若者を中心に支持を集める作家F氏の処女小説を映画化した『真夜中乙女戦争』が公開された。そこで、無気力な大学生“私”(永瀬廉)が出会い、退屈を破壊するための東京破壊計画=真夜中乙女戦争を首謀していく危険なカリスマ“黒服”を、柄本佑が演じている。

『美しい夏キリシマ』での主演デビューから20年目を迎え、ますます精力的に、1作ごとに違った役柄で作品に観客を引き込む柄本にインタビュー。“私”と“黒服”の関係を語ってもらった。

  • 俳優の柄本佑

■“私”に気に入られようと頑張っている男

——昨年だけでもドラマ『天国と地獄〜サイコな2人〜』の陸や、映画『痛くない死に方』の河田先生、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』の俊夫くんなど、本当にさまざまな役を魅力的に演じられてきましたが、今回の“黒服”はまた全く違う、サングラスの似合うヒール役ですね。

役柄的にはカリスマ性のある役になっていますが、そのまま自分のことをカリスマだと捉えると、言っていることが言っていることですし、ただの詐欺師にもなりえると思いました。現場で理詰めで演じているわけではありませんが、今思ってみると“黒服”は、“私”に一目惚れしちゃった人なのかなと。

——“私”に一目惚れ、ですか。

最初に“私”が学校のベンチに座っていて、奥にカップルがいて、そのさらに奥に“黒服”が座っていて、カップルがいなくなって、“黒服”が“私”を見つける。あのとき、“私”という人物に一目惚れをしたことで、“私”に気に入られようと、あんなこともこんなことも言うし、かっこつけたりもしていったと。非常にシンボリックな役柄ではありますが、“黒服”は“黒服”なりに、“私”に気に入られようと頑張っている男なのかなと思います。

——それがいつの間にか“黒服”に魅せられた常連が増えて。

教祖的になっていくわけですが、本人は教祖と思ってもいないのかなと。気が付いたら周りに常連がいて、「じゃあ『真夜中乙女戦争』をしよう」となっていった。自分のことをカリスマなんて思い始めたらカリスマじゃなくなっていくと思うし、そういった対イチの関係を突き詰めていった男だと考えたほうが腑に落ちるなと。

——今のお話を聞いて、“私”と“黒服”とのクライマックスのシーンが一気に蘇りました。“私”を演じた永瀬さんの印象はいかがでしたか?

“私”の目が印象的でした。何か排他的な目をしているというか。いろいろ諦めというか、世の中への失望と絶望と、そうした目に、わざとでなく、自然となっていた感じがします。撮影以外のときは本当に明るく気さくな関西弁のお兄ちゃんなんです。いろんなお話をしました。でも1つスイッチが入ると、一気にそういう世界観が生まれる方だと感じました。

あと、“黒服”が惚れるのもわかる、男も惚れさせる色気をお持ちの方だと思います。それから、そんなに年齢差を感じませんでした。King & Princeとしての現場って、すごくたくさんの方と関わっておられるだろうし、だからかそういった気遣いとかもすごくできて、しかも自然に気さくにできるんです。自分のほうがよっぽど子どもだと感じました(笑)

■柄本佑
1986年12月16日生まれ、東京都出身。2003年、映画『美しい夏キリシマ』の主人公役で映画デビュー。近年の主な出演作に大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(19年)、ドラマ『心の傷を癒すということ』『知らなくていいコト』(20年)、『天国と地獄~サイコな2人~』(21年)、映画『ポルトの恋人たち 時の記憶』(17年)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』『きみの鳥はうたえる』(18年)の3作品では第92回キネマ旬報ベスト・テンにて主演男優賞、中でも『きみの鳥はうたえる』では第73回毎日映画コンクールでも男優主演賞を受賞。他、映画『アルキメデスの大戦』『火口のふたり』(19年)、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21年)など。映画『殺すな』(1月28日公開)、『ハケンアニメ!』(5月公開)、『川っぺりムコリッタ』(2022年公開)、『シン・仮面ライダー』(2023年公開)が控える。

(C)2022『真夜中乙女戦争』製作委員会