第78回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品作品されている広瀬すず主演映画『遠い山なみの光』(9月5日公開)の公式上映が日本時間5月15日に行われ、上映後のレッドカーペットには、監督の石川慶、原作者でありエグゼクティブ・プロデューサーのカズオ・イシグロ氏、キャストの広瀬すず、吉田羊、カミラ・アイコ、松下洸平、三浦友和が登場した。

  • 『遠い山なみの光』第78回カンヌ国際映画祭のレッドカーペットにて

『遠い山なみの光』は、戦後間もない1950年代の長崎、1980年代のイギリスという、時代と場所を超えて交錯する「記憶」を巡る秘密を紐解いていくヒューマンミステリー。公式上映に先駆けて実施されたフォトコールでは、ルイ・ヴィトンのドレスに身を包んだ広瀬すず、赤白の「寿ぎ」着物スタイルの吉田羊、アルマーニのタキシード姿の松下洸平と、HUGO BOSSのタキシードを着用した三浦友和らキャスト陣に加え、プラダのフォーマルスーツに身を包んだ石川慶監督、原作者でありエグゼクティブ・プロデューサーのカズオ・イシグロらが登場。「ヒロセ!ヒロセ!」「スズー!」 というコールが飛び交う中、広瀬は、手を振り、満面の笑顔で呼びかけに応えていた。

  • 広瀬すず

主演の広瀬は、2015年に参加した是枝裕和監督作『海街 diary』以来、10年ぶり2度目、吉田、松下、三浦は初めてのカンヌ国際映画祭への参加となる。イシグロは、1994年にクリント・イーストウッドやカトリーヌ・ドヌーヴらと共にコンペティション部門の審査員を務めたが、出品者としての参加は今回が初めて。監督の石川もカンヌへは初の参加となる。

  • 吉田羊

  • 三浦友和

  • カミラ・アイコ

  • 松下洸平

上映前の舞台挨拶では、代表して、石川監督が「ボン ジュール! こんにちは。今日は本当にこの映画をずっと支えていただいたカズオ・イシグロさん、それから本当にずっと映画で戦ってくれたスタッフ・キャストの皆さんと、そして朝からこの会場に駆けつけていただいた皆さんと、この特 別な瞬間を共有できることをとても嬉しく思っています。今日は自分も一観客に戻って映画を楽しみたいと思います」と挨拶をし、観客を含めた本作に関わる全ての人たちへ感謝の意を伝えた。その後、司会を務めるカンヌ国際映画祭総代表のティエリー・フレモーが、予定にはなかったカズオ・イシグロにマイクを向けスピーチをリクエスト。「これは台本に書かれていなかったよ!」と笑いを誘いつつ、「この映画は私が25歳の時に初めて書いた本がベースになっています。酷い本なんです(笑)。でも酷い本から素晴らしい映画になるという長い長い歴史が映画にはあります。石川監督が本作の映画化の企画をくださったときに、素晴らしいアイディアだと思いました。美しい映画が生まれる可能性に満ちていた。そして、僕のその直感は正しかったんです。だから、今、僕は次の酷い本を書こうと思ってます。どうもありがとう!」と、会場を笑いに包み込むウィットに富んだスピーチを披露した。

  • 石川慶(左)とカズオ・イシグロ

上映終了後は、観客から5分にわたるスタンディングオベーションが起こった。エンドロールに入った瞬間に鳴り始めた拍手は、場内が明るくなると同時に観客総立ちの大きな拍手へ。キャスト、石川、イシグロは観客を見回し、改めて上映の余韻を噛み締めるように熱い抱擁を交わしたり、堅い握手を交わしながら、ワールドプレミア上映の熱気を全身に浴びていた。「ある視点」部門の授賞式は現地時間5月23日に行われる。

(C)『遠い山なみの光』製作委員会
Photo:(C)Kazuko Wakayama

【編集部MEMO】
原作者、エグゼクティブ・プロデューサーのカズオ・イシグロは、本作で描かれる長崎県の出身で、幼年期に渡英したのち、1983年にイギリス国籍を取得。2017年にノーベル文学賞を受賞している。本作以外にも映画化された作品は数多く、『日の名残り』『上海の伯爵夫人』『わたしを離さないで』『生きる LIVING』は、日本でも公開されている。