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■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

ロシアの戦争映画といえば『ヨーロッパの解放』シリーズ(70~71)を筆頭として旧ソ連時代に作られたものの大半は国威昂揚的で、登場する軍用兵器などはほぼほぼ本物の迫力と貫禄に満ちてはいるものの、あまりにも悠々たる大河的なペースで進行していくために、鑑賞中は誰もが一度か二度は眠くなるという(?)、そんな超大作のイメージがつきものでした。

(もちろん、中には『僕の村は戦場だった』(62)みたいな反戦映画の名作もいくつかありますが)

しかし最近は『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(18)のように、アクション・エンタテインメント性豊かな人気作も続々と作られるようになってきています。

そして本作は第2次世界大戦下の1941年、ソ連への侵攻を図るドイツ軍にソ連軍が徹底抗戦して、ついに勝利を収めたモスクワ攻防戦をモチーフとした超大作。

旧ソ連時代には戦いの全貌を描いた『モスクワ大攻防戦 第1部・侵略/第2部・台風』2部作(85)も作られていますが、こちらは1941年10月のイリンスコエ前線に派兵されたポドリスクの士官候補生らの知られざる決死的行動を描いた、いわば第2次世界大戦秘話。

表面上は英雄讃歌としての建前を図ってはいるものの、その奥では祖国のために非業の死を遂げていった若者たちへの鎮魂が隠れたテーマになっているのが一目瞭然です。

ドラマそのものはふたりの兵士とひとりの看護兵との三角関係を挟みながら進んでいきますが、これにしても若者たちの青春ドラマとして機能させたいという作り手たちの想いの描出に他なりません。

一方では実際の戦闘地域にロケ・セットを構築し、実際の独ソ両軍の本物の兵器を用いて広大なる戦闘シーンを撮影するという圧倒的スケールの映像展開は、ハリウッド超大作も及ばないものがあります。

悲壮感あふれる戦闘描写そのものも魅せ方のメリハリが非常に上手く、旧ソ連時代の国策映画のように次第に意識が遠ざかっていくことなど微塵もありません!?

久々にCGに多くを頼らない、本物の戦争映画超大作を見たという想いでいっぱいです。

ふと思うに、今年2021年はモスクワ攻防戦からちょうど80年目にあたりますが、日本としては太平洋戦争が始まった年でもあったことを、今更ながらに気づかされた次第。

なお2021年12月3日からは同じくモスクワ攻防戦のさなか、ナチス・ハンターとして暗躍していく5人のはぐれロシア兵の運命を描いた『ナチス・バスターズ』も公開されますが、こちらは『T-34』さながら、アクション色を強めたエンタメ作品ということで、こちらも楽しみです。

(文:増當竜也)

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【あらすじ】
1941年10月。ロシアに侵攻したドイツ軍は、モスクワを目指し進撃を続けていた。首都が陥落すれば、ソ連の敗北とナチスの勝利が決定的となる。兵力不足のソ連軍はモスクワを死守するため、訓練中の学生兵を戦場に送ることを決断する……。そんななか、ポドリスク兵学校士官候補生のラヴロフやディミトリ、看護師のマーシャといった3500名が、イリンスコエ防衛ラインへと向かう。彼らの任務は、増援部隊が到着するまで敵を食い止めること。だがそこは、基礎訓練を終えておらず、戦場の経験もない貧弱な若者たちにはあまりに苛酷な、地獄の最前線だった……。 

【予告編】

【基本情報】
出演:セルゲイ・ボンダルチュク/グラム・バブリシヴィリ

監督:ヴァディム・シメリェフ

脚本:ヴァディム・シメリェフ/イーゴリ・ウゴルニコフ

上映時間:142分

製作国:ロシア