れたくなるほど秀逸な仕上がり。

こうしたキャラクターたちのドラマとメカ特撮が見事に融合、さらにはバリー・グレイ作曲の勇壮な音楽に乗せながら、「サンダーバード」はイギリス本国はもとより世界中で人気を博し、現在に至ります。

1966年には『サンダーバード劇場版』、1968年には『サンダーバード6号』と2本の劇場用映画が製作されました。

時を経て2004年には、生身の人間の俳優でリメイク映画『サンダーバード』も製作。

また2015年から2020年にかけて3DCGによるリブート・シリーズ「サンダーバードARE GO」が放送されました。

当時の技術で作りあげた
『サンダーバード55/GOGO』

このように「サンダーバード」人気は初放送から55年の時を経ても熱狂的なファンによって盛り上がるのみ。

日本でもかつてフジテレビ系列の1990年代伝説のマニアックTVクイズ番組「カルトQ」でサンダーバード・マニアが集まって激戦を繰り広げたことも、記憶に鮮明に残っています。

「とんねるずのみなさんのおかげです」や「~おかげでした」でも、時々パロディをやってましたね。

さて、今回の『サンダーバード55』はそんなサンダーバード・マニアな人々が、何と当時のスタイルのまま新作を作ってしまった(しかも当時のスタッフまで動員して!)正真正銘のスーパーマリネーション作品です。

ストーリーは当時発売されていたレコード・ドラマを基に、3話のエピソードをクラウドファンディングで制作。

これを日本では、やはり大のサンダーバード・ファンを自認する樋口真嗣が1本の映画として構成。

具体的には、本作がどうやって生まれたのかを解説していくイントロダクションや、各話間ではウンチクの披露(中には「謎の円盤UFO」にもオマージュを捧げるべく、矢島正明を起用してオープニング紹介!)、そしてカーテンコールは日本語版「サンダーバードマーチ」を流すという粋な計らい!

また今回は半世紀以上ぶりの新作ということで、声優もリフレッシュされていますが、その中で特筆すべきは、オリジナル版での吹替は黒柳徹子だったペネロープの声を、かつて彼女の半生をつづった2016年のテレビドラマ「トットてれび」で黒柳を演じた満島ひかりが演じていることでしょう。

初代・黒柳から受け継いでの満島ペネロープの声は何ら違和感もなく、初々しくよみがえった感慨すらあります。

彼女と執事パーカーを演じる井上和彦とのユニークなやりとりからは、実に自然な主従関係が醸し出されている!

そう、特に今回の3つのエピソードの第1話「サンダーバード登場」は、ペネロープたちがトレーシーアイランドを訪れて国際救助隊の存在を知り、協力に応じるという、これまで「サンダーバード」を見たことのない方でも入門編として実に入り込みやすいものになっているのでした。

また本作の後には、コロナ禍でロックダウン中のイギリスで製作された最新スーパーマリオネーション作品『ネビュラ75特別版』が併映されています。

CG流行りの昨今ではありますが、こうしたアナログ特撮の伝統も受け継がれていっていただきたいものです。
 

ジェリー・アンダーソンの
偉大なる功績

最後に「サンダーバード」の生みの親ジェリー・アンダーソン(1929~2012)についても軽く触れておきましょう。

1955年にイギリスで映像制作会社APフィルムズを設立した彼でしたが、すぐに経営困難に陥っていたところを低予算人形劇“The Adventure of Twizzle”(57)を制作依頼され、これが好評だったことから、以後操り人形にリアル感を出させながら特撮を盛り込む“スーパーマリオネーション”作品を1960年代に連打しながら技術開発を重ねていきます。

人形の造形や衣裳、声優などは、当時の夫人シルヴィア・アンダーソンが担当。

1964年「海底大戦争 スティングレイ」からはカラー作品になり(イギリスで製作された初の全編カラー撮影テレビ・シリーズで、日本ではフジテレビの本放送としては初のカラー作品!)、そして1965年、社名をセンチュリー21と改めて「サンダーバード」を発表し、これが世界的に大ヒット!

以後「キャプテン・スカーレット」(67)「ジョー90」(68)「ロンドン指令X」(69)とスーパーマリオネーション作品を発表していき、そのつど話題を集めていきます。

また1968年には実写SF映画『決死圏SOS宇宙船』を発表し(日本では劇場未公開ながらも、その後TV放送などで人気を得て、今やカルト作品!)、1970年の「謎の円盤UFO」からは実写SFテレビ・ドラマへスライドしていきました。

こうしたジェリー・アンダーソンの偉大なる功績は、現在も多くの作品がソフト化されていますので、機会があればぜひご覧になっていただきたいところですが、その最初の入り口として、まずは『サンダーバード55/GOGO』をとくとご堪能ください!

(文:増當竜也)

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『サンダーバード55/GOGO』作品情報

ストーリー
「サンダーバード登場」レディ・ペネロープはジェフ・トレイシーに招待され、執事のパーカーを伴い太平洋に浮かぶ秘密の島トレイシー・アイランドへ。そこでペネロープは、島に隠された驚くべき技術とサンダーバード1号から5号を目にした。エージェントとして大きな秘密を共有したペネロープが加わり、国際救助隊はついに本格始動する。「雪男の恐怖」ウラン工場が爆破され、炎上。時同じくして、国際救助隊はエベレストで雪男に襲撃され救助を請う通信をキャッチし、ペネロープに調査を依頼する。スキーコプターに乗り込んでパーカーと現場に向かうが、国際救助隊の宿敵フッドにより罠が仕組まれていた……。「大豪邸、襲撃」イギリスの大邸宅に強盗が忍び込み、貴重品を奪っては屋敷を爆破する事件が相次いで発生。ペネロープは、自分の屋敷もターゲットにされると予見。わざと屋敷を留守にして犯人たちをおびき寄せる作戦を決行するが、犯人たちに見つかり気絶してしまう。爆発の時間が刻一刻と迫る中、国際救助隊はペネロープを救出できるか?!

予告編

基本情報
出演:満島ひかり/井上和彦/大塚芳忠/森川智之/ 日野聡/櫻井孝宏/江口拓也/堀内賢雄/立木文彦

監督:スティーブン・ラリビエー/ジャスティン・T・リー/デヴィッド・エリオット

公開日:2022年1月7日(金)

製作国:イギリス