ソニーのフルサイズミラーレス「α7R V」は、AI技術により被写体認識AFの性能を大幅に高めた「リアルタイム認識AF」をαシリーズで初めて搭載したことが話題を呼んでいます。超望遠ズームレンズ「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」を装着して野鳥などの動体を撮影した落合カメラマン、被写体認識性能の明らかな進化を体感しつつも、どうしたことか感動はそれほどでもなかった…といいます。

  • ソニーが2022年11月に発売した有効6100万画素フルサイズセンサー搭載のミラーレスカメラ「α7R V」。実売価格は55万円前後

    ソニーが2022年11月に発売した有効6100万画素フルサイズセンサー搭載のミラーレスカメラ「α7R V」。実売価格は55万円前後で、カメラ量販店での在庫は潤沢だ。装着しているレンズは、野生動物派に人気の高い超望遠ズームレンズ「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」。こちらの実売価格は29万円前後

6100万画素センサーの絵はα7R IVとほぼ変わらぬも不満は皆無

お馴染みソニー「α7」の「R」が「5型」に進化した。高感度番長の「S」、高解像度番長の「R」、そして悪の秘密結社ショッカーでいうなら従順な戦闘員といったところの「無印」&「C」。他メーカーを震えさせ続けて止まない強固な布陣には、いささかの揺らぎも見せないばかりか、こうして無慈悲に歩を進めるあたり、ミラーレス機の世界では地獄大使の異名をとる(?)ソニーさんもお人が悪い(笑)。しかも、今度は「知性を手にした、新次元AF」とまでおっしゃるなんて。いや、なんつぅか、もう、ヤリたい放題じゃーん。って、前からそうか!?

有効約6100万画素のフルサイズイメージセンサーは、基本「4型」と変わらず、のようだ。というワケで、撮影画像を等倍表示したとき、圧倒的な解像度(画素数)にオオッとなるあの感じや、思わずウッとなる1枚あたりのデータ容量も不変。これ、「R」のもっとも重要視すべき魅力と使用者が負うことになる負担にも変わりはないと判断できる一方、「え? 画素数、同じなの?」という疑問や不満が出ないとも限らないポイントではある。

α7R Vがなぜ画素数がそのままとなったのか、本当の理由は部外者には知る由もないのだけど、あえて前向きに判断するならば「フルサイズにおける画素数のバランスポイントがそこにもある」との新たな提案と捉えることもできなくはないだろう。既存のバランスポイントとしては、フルサイズでは「2400万画素」が挙げられるというのが個人的な認識。それに加えてのもうひとつの指標、いわば“定番画素数”が、ここでもうひとつ設定されたのではないかという“読み”だ。ソニーがそう言えばそうなっちゃうのが現時点のデジカメ界ではあるので、あながち外れていない考え方だと思いつつも、ホントのところは「R」の「6型」が登場してのお楽しみってところですかね。

さて、このα7R V、解像性能がさらに磨かれているのがウリのひとつになっているのだけど、写真として鑑賞することを前提とした場合の「撮れる画」は、基本α7R IVと変わらない感じだった。等倍検証においては、ISO12800以上の超高感度画質、というかノイズリダクションの仕事ぶりに「あれ? 4型はもうちょっと砂っぽいノイズだったような気が・・・」なんてことを当初、思ったりもした(ノイズが少し滑らかに見えるように感じた)のだけど、これも実際は撮影シチュエーションの違いによる印象の差だった可能性が高い。大きなくくりの中では、やはり画質はほぼそのままだ。

といって、不足を感じるわけじゃない。不満は皆無だ。先に述べているとおり、6100万画素の解像度は圧倒的。それがこのボディサイズ感で手にできることの利点、優位性は、理屈をこねくり回さずとも明らかなのである(とはいえα7Rとしては、これまででもっとも大きく、重くなってはいるα7R Vではあるけれど)。というワケで、“前モデル”となったα7R IVが今のところまだ現行モデルである点に多大なる価値を見いだす向きも存在するに違いない。参考までに申すならば、その前のα7R IIIも新品がまだ普通に買える。現状、ミラーレスαのラインアップ上、三世代そろい踏みなのは「R」だけだ。

  • 細いワイヤーが極めて繊細に描写されているのが印象的。ISO1600、かつFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSの手持ち撮影であることを考えると、α7R Vがレンズ本来の解像力を余すところなく引き出していることと、補正効果が約8.0段に向上した手ブレ補正機能が正しく強力に作用していることにも容易に想像は及ぶ(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO1600、1/400秒、F6.3、-1.7露出補正)

被写体認識AFの進化に対する感動はいまひとつ!?

α7R Vでもっとも大きく進化しているのはAFだとされている。なかでも、「リアルタイム認識AF」の搭載にインパクトを感じる写真愛好家が多いのではないだろうか。

確かに、流行りの被写体認識AFである。認識できる被写体の種類が多ければ多いほどエライ感じ(そういう風潮になっている感じ)がしないでもないけれど、能力的には確かにそう。“賢さ”がウリになる機能でありタイミングだ。まだ新しい分野だからね。

でも、ソニーのミラーレスαがヘナチョコだったときから使い続けてきている身(ただし、α一筋ではなく他メーカーもバリバリに併用している浮気者)からすると、今回α7R Vが実現している被写体認識AFの劇的な機能拡張には、実はそれほど感動していなかったりする。いや、ディスるつもりは毛頭ない。むしろ逆だ。これは、フルサイズミラーレスαの第3世代以降が身につけている、他社ミラーレス機を完全に凌駕するAF性能、とりわけ「リアルタイムトラッキング」がすでに存在しているからこそ、逆に“流行りの”被写体認識機能搭載に対する驚きや感動が、少なくとも個人的事情の範疇においては今ひとつ盛り上がらなかったという話である。

誤解なきよう先に言っておくならば、瞳AFの機能向上(検出&追従に係る能力や動作スピード)については、手放しで歓喜&評価しているところだ。そして、瞳AFをフォローする意味においての「頭部認識」についても同様、ウエルカム大歓迎!のスタンスである。まず、この点はハッキリさせておく。

その上で、「人物」「動物/鳥」「動物」「鳥」「昆虫」「車/列車」「飛行機」が選択できるようになっている「被写体を認識する動作」については、既存の極めて優秀なリアルタイムトラッキングで8割方、同じようなことができていましたよね?というのが個人的な印象なのだ。α7R IVや、もっというならα7Cでも、その“効能”は存分に味わうことができており、だからこそ使用者目線では「個別に認識できる種別が増えても、実際にできることはあまり増えていない感じ」がしてしまうという・・・。なんたるゼイタク! なんとも罰当たりな個人的感想ですな、こりゃ。ごめんなさいね。

  • 等倍表示を見れば、60MP超えの真の実力が一目瞭然の1枚。一度、体験すると離れられなくなる怒濤の解像感は、瞳を認識することで得られているバチピンに助けられ成立しているものであることも明白だ。つまり、本文中で述べている「被写体認識せずとも、リアルタイムトラッキングで8割方フォローできる」との個人的認識は、正確には「瞳AFがあってこそ」のものであるということ。そこは誤解しないでほしい。この場面、瞳AFがなければ顔にバチピンは得られていなかったハズなのだから(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO1600、1/500秒、F6.3、+0.3露出補正)

ついに見いだした被写体認識AF活用のツボ

設定している認識対象(被写体)に対する認識動作が思いのほか頑固である(例えば「動物/鳥」設定では頑として飛行機を認識しようとしない)ところに少々、扱いにくさを感じての「リアルタイムトラッキング推し」であるようにも自認している。この場合における頑固さは、そのまま賢さの表れであるとは思うのだけど、いたずらに頑固な秀才とはお付き合いしにくいと言うのがこの世の常でして(笑)。

もっとも、「動物/鳥」設定で飛行機が撮れないのかといえば、まったくそんなことはない。仮に、ベースの設定が測距点全点自動選択AF(フォカースエリア「ワイド」設定)であれば、画面のどこに主要な被写体=飛行機があろうと、カメラまかせでちゃんとピントを追従させてくれる(認識すべき被写体が見つからない場合は通常のAF動作になる)。繰り返しになるけど、ソニーαのAFなら、被写体を認識せずとも困ることはほとんどないのだ。

被写体種別を認識する動作に対しては、単一のテーマを追求する撮影スタイルであれば、ミジンコほどの文句も出ないと思う。アレコレ気になるのは、ワタシのように節操なくアレコレ撮る人間だけです、たぶん(笑)。

さて、そんなこんなを通じて導くことになったのは、「α7R Vの被写体認識AFは、リアルタイムトラッキングをフォローさせる位置づけで使うのがベスト」であるという答えだった。つまり、被写体認識AFを活用する際のフォーカスエリア設定は、「ワイド」ではなく、「ゾーン」でもなく、「トラッキング」がベストということ。こうすることで、まずは被写体認識動作の迅速性と確実性を高めることができ、さらにはリアルタイムトラッキングが苦手とする「主要な被写体と似ている色やパターンが画面内に存在する」場合などに、測距点が不用意にそちらに飛んでしまうことを効果的に防いでくれるようにもなる。ピント追従に関し、このように両面からのフォローが得られるのは、他では得がたい使い心地だといっていい。実に素晴らしいコンビネーションなのである。

といったところで、ちょっと長くなりそうなので前編はここまでにしたい。続く後編では、α7R Vが手にしたとされる「知性」に関する印象や、α7R Vを使うことで実行されることになったある行動について触れてみようと思う。それは・・・ひとことで言うなら「背中を押してくれてありがとう!」ってところ、ですかね(笑)。

  • 等倍表示すると、画面ほぼ中央の部分に綿毛のようなものが飛んでいるのが分かると思う。ソニーαのAFは、このような背景を背負うこのように小さな被写体に対し、多くの場合カメラまかせでピントを合わせることが可能だ。ここであらためて被写体を細かく認識してくれるようになったことにさほどのインパクトを感じなかったのはそのため。贅沢な物言いである(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO640、1/2000秒、F6.3、-1.3露出補正)

  • カメラによっては、主要な被写体と背景の分離に難儀しそうな(背景にピントを持っていかれどうにもならなくなってしまう)場面だが、α7R Vは完璧にピント(顔、もしくは瞳を認識しての合焦)をゲット。「動体撮影にもしっかり対応しうる超高解像度機」というくくりにおいては、連続撮影枚数に対する余裕を含め、世界最強の実力を有するといっても過言ではない仕上がりだ(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO3200、1/1000秒、F6.3、-0.7露出補正)

  • 瞳を認識しても良さそうな距離感ではあるが、このときは顔を認識(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO12800、1/400秒、F6.3)

  • 認識枠表示の変化を見ると、きわめて正確に顔(頭部)を認識していることがわかる。頭のカタチがカワイイ(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO12800、1/500秒、F6.3)

  • 胴体(フォルム)を認識しているはずなのに、ピントは手前の葉に・・・。「被写体を認識する人とピント合わせをする人が別」的な挙動は、現状どのメーカーの被写体認識機能にも見られるもの。独立したAIプロセッシングユニットを有するα7R Vの実力を持ってしても、まだそこを完全にクリアすることはできていないようだ(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO12800、1/500秒、F6.3)

  • でも、フトしたときに瞳を認識すれば、ピントは一瞬にしてご覧のように位置を変えてくれる。被写体認識対象の拡大より瞳認識AFの速度&精度向上に、より大きな魅力を感じるというのが正直なところだ(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO12800、1/500秒、F6.3)

  • 連写は、AF/AE追従最高約10コマ/秒と、「R III」や「R IV」と変わらないスペック。ただし、AF-Cの連写時にピントが強制的に1コマ目に固定されてしまう絞り限界は、α7R IVのF11からF22に大きく向上している(α7R IIIはF8)。望遠ズームレンズとテレコンバーターを組み合わせる時などに、従来よりもAF-C動作に係る「余裕」が確保されたカタチだ。また、バッファメモリーの容量も飛躍的に増えているようで、連写詰まりに足を絡め取られる機会がグンと減少。シャッターレスポンスが思いのほか良好であることを含め、動体撮影にもストレスは一切感じさせず、万能性がさらに磨かれた印象だ(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO400、1/2000秒、F6.3、-1露出補正)

  • 距離感(被写体の見かけ上の大きさ)からすると、瞳を認識してくれても良さそうな感じなのだが、逆光のせいなのか、クチバシが見えないことから何を撮っているのかAIが判断できなかったのか、少し余裕を持った頭部認識でお茶を濁している感じがオチャメ(笑)(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO2000、1/500秒、F6.3、+2.3露出補正)

  • バッチリ瞳を認識。鳩の顔や目が苦手な人には、恐怖の等倍表示になると思うので、不用意に触れない方がいいです(笑)(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO800、1/500秒、F6.3、-0.7露出補正)

  • 高度7,500mを飛ぶ旅客機を地上から600mmで狙う。等倍で見ると、主翼のコールサインは読めずとも、垂直尾翼の航空会社マークは容易に判別が可能だ。これぞトリミング番長の底力(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO1000、1/4000秒、F6.3)

  • 被写体の見え方が相当に大きくないと、フォーカスエリア「ワイド(全点自動選択)」設定では被写体認識は行われないことが多い。そんなときは、リアルタイムトラッキングとの合わせ技が効果的だ。トラッキングAFでまず被写体の存在を認識させてやれば、被写体を認識する動作を含め、その後の話の流れがスムーズになる(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO800、1/4000秒、F6.3)

  • 遠方の被写体は基本、被写体種別を認識してのAFは不要であると考えているけれど、主要な被写体が際立つ色を纏っていない場合や、薄く霞がかかったようなコントラストが低めのこういった場面では話は別。リアルタイムトラッキングだけでは測距の追従が難しくなるため、「飛行機」であることを認識させたうえでAF追従してもらった方が失敗は少ないのだ。要は適材適所ってことですな(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO1600、1/4000秒、F9.0、+0.7露出補正)

  • 頑固な認識動作のおかげで、より大きく見えている人間の後ろ姿に惑わされることなく犬の瞳にピントを合わせてくれた例。この場合の「設定した被写体種別以外には見向きもしないAFの動作」はプラスでしかなく、実にありがたい。つまり、頑固な秀才に困るかどうかもケースバイケースってこと(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO2500、1/4000秒、F6.3)

  • 他社機の被写体認識AFでは、強固にコックピット周りへの合焦を狙う動作が見られたりもする「飛行機」に対するAFの動作なのだが、α7R IVの飛行機認識は、被写体が正面に近い角度でアプローチしてきたとしても、フォルムそのものを捉える動作になることが多かった。空を飛んでいる飛行機を撮るのであれば、よっぽどのド・アップでない限り、それで何ら不都合はないというのが個人的な認識ではある(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO1250、1/6400秒、F6.3)

  • どれを認識しても良さそうなのに、ひとつも認識してくれなかった。AIに人間みたいないい加減なことはできないんだろうなぁ(笑)(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO5000、1/6400秒、F6.3、+1露出補正)

  • 一度、捉えたクルマは簡単には手放さない・・・といった感じのAF動作を見せてくれたが、後ろに並ぶクルマの色がここまでハッキリ異なっていれば、リアルタイムトラッキングでも同様の結果が得られていただろう。いや、ホントにスグレモノなんスよ、リアルタイムトラッキングって(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO1600、1/1000秒、F6.3)

  • もともと高く評価しているリアルタイムトラッキングをさらに引き立てるリアルタイム認識AFの追加に満足している落合カメラマン。ではα7R Vも衝動買い間違いなし!と思いきや、後日手にしたカメラは…!?