サードウェーブは「第一回 AI フェスティバル Powered by GALLERIA」をベルサール秋葉原で開催しました。後援は日本ディープラーニング協会(JDLA)、協賛インテル、協力NVIDIAです。本イベントでは、11月3日の12時から4日の12時までの24時間のAIハッカソン大会に加え、第二回の「AIアート グランプリ」、2つのトークセッションが行われました。
AIアート グランプリは、2023年3月に1回目の最終審査会が行われたばかりですが、AI技術の発展が著しいこともあり、翌年の開催では遅いとのことから同年に2回目の開催が決定した経緯があります。
ハッカソンはチームが24時間で「楽」を創出
今回のハッカソンのテーマは「楽」。キーワードをどのように捉え、AIをどのように使用して提供するかを24時間以内にチームで作成しなければなりません。しかも、制作締め切りから15分後に発表開始と、結構ハードなスケジュールです。そのためか、2分間の説明タイムをオーバーするチームが続出していました。
審査の結果、準優勝2チームと優勝チームが選出されました。準優勝は「チームdual」の「Instrumental Sight」と「何でもは知らないわよ。2022年1月までのことだけ。」の「Kiraku」でした。
「Instrumental Sight」は画像から物体を認識し、物体の状態からどの楽器かを決めて叩くと鳴るというもの。楽器の種類は見た目で判断し、音階にも対応します。
「Kiraku」は、いくつかの質問に答えるとパーソナライズされたヘルスケアAIチャットボットを生成します。開発には解決型か寄り添う形にするかの定義で悩んだそう。
優勝したのは「エムニ」の「B8」でした。これはブレスト発散サポートアプリで、今回テーマを与えられて何を作るかブレストがうまくいかなかった経験から、「アイデア出しを『楽』にする」ものを制作しました。会議の音声からリアルタイムにマップを作成し、話し合いが停滞した場合に関連するアイデアを提示してくれます。
総評として安生氏は「(AIは)今が勝負のときで、(アイデア次第で)ベンチャーを作って成功できる」、ちょまど氏は「どの作品も24時間走り切っていた。これからの活躍を期待したい」、松井氏は「楽しいというテーマもよかったが、24時間経過していても皆さんお元気だったのであと24時間やってもよかったのでは?」とコメントしていました。
アートグランプリは力作ぞろい。AI使用23人役でグランプリに
ハッカソンと比較すると、アートグランプリは作者の製作意図や過程の説明がなかなか興味深く、かつプレゼンもうまかった印象を受けました。今回のテーマは「明日」です。
今回、グランプリに輝いたのは、快亭木魚氏の「明日のあたしのアバタイズ」でした。作品の動画だけを見ると生成AIで作った画像を並べているだけという印象でしたが、実は元となるポーズや見た目を快亭木魚氏自身が仮装したものを元に生成していたとの説明に驚きました。普段はAIとは無関係の事務員で顔出しNGのため、マスクとメガネでガッチリ固めていたのも印象的でした。
審査員特別賞には、仮想世界で生物を作り続けている中村政義氏の作品「動き」が選ばれました。過去に、AIにゼロから動きを自己学習させた作品を作った際、大炎上した氏が今回作ったものはAIに遺伝子を持たせるというものです。
今回、優秀賞となったKo氏の「What future do you hope for?」は、締め切り2日前に公開されたばかりのAdobe FireflyとStable Audioを作品に使用。締め切りがあと数週間遅かったらDALL-E3やrunwayを使っていたと説明していました。
生成AIには、Hallucinationと呼ばれる現象があります。優秀賞を獲得した実験東京による「幻視影絵」は、人間が影絵を行うと、その絵柄から画像を生成してオーバーラップさせる作品です。
説明では、意図していたものと違う絵が生成されたとおっしゃっていましたが、これをウソというべきか、新解釈と取るべきかとアート作品として考えた場合に興味深いものに仕上がっていました。
今回佳作となった「GEISHA」の作者KATHMI氏は今年の3月から3か月でAI関係の技術を取得されたそう。元々絵心がある人もAIを取り入れることで新たな境地の作品が生み出せ、絵心がなくても発想と技術によってアートを作り出せるのはなかなか興味深いものでした。
描き手側として著作権問題が身近な問題になっていることを意識しており、今回の作品を作るために、著作権が切れている浮世絵や、KATHMI氏自身が描いたイラストを使って学習させていたと説明がありました。
総評として、柿沼太一氏は「審査基準がはっきりしていなかったので選考が難しかったが、テーマや学術性、プレゼンで決めさせていただいた」と、安倍吉俊氏は「プレゼンで制作の過程が見えたり人が見えておもしろさが増しました。AIは重要なパーツですが創っている人間の姿が重要だと感じた」とコメント。河口洋一郎氏は「第二回の結果はグランプリの事務員の方がAIと遊ぶことで夢を与えてくれ、AIによって自分の眠っていた能力を出してくれた。日本のAIアートが楽しくなることを示してくれた」と快亭木魚氏に大きく期待しているようです。
AIについてのトークセッションも
今回のイベントでは、トークセッションも実施。「AIアートの今日と明日」ではマイクロソフトのちょまど(千代田まどか)氏のほか、松井公也氏と小泉勝志郎氏の第一回AIアートフェスティバルの入選者のお2人が登壇しました。
松井公也氏は、2013年に他界した妻の音源や映像を編集して作品を公開していましたが、ストックが枯渇して新たな作品が生み出せない状況下で生成AIが救世主として登場したと話します。学習データを元に新たな作品を制作して第一回のグランプリに輝きました。現在はAR空間への妻召喚のために3Dデータを作成中です。
小泉勝志郎氏は、AI時代まで特に創作活動をしていませんでしたが、AIアートグランプリで実写風でのマンガ作成を作成。生成AIで同じキャラクターを出すのは難しいが、これは(落書きのような)ラフを生成AIに入力することで解決したそうです。
ちょまど氏は「生成AIはイラストレーター界隈では二極化しており、マジョリティーはネガティブで『神絵師のデータを無許可で学習している』」と発言、絵師からすれば「数十年がんばってスキルを磨いていたのにプロンプト書いて数十秒で結果を出されるのは悲しい」と現状を分析します。
一方で、ちょまど氏を含め「新しい技術を入れてチャレンジ」や「背景だけ生成して作品に利用する」、「アイデア出しやインスピレーションの刺激として(生成AIを使用することで)新しい世界を広げる」というエンジニア視点の発言が出ました。
小泉氏は「きばさちゃんも実写(or生成AI)のほうが迫力がある」とコメント。AIでアニメキャラを雑コラでリアルにできる、実写にできる。そこにむずかしい呪文(≒プロンプト)なしで、落書きでも可能で、ちょまどさんのプロフィール画像をもらって「ぎばまど」も作れると語っていました。
生成AIの学習には複数枚の画像が必要なので「モナリザ風」を作るのは従来難しかったが、別のAIを使って回転させることができると紹介。松井氏は妻のAR空間召喚に使えるテクニックとして興味を持っていました。