広域ネットワークを対象とする低電力無線通信は、LPWAN(Low-Power Wide-Area Network: 低電力ワイドエリアネットワーク)やLPWA(低電力ワイドエリア)、LPW(低電力ネットワーク)といった多様な呼称を持つが、世界では多くの通信業者が標準化を目指した競合を繰り広げている。

一見すると既存の無線LANで充分と考える御仁もおられるだろう。だが、Wi-Fi Allianceの802.11は通信速度を優先し、工場など長時間運用を求めるIoTシナリオには合致しない。そのため、既存ビジネスを最適化するLPWANが注目を集めている。

今、注目すべきはフランス企業の「SIGFOX」、LoRaWAN Allianceが提唱する「LoRaWAN」、3GPPの標準規格「NB-IoT」の3種類。SIGFOXは京セラコミュニケーションシステムが同ブランドで国内展開を進めており、NB-IoTは水道メーター向け無線自動検針の実証実験を2017年12月から始めている。LoRa WANは同団体のコントリビュートメンバーであるセンスウェイが、2019年3月末までに人口カバー率60%を目指す「SenseWay Mission Connect」を2018年4月に開始した。

  • センスウェイは三井不動産と協力して、高層ビルやマンションなどの屋上にLoRaWANゲートウェイ基地局を設置する(センスウェイ発表資料より)

LPWANの活用例だが、街灯LEDを自動で制御するスマートシティ化や、温度センサーを内蔵した訪問老人介護ソリューション、鉄道レールの張力負荷などを計測する保守ソリューションに用いられている。各種センサーから得た情報をLPWAN経由で取得し、サーバー側に数値を蓄積すると同時に、場合によってはエッジ側で自動対応するシナリオも珍しくない。

LPWANを活用したIoTデバイスが社会に普及するには、何をおいてもコストが大きな課題となる。SIGOXは1デバイス年100円以上だが、LPWANを用いたIoTデバイスの通信回数は多くないため、年間利用料は1,000円を切る程度。後発となるセンスウェイは1デバイスあたり30円以上/月(1日12回接続、通信間隔2時間程度)という料金設定を用いている。ただし、センスウェイは大量購入値引きを用意し、8円以上/月という価格設定も用意するという(適用条件は2018年4月時点で未定)。

政府は「平成29年版 総務省情報通信白書」で、2020年までにグローバルで300億を超えるIoTデバイスが利用され、LPWAN需要は2020年までに400万回線に達する勢いだと分析。5Gと同様に重要な第4次産業革命を確立するための重要な技術要素と捉えている。総務省によればアズビル、日本IBM、NTTドコモ、日立システムズなど多くのIT企業が実証実験を続けてきた。

  • 総務省「平成29年版 総務省情報通信白書」による、LPWAN市場の成長率

これらの現状を鑑みれば、既存の生産工場をデジタルする際の重要技術や、新規ビジネス創出にLPWANがもたらす影響の大きさをご理解頂けるだろう。

阿久津良和(Cactus)