サードウェーブは「第一回 AI フェスティバル Powered by GALLERIA」をベルサール秋葉原で開催しました。後援は日本ディープラーニング協会(JDLA)、協賛インテル、協力NVIDIAです。本イベントでは、11月3日の12時から4日の12時までの24時間のAIハッカソン大会に加え、第二回の「AIアート グランプリ」、2つのトークセッションが行われました。

AIアート グランプリは、2023年3月に1回目の最終審査会が行われたばかりですが、AI技術の発展が著しいこともあり、翌年の開催では遅いとのことから同年に2回目の開催が決定した経緯があります。

  • イベント後援のJDLAブース

  • イベント協力のNVIDIA

  • イベント協賛のインテルのブース。AI関係ということで、ARC A770を使うとStable Diffusionも速いというデモを行っていました

  • 512×512の画像ですが、2.5秒ごとに新しく生成。タスクマネージャーを見るとまだ余力ありそうです

  • イベント途中からマシンを見せていました。ちなみに2台のパソコンは左が第13世代、右が第14世代のCoreプロセッサを搭載していますが「Stable Diffusionの演算の多くはARC A770がやっているので、CPUによる速度差はほぼありません」

  • 主催者のサードウェーブはGALLERIAパソコンを展示。AI用途なのでかなり高いスペックです。2台あわせて約100万円と結構なお値段

ハッカソンはチームが24時間で「楽」を創出

今回のハッカソンのテーマは「楽」。キーワードをどのように捉え、AIをどのように使用して提供するかを24時間以内にチームで作成しなければなりません。しかも、制作締め切りから15分後に発表開始と、結構ハードなスケジュールです。そのためか、2分間の説明タイムをオーバーするチームが続出していました。

  • 朝10時過ぎのハッカソン会場。最後の追い込み中です。今回は1グループあたり2台のGALLERIA PCが開発用に提供されています

  • コードの見直し中でしょうか? エナジードリンクの缶が転がっているのもハッカソン会場っぽいのですが、なぜかチューハイの缶も

  • 今回のハッカソンのテーマは「楽」。この漢字をどのように捉えて、プロダクトを短時間に作るかがポイントです

  • ハッカソンの審査員は左から慶應義塾大学 環境情報学部の増井俊之教授、マイクロソフト エンジニア兼漫画家の千代田まどか(ちょまど)氏、インテル株式会社 技術本部 部長/工学博士の安生健一朗氏の3名

  • 今回の参加チーム一覧。10チームのうち、1チームが棄権しています

  • 発表・質問は各2分。24時間の製作終了から即発表となかなかシンドイものでした

審査の結果、準優勝2チームと優勝チームが選出されました。準優勝は「チームdual」の「Instrumental Sight」と「何でもは知らないわよ。2022年1月までのことだけ。」の「Kiraku」でした。

「Instrumental Sight」は画像から物体を認識し、物体の状態からどの楽器かを決めて叩くと鳴るというもの。楽器の種類は見た目で判断し、音階にも対応します。

「Kiraku」は、いくつかの質問に答えるとパーソナライズされたヘルスケアAIチャットボットを生成します。開発には解決型か寄り添う形にするかの定義で悩んだそう。

  • 準優勝のチームdualのメンバー

  • 画像認識で身の回りのものを楽器として判断し、これを叩くことで演奏するアプリ。楽器種類は見た目で判断します

  • 物体認識にはYOLOを使用。これで色付けと楽器種の判定を行い。画面上を叩く(クリック)で奏でます

  • 同じく準優勝になった「何でもは知らないわよ。2022年1月までのことだけ。」のメンバー

  • 制作したのはパーソナルヘルスケアAIの「Kiraku」

  • 最初にいくつかの質問に回答し、その状況に合わせてAIチャットボットを作成します

優勝したのは「エムニ」の「B8」でした。これはブレスト発散サポートアプリで、今回テーマを与えられて何を作るかブレストがうまくいかなかった経験から、「アイデア出しを『楽』にする」ものを制作しました。会議の音声からリアルタイムにマップを作成し、話し合いが停滞した場合に関連するアイデアを提示してくれます。

  • 優勝した「エムニ」のメンバー

  • アイデア出しのブレストが行き詰ったことから、ブレストを手助けするAIを作る逆転の発想で生まれました

  • 音声から自動的に木構造を作成。分岐は手動ですが行き詰った場合はAIが提案をする仕組み。このマップはフルスクラッチで作成しています

  • 発表までの時間は短く、審査もその場で行っていました

総評として安生氏は「(AIは)今が勝負のときで、(アイデア次第で)ベンチャーを作って成功できる」、ちょまど氏は「どの作品も24時間走り切っていた。これからの活躍を期待したい」、松井氏は「楽しいというテーマもよかったが、24時間経過していても皆さんお元気だったのであと24時間やってもよかったのでは?」とコメントしていました。

  • ハッカソン参加メンバーでの記念撮影

アートグランプリは力作ぞろい。AI使用23人役でグランプリに

ハッカソンと比較すると、アートグランプリは作者の製作意図や過程の説明がなかなか興味深く、かつプレゼンもうまかった印象を受けました。今回のテーマは「明日」です。

  • 当日の審査員、左から審査員長のメディアアーティスト・東京大学名誉教授、デジタルコンテンツ協会会長の河口洋一郎氏、イラストレーター・漫画家の安倍吉俊氏、ストーリア法律事務所所属 弁護士の柿沼太一氏

  • グランプリには賞金15万円に加え、副賞としてGALLERIA XA7C-RA48が贈呈、審査員特別賞には賞金10万円、優秀賞は賞金3万円、佳作は賞金賞金2万円が贈呈されます

今回、グランプリに輝いたのは、快亭木魚氏の「明日のあたしのアバタイズ」でした。作品の動画だけを見ると生成AIで作った画像を並べているだけという印象でしたが、実は元となるポーズや見た目を快亭木魚氏自身が仮装したものを元に生成していたとの説明に驚きました。普段はAIとは無関係の事務員で顔出しNGのため、マスクとメガネでガッチリ固めていたのも印象的でした。

  • グランプリを受賞したのは快亭木魚氏の「明日のあたしのアバタイズ」でした。勤務先の関係か顔出しNG

  • この作品のキモは本人の「仮装」を元に画像を生成すること。1人で23役こなしました

  • 基本ポーズは本人の仮装で決まるので、発表はネタバラシ。毛布をかぶればロングヘヤーに

  • PETボトルは便利なようで、ほかのカットでも採用していました

審査員特別賞には、仮想世界で生物を作り続けている中村政義氏の作品「動き」が選ばれました。過去に、AIにゼロから動きを自己学習させた作品を作った際、大炎上した氏が今回作ったものはAIに遺伝子を持たせるというものです。

  • Attructure Inc. 代表取締役の中村政義氏

  • AIにゼロから動きを作る過程で生まれたゾンビは、日本アニメ界の巨匠が「生命の冒涜」と怒った様子がNHKで放映された経緯の代物。当時はドワンゴに勤務していました

  • 現在制作中のものは、AIに遺伝子を持たせることで数世代の進化をシミュレーションするANLIFE

  • 「何を血迷ったのか3年前に会社を辞めた」とおっしゃっていましたが、その会社は日本を代表するユニコーン企業のPreferred Networks

今回、優秀賞となったKo氏の「What future do you hope for?」は、締め切り2日前に公開されたばかりのAdobe FireflyとStable Audioを作品に使用。締め切りがあと数週間遅かったらDALL-E3やrunwayを使っていたと説明していました。

  • 優秀賞となったKo氏

  • 中央の画像の外側に別の画像を生成することで、ズームする表現をおこなったのが「What future do you hope for?」です

  • リリースされたばかりのAdobe FireflyとStable Audioを採用するなど、新技術のチェックには余念がない感じがしました

  • 「締め切りがもう少し先であれば、別の技術も使えた」とコメントしていました

生成AIには、Hallucinationと呼ばれる現象があります。優秀賞を獲得した実験東京による「幻視影絵」は、人間が影絵を行うと、その絵柄から画像を生成してオーバーラップさせる作品です。

説明では、意図していたものと違う絵が生成されたとおっしゃっていましたが、これをウソというべきか、新解釈と取るべきかとアート作品として考えた場合に興味深いものに仕上がっていました。

  • 優秀賞の実験東京のお2人

  • 筆者は第三世代以降のAIを「右脳的」と表現しますが、ヒラメキから生まれているので人間的には「それは違う」と思うものもあります。が、アートならばありでしょう

  • 同じようなシルエットでも、AIは別々の動物と判断していることがわかります

今回佳作となった「GEISHA」の作者KATHMI氏は今年の3月から3か月でAI関係の技術を取得されたそう。元々絵心がある人もAIを取り入れることで新たな境地の作品が生み出せ、絵心がなくても発想と技術によってアートを作り出せるのはなかなか興味深いものでした。

描き手側として著作権問題が身近な問題になっていることを意識しており、今回の作品を作るために、著作権が切れている浮世絵や、KATHMI氏自身が描いたイラストを使って学習させていたと説明がありました。

  • 今回佳作となったKATHMI氏

  • 画像生成AIを3カ月の独学で習得。今回使用したのはStable Diffusionです

  • 著作権に配慮し、死後75年以上経過している浮世絵(東海道五十三次や喜多川歌麿の美人画)を追加学習

  • さらに、KATHMI氏自身の手描き画像20作品も学習させたオリジナルLORAモデルを生成しています

  • Stable Diffusionを使用したのはNGワードがないため。プロンプトもものすごく長いものになっているのがわかります

総評として、柿沼太一氏は「審査基準がはっきりしていなかったので選考が難しかったが、テーマや学術性、プレゼンで決めさせていただいた」と、安倍吉俊氏は「プレゼンで制作の過程が見えたり人が見えておもしろさが増しました。AIは重要なパーツですが創っている人間の姿が重要だと感じた」とコメント。河口洋一郎氏は「第二回の結果はグランプリの事務員の方がAIと遊ぶことで夢を与えてくれ、AIによって自分の眠っていた能力を出してくれた。日本のAIアートが楽しくなることを示してくれた」と快亭木魚氏に大きく期待しているようです。

  • アートフェスティバル参加者のフォトセッション

AIについてのトークセッションも

今回のイベントでは、トークセッションも実施。「AIアートの今日と明日」ではマイクロソフトのちょまど(千代田まどか)氏のほか、松井公也氏と小泉勝志郎氏の第一回AIアートフェスティバルの入選者のお2人が登壇しました。

松井公也氏は、2013年に他界した妻の音源や映像を編集して作品を公開していましたが、ストックが枯渇して新たな作品が生み出せない状況下で生成AIが救世主として登場したと話します。学習データを元に新たな作品を制作して第一回のグランプリに輝きました。現在はAR空間への妻召喚のために3Dデータを作成中です。

小泉勝志郎氏は、AI時代まで特に創作活動をしていませんでしたが、AIアートグランプリで実写風でのマンガ作成を作成。生成AIで同じキャラクターを出すのは難しいが、これは(落書きのような)ラフを生成AIに入力することで解決したそうです。

  • 「AIアートの今日と明日」の出席者右からマイクロソフトのちょまど氏の、松井公也氏、小泉勝志郎氏

  • ちょまど氏はマイクロソフトのCDA(Cloud Developer Advocate)と漫画家の二足の草鞋生活。最後にお見掛けした際はテクニカル・エバンジェリストでしたが、組織変更等もあり現職へ。『はしれ!コード学園』はプログラミング言語擬人化のコミックです

  • 松井公也氏の本業は編集者で、音楽やDTMが趣味。他界した妻を素材にした「Desperado by 妻音源とりちゃん[AI]」で第一回のグランプリ獲得

  • 小泉勝志郎氏は、アカモク販売促進の目的で渚の妖精ぎばさちゃんを作成。渚の妖精ぎばさちゃん対キモノアゲハが準グランプリを獲得

ちょまど氏は「生成AIはイラストレーター界隈では二極化しており、マジョリティーはネガティブで『神絵師のデータを無許可で学習している』」と発言、絵師からすれば「数十年がんばってスキルを磨いていたのにプロンプト書いて数十秒で結果を出されるのは悲しい」と現状を分析します。

一方で、ちょまど氏を含め「新しい技術を入れてチャレンジ」や「背景だけ生成して作品に利用する」、「アイデア出しやインスピレーションの刺激として(生成AIを使用することで)新しい世界を広げる」というエンジニア視点の発言が出ました。

小泉氏は「きばさちゃんも実写(or生成AI)のほうが迫力がある」とコメント。AIでアニメキャラを雑コラでリアルにできる、実写にできる。そこにむずかしい呪文(≒プロンプト)なしで、落書きでも可能で、ちょまどさんのプロフィール画像をもらって「ぎばまど」も作れると語っていました。

生成AIの学習には複数枚の画像が必要なので「モナリザ風」を作るのは従来難しかったが、別のAIを使って回転させることができると紹介。松井氏は妻のAR空間召喚に使えるテクニックとして興味を持っていました。

  • 元々のぎばさちゃんはアニメ絵ですが、コスプレ風(?)実写のほうがウケル

  • おばあちゃん風もインパクトあり(生成AIには難しいらしい)

  • 左のような落書きでも生成AIに入れることで狙ったものが生成可能とのこと

  • モデルを変えれば……ちょまどさんの素材を使えばこの通り

  • 生成AIで難しいのは、モナリザのように素材が1つだけのもの。しかし、1枚絵を疑似的に回転させることで素材が増やせると説明します

  • 実写写真も回転可能。写真から3Dモデリングが可能になるかも