世界最大級のエレクトロニクスショー「IFA」に、今年は日本から大手家電メーカーのシャープが参加。商談を目的としたトレードビジター向けの展示スペースを特別に取材できる機会を得ました。同スペースではシャープが欧州で展開するスマートテレビにサウンドバー、同社製eバイクなどの注目製品が並んでいました。
ジャパン・クオリティのシャープ製eバイクを発見!
シャープはテレビや生活家電など、日本とは異なる機能や特徴を持つラインナップを欧州に展開しています。そもそも“シャープのeバイク”は日本にはありません。都市生活者のためのモビリティとして、シャープは欧州ではeスクーターと銘打つ電動キックボードを先に展開してきました。
「シャープが設計段階から深く関わりつつ、OEMパートナーと連携して開発した商品。ジャパン・クオリティの安全で快適なモビリティを看板に打ち出しながら、若いコンシューマーにシャープのブランドを浸透させる」ことが狙いなのだとシャープの担当者は語ります。
テレビという家電についても、世界各国で求められる機能や仕様は異なっています。欧州の場合は隣接する国々でどうしてもデジタル放送の仕様や視聴方法が異なり、あるいは生活者の居住形態が変わることも大いにあるため、好まれるテレビの画面サイズや機能もさまざまです。
シャープでは画面サイズや販売価格帯が異なる4Kテレビを欧州の各地域に向けて展開しています。4KテレビだけでなくフルHD画質のテレビも根強い人気があるそうです。
3種類のプラットフォームが異なるスマートテレビを展開
今年はNetflixやAmazon Prime Videoのような動画配信サービス、あるいはYouTubeにゲームなどのアプリが楽しめる「スマートOS」のプラットフォームが異なるテレビを取りそろえました。
日本でシャープのAQUOSシリーズのテレビといえば、Google TV(旧Android TV)をスマートOSに採用しているイメージが強い、というかそれしか思い浮かばないかもしれません。
欧州ではGoogle TVのほかに、米国で認知度が高いRoku TVを採用するスマートテレビと、dtsなどのブランドを持つ米Xperiグループ傘下のTiVo Platform Technologies(以下:TiVo)が開発したTiVo OS(ティーボOS)を載せたスマートテレビが、それぞれラインナップを分ける形で発売されています。
TiVo OSは2023年から本格的に立ち上がったテレビ向けのスマートOSです。日本のテレビメーカーの中では、シャープがいち早くTiVo OSを採用するテレビを両社のパートナーシップに基づいて開発してきました。
TiVoの出自を辿れば、米国で長年に渡りHDD搭載のビデオレコーダーとソリューションを手がけてきた企業です。米国で動画配信サービスが立ち上がり始めた頃から、ビデオレコーダー向けのコンテンツ横断検索や、ユーザーの視聴傾向を分析して「見たくなるコンテンツ」をおすすめするレコメンドエンジンの開発を長く手がけています。
それぞれの技術は、テレビ向けスマートOSの動画配信サービスを快適に楽しむために活かすことができます。ビデオレコーダーから培ってきたDNAをTiVo OSに継承することで、数多ある動画配信コンテンツからユーザーが検索した作品が「見つけやすく」、リモコン機器によるサクサク動作により「楽しみやすい」ことを特徴としています。TiVo OSに対応する動画配信サービスの中から、ユーザーが視聴したいコンテンツの横串検索機能も充実しています。
また検索により探し当てたコンテンツをユーザーが選択すると、間に動画配信サービスのトップ画面への移動などを挟むことなく、映画やアニメがダイレクトに見られるユーザー思いの快適操作もTiVo OSならではなのだと、シャープの担当者も太鼓判を押しています。
欧州ではGKシリーズとして展開するAQUOSの4KテレビがTiVo OSを載せて9月に出荷を開始します。70/65/50/43型の4K液晶を搭載しており、大画面テレビでありながら多くのコンシューマーが手に入れやすい価格帯で登場するようです。欧州でTiVo OS搭載のAQUOSが成功したら、あるいは日本にも上陸することがあり得るのでしょうか。今後に注目です。
テレビは高画質な高級価格帯のAQUOSを、欧州市場に展開することも検討しているそうです。日本では先行して展開するMini LEDバックライトを搭載する液晶モデルや、OLED(有機EL)のAQUOSは価格もプレミアムクラスになります。ゆえに今後もシャープは欧州のコンシューマーに受け入れてもらえるよう、丁寧に下地を作りながら投入の判断を本格的に検討していくといいます。
スピーカーとサブウーファーを足して「かんたんテレビシアター」も
サウンド関連でも、シャープが欧州で展開するAQUOSのテレビから先行導入したユニークな技術が体験できました。テレビに内蔵するスピーカーに、ワイヤレスリアスピーカーとワイヤレスサブウーファーを足して「Sharp Wireless Surround」の環境を実現する機能です。
対応するのはGoogle TVを搭載するAQUOSのテレビ「FQシリーズ」から。FQシリーズは、harman/kardonのサウンド監修によるトゥイーターとウーファーの高音質なサウンドシステムを内蔵しています。
そのメリットを活かしながらフロント左右とセンターチャンネルの音声をテレビで鳴らし、シャープのワイヤレスリアスピーカーとサブウーファーを組み合わせてリアルなサラウンド環境を気軽に導入できるようにする機能です。
シャープのブースに設けられた試聴スペースでSharp Wireless Surroundを体験してみました。
IFAという常に賑やかな大規模イベントの展示会場だったことを踏まえても、テレビの内蔵スピーカーやサブウーファーから聞こえてくるサウンドはパワフルだし、リアスピーカーへの音の回りこみもリアルで滑らか。誰でも手軽に没入シアター体験に触れられるよい選択肢になると思います。AQUOSシリーズの他のラインナップに広げることもぜひ考えるべきだと思いました。日本のモデルも然りです。
シャープが海外市場で挑戦する「日本にはない機能」「日本にはないカテゴリの製品」が、実は大きなヒットの可能性を秘めているように思いました。
著者 : 山本敦
やまもとあつし
この著者の記事一覧はこちら