浅原ナオトの小説「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」は、2019年にNHK「腐女子、うっかりゲイに告る」としてドラマ化されています。
今回は121分の劇場用映画で、またもタイトルが原作と異なるものの、最後の最後まで見終えると、これがふさわしいものであったことが肌感覚で納得できてしまう秀作に仕上がっています。
同性愛者であることを隠す少年(神尾楓珠)と、彼を好きになってしまったBL愛好家の少女(山田杏奈)の交際から見え隠れしていくものは、決して下世話なものではありません。
逆に、未だに下世話な感覚でしかこの事象を捉えようとしない者たちに向けてのメッセージが、心にぐさりと刺さります。
一方で、現在は同性愛に対する偏見など、かなり薄れてきている感もなきにしもあらず。
ただし、実際のところそういうことを訴えている人々も本当はどこかしら「他人事」であるといった、これまた痛いところを巧みに追求していきます。
結論めいたことをお仕着せで描くのではなく、最終的には見る側の感性に委ねる方法論を貫きつつ、その上で作り手の想いを真摯に感じさせてくれるのは、この問題に対してストレートにぶつかっていこうとする草野翔吾監督の姿勢が、キャメラ・アイとして見事に具現化されているからでしょう。
その伝でも今回は高校生を演じるキャスト陣が総じて輝いているのですが、中でも素晴らしいのは山田杏奈!
先ごろ公開されたばかりの『ひらいて』に続く好演というか、もはや彼女なしにこの映画はありえないといっても過言ではないほどの存在感を示してくれています。
とにもかくにもひとつひとつの何げない仕草や台詞回しなど、全てにおいて自然体なのは奇跡的ですらあり、クライマックスに至っては大半の観客をぼうだの涙で包み込むこと必至!
普通であることとは一体何なのか?を改めて考えさせてくれるとともに、2021年は山田杏奈の年でもあったことまでも大いに納得させてくれるトドメの作品として、彼女のファンならずとも強くプッシュしておきたいと思います。
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(文:増當竜也)
『彼女が好きなものは』作品情報
ストーリー
高校生の安藤純は自分がゲイであることを誰にも告げずに生きてきた。ある日、純は書店でクラスメイトの三浦紗枝が、BLマンガを購入しているところに遭遇する。BL好きであることを秘密にしている紗枝は「誰にも言わないで欲しい」と純に口止めをする。純には妻子ある同性の恋人・誠がいるが、書店での遭遇をきっかけに、純と紗枝は急接近。紗枝の友人たちとダブルデートをしたり、クラスメイトと遊園地で遊んだりと仲を深めていくなか、純は紗枝から告白をされる。「自分も“ふつう”に女性と付き合い“ふつう”の人生を歩めるのではないか……」一縷の望みにかけるかのように、紗枝の告白を受け入れた純は、紗枝と付き合い始めるのだが……。
予告編
基本情報
出演:神尾楓珠/山田杏奈/前田旺志郎/三浦獠太/池田朱那/今井翼/磯村勇斗/三浦透子/渡辺大知/山口紗弥加
監督:草野翔吾
公開日:2021年12月3日(金)
製作国:日本