シャープが2022年4月に発売した衣類乾燥除湿機「CV-P60」。幅30cm×奥行30cmの設置面積、高さは32.3cmと、衣類乾燥除湿機としては群を抜いてコンパクトな製品だ。

  • シャープ 衣類乾燥除湿機 CV-P60 高さ32.3センチのコンパクトサイズを実現した、シャープの衣類乾燥除湿機「CV-P60」。インタビューに答えてくれた、製品企画担当のシャープ Smart Appliances & Solutions 事業本部 PCI事業部 商品企画部 主任の松村勇樹氏(左)と、デザインを担当した、同事業本部 国内デザインスタジオの松山なほ氏(右)

    高さ32.3センチのコンパクトサイズを実現した、シャープの衣類乾燥除湿機「CV-P60」。インタビューに答えてくれたのは、製品企画担当のシャープ Smart Appliances & Solutions 事業本部 PCI事業部 商品企画部 主任の松村勇樹氏(左)と、デザインを担当した同事業本部 国内デザインスタジオの松山なほ氏(右)

今回は、CV-P60の開発経緯や製品化までの秘話、そしてデザイン上のこだわりを担当者に伺った。

部屋干しを意識し、高さを抑えた設計に

製品企画担当のシャープ Smart Appliances & Solutions 事業本部 PCI事業部 商品企画部 主任の松村勇樹氏によると、CV-P60の企画が始動したのは2020年12月頃のこと。出発時点では、形状や大きさは白紙の状態だった。

「CV-P60は単身世帯や少人数世帯に向けた衣類乾燥除湿機で、そもそもどんな形にしようか? というところから検討が始まりました。縦に長いものか、あるいは背が低いタイプか。面積、高さのどちらの方向に振るかは、正直とても悩んだところです。

そこで、部屋干しをするときの干し方について市場調査を行いました。室内に突っ張りポールを用意したり、カーテンレールに干したりなどご家庭によって干し方はさまざまでしたが、物干しラックを使用されている方が半数程度いらっしゃいました。そこから、物干しラックの下に設置できる、高さを抑えた省スペースな製品を目指すことを決めました」(松村氏)

  • シャープ 衣類乾燥除湿機 CV-P60 真上に衣類を吊すことを想定し、高さを抑えることを優先して設計

    真上に衣類を吊すことを想定し、高さを抑えることを優先して設計

こうして、高さを抑えたモデルへと舵を切り、CV-P60が作られた。「使用シーンを考えると、高さは低ければ低いほうがいい」一方で、しっかり衣類を乾燥させる性能も必要となる。

「しっかり乾燥させるためには、衣類に風を届けること、そして除湿能力が重要です。高さを低くし過ぎると性能を出すのが難しくなるので、最低でも32cmをキープする方向で進みました。その上でフットプリント(設置面積)をどれくらいにするか詰めていきました」(松村氏)

小型化を実現するために、挑んだのは本体の内部構造の見直し。CV-P60はデシカント式と呼ばれる、乾燥剤とヒーターを用いた除湿方式を採用している。デシカント式は部品を垂直方向に縦に並べる構造が一般的だが、高さを抑えるため、CV-P60では水平方向に配置する構造に変更した。

「弊社の衣類乾燥除湿機としては、デシカント式は数十年ぶりの参入で、ほぼゼロからの開発でした。デシカント式は吸い込んだ室内の空気の水分を乾燥材で吸着し、それをヒーターで温め、熱交換器を通して結露させて除湿します。内部の部品が縦に並ぶ従来の構造では熱交換器が下側にあるため、重力によって結露した水がそのまま下に落ちていきます。

ですが、部品を水平に並べ重ねる設計の場合、そのままだと水が流れていきません。結露させた水分を排出できなければ、除湿効果も低下します。この問題をクリアにするために、熱交換器を少しだけ斜めに傾けて設置しています。傾け過ぎると(本体の)高さが増すので、その適切な調整に苦労しましたね」(松村氏)

  • CV-P60の内部構造。従来は熱交換器、乾燥剤、ヒーターといった部品が縦列配置だったが、高さを抑えるため上下に積み重ねる設計に

    CV-P60の内部構造。従来は熱交換器、乾燥剤、ヒーターといった部品が縦列配置だったが、高さを抑えるため上下に積み重ねる設計に

高さを抑えるために内部構造を変えたことで、動作音という新たな問題も浮上した。

「デシカント式はコンプレッサーがないため、振動音は抑えられます。しかし、今回の内部構造では一番上にファンを搭載しているため、吹き出し口に近いぶん、風切り音が大きくなってしまいます」(松村氏)

製品版のCV-P60の運転音は最大51dB。松村氏は「初期の段階では、高速道路を走行中の自動車内と同等(60dB)でした。ファンの大きさや羽根の形状と大きさ、ケーシング(外枠)の形状などを変えた30ほどのパターンで風の流れをシミュレーションし、最終的に51dB程度まで抑えることができました」と話す。

新しい使い方を実現する設計

2021年発売の衣類乾燥除湿機では、コンプレッサー式とデシカント式を組み合わせた「ハイブリッド式」を採用した。今回のCV-P60であえて再設計が必要な単独のデシカント式を用いたのは、サイズとコストの抑制が大きな理由だ。

「CV-P60は若年層をターゲットにした製品で、ワンルームなどひとり暮らし用の住宅でも設置しやすいことがポイント。ハイブリッド式は年中使えて便利ですが、そのぶんサイズが大きくなったり、コストが高くなったりとデメリットもあるので、デシカント式を採用しました」(松村氏)

  • ファン形状とケーシングの違いによる風の流れをシミュレーションで比較した一例

    ファン形状とケーシングの違いによる風の流れをシミュレーションで比較した一例

従来の衣類乾燥除湿機では、吹き出し口の手前にルーバーを設けて、衣類に対して正面から風を当てる製品が多い。これに対し、CV-P60は360°全周の吹き出し口から風を出す、サーキュレーターのような送風設計になっている。このように大きく機構を変えたのは、次のような理由があった。

「除湿した風を衣類に当てて乾燥させるために、これまでの除湿乾燥機は衣類の前に置くのが定番で、ルーバーでいかに風を横方向に広げていくかという考えで作られていました。しかし、CV-P60は洗濯物の真下に設置する前提のため、直上に風を持っていかなければなりません。その場合、吹き出し口の手前に衝立(ついたて)のように置くルーバーはあまり必要ないので省いて、放射状に広がるかたちにしました。

衣類の真下に設置するので、風量を維持しながら、どうやって風を真上に持っていくのかが重要でした。ファンを横向きに配置しているため、そのままでは風も横に広がってしまいます。ケーシングの角度の細かな調整で整流させていくのに、技術メンバーも苦労していました」(松村氏)

  • シャープ 衣類乾燥除湿機 CV-P60 衣類乾燥除湿機といえば、洗濯物の手前から風を当てるのが主流だが、CV-P60は洗濯物の真下に置いて使う。そのため、サーキュレーターのように真上へと直進的な風を出す方式を採用した

    衣類乾燥除湿機といえば、洗濯物の手前から風を当てるのが主流だが、CV-P60は洗濯物の真下に置いて使う。そのため、サーキュレーターのように真上へと直進的な風を出す方式を採用した

シャープが内部の構造を一から見直して製品化した、コンパクトサイズの衣類乾燥除湿機。数十年ぶりにデシカント式を採用した理由や、サーキュレーターのような送風口にたどり着いた理由など、裏話を聞くにつけ、すべて「なるほど」と納得させられる。