公私問わずパソコンでの作業が一般化した昨今、改めて手書きの力が見直されています。ノートに向かって手を動かし考えを巡らせることで、アイデアが生まれたり、バラバラだった構想がまとまったりする――。こうした経験は、クリエイティブ系に限らず、日常の中で多くの人が実感してきたことではないでしょうか。

2000年代に生まれたスマート文具市場は、この傾向を受けて拡大。2010年を過ぎるとスキャナも必要としないスマートペンが増えてきました。現在はデジタル機器だけでなく、文房具メーカーからも発売されるようになっています。

  • スマートペンの「LAMY safari all black ncode」と、デジタルノートブック「LAMY digital paper notebook」

スマートペンから見る文房具の個性

そう考えると、手書きデータをデジタル保存する技術面は、少し落ち着いてきた状況にも見えます。そんな今だからこそ注目したいのが、筆記具としての楽しさとデザインの個性です。

現代のベーシックとなったミニマルデザイン。それはそれで確かに美しいのですが、心や目を楽しませるスパイス、日常のアクセントという意味では少し違うと感じてきました。私たちが昔から触れてきた文房具は、書く(描く)という機能を超え、気分を高め、愛着を感じさせる存在だったからです。

ハイテク筆箱や消しゴム、香り付き固形ノリなど、教室の話題を独占した雑貨ライクな文房具、自分だけのこだわりを楽しんだ学生時代の海外物や製図用の文房具など、その時代の出来事とともに思い出されます。ミニサイズの文房具セットやペンセットといった、社会的な知名度を得たものもありました。かつての筆記具を始めとする文房具には、こんな風に、机に向かう人々の目や心を楽しませてくれる力が間違いなくあったのです。

  • スマートペンの「LAMY safari all black ncode」は18,900円、デジタルノートブックの「LAMY digital paper notebook」は3,540円、両者のセットは22,900円です

2021年10月に発売された「LAMY safari all black ncode」(以下、ncode)と「LAMY digital paper notebook」(以下、notebook)は、デジタル文具の中にあって、そんな文房具の楽しさとデザインの美しさを兼ね備え、愛着を感じさせてくれる一品。

ベースにはネオラボの「Neo smartpen」と「DIGITAL NOTEBOOK」の技術を活用しています。専用ペンでノートに書いた手書きの文字や図などを、専用スマホアプリ「NEO STUDIO」(iOS用・Android用)に転送して、リアルタイムでデジタル化して保存できるようになっています。

LAMY safariの可能性を広げるデジタル機能

このニュースを聞いて、筆者は「そこに目をつけたんだ!」と驚きました。LAMYは筆記具専門のメーカーだからと考えたこともなかったけれど、あれば確かに欲しくなるだろうブランドだったからです。safariの2021年の最新モデルは、Neo smartpenの機能を融合させたncode。そう聞いて興味を持たないLAMYファンはいないと思うのです。

  • ボールペンは替え芯が別途販売されています。個人的には万年筆であればベストだったのですが、ペン先は読み取り精度にも関係するのかもしれません

具体的には、ncodeのペン先にある小型スキャナが文字や図を読み取り、ペン内部のメモリにデータとして保存。そのデータをスマホやタブレットのNEO STUDIOアプリに転送していく仕組みです。ncodeとスマホ(タブレット)はBluetoothで接続します。

対となるnotebookは、ネオラボが販売する各種専用ノートも組み合わせOK。スケジュール帳を使えばGoogleカレンダーや各種デジタルカレンダーとも連携できます。アプリ上の描画ツールを使えば、カラーデータにも。使えるペンの色は10色で、黒青黄赤の定番色や限定色などsafariのボディカラーと合わせているのが粋です。

【動画】notebookにncodeで手書きすると、NEO STUDIOアプリ上でリアルタイムにみるみるデジタル化

  • ネオラボのオンラインショップから。「Neo smartpen」(もちろんLAMYのncodeも)に対応したデジタルノートブック、使いやすい定番のノートがラインナップされています

NEO STUDIOアプリで選べるペンの太さは5段階。個人的には、文字は細字から2番目くらい、イラストや図は中字〜太字で書くと線の強弱が出やすくきれいにスキャンされる印象でした。また、これはスマートペン全体の特性かと思いますが、筆記が速すぎると文字が欠けたり、線がかすれたりすることがあります。楷書気味にゆっくり目で書くのがコツです。

  • NEO STUDIOアプリの描画ツール画面

【動画】筆跡のログも簡単に動画にして共有。メイキング動画を作る人にも便利そう

平面データだけでなく、音声や動画の保存、共有といった機能もあるというから驚きです。たとえば、図と簡単なポイントを書き、詳しく伝えたい内容は音声で説明。保存してスマホから相手に共有する――という一連の作業が、ncodeとnotebookがあればすっかり完結してしまうのです。

ノートにハッシュタグを書いておき、アプリにタグを保存すれば自動でファイリングまでしてくれます。手順や思考の動き方まで多面的に情報を記録できるツールと言えます。

  • NEO STUDIOアプリにはOCR機能もあります。手書きの文字をテキストデータに変換することが可能

  • 「スマートテキスト変換」は、手書きのレイアウトをできるだけ保った状態で、文字をテキストデータ化してくれます。もちろんテキストの修正にも対応。変換したデータは、PNG形式、PDF形式、Microsoft PowerPoint形式でエクスポートできます

ちなみに、ncodeはボールペンなのでノート自体を消して修正するのは無理ですが、描き損じなどはNEO STUDIOアプリのデータ上で削除できます。ただ、変更が多いスケジュール、そのときは不要に感じてもあとで内容が生きる場合もあるアイデアメモなどは、「ノートにあったのにデータにない!」とならないようデータ管理にご注意を。

老舗のものづくりと最新技術が合体した、これぞコラボレーション

  • 通常のLAMY safariと比べてサイズは一回りほど大きめですが、シリーズにはなじんでいます

LAMYのsafariは、世界中の筆記具ファンから人気の高い万年筆です(ボールペンやシャープペンシルもありますが、LAMYのsafariといえばやっぱり万年筆)。軽くて丈夫な樹脂ボディ、正しくペンが握れるくぼみを設けたグリップ、そしてビビッドなカラーリングによって、ヨーロッパでは昔から小学生向けの1本として選ばれてきました。

それがリーズナブルな価格や強度の高さもあってか、しだいに幅広い世代に愛用される存在となったのです。子どもにこそ本物をという真摯な思いがある一方で、前触れもなく限定モデルを発売するような遊び心もあるのがsafariのいいところ(海外では限定のポケモンデザインが出ていたりも)。

筆者もこの限定カラーを集めていますが、人気で定番化するものもあれば限定で終わる場合もあるので「出会ったときが買いどき」と考えています。今回のncodeは、コレクション的な意味でも興味深いアイテムです。なぜなら、ペン先が万年筆とローラーボールを融合させたようなデザインだから。Neo smartpenの構造による部分が大きいのでしょうが、今後もほかのsafariでは見られない造形のはずです。

  • 「LAMY safari all black ncode」のキャップをペン尻に付けて持つ(書く)と、若干ですがペン尻側が重く感じるかもしれません。使う人によっては、キャップなしのペン本体だけで書くほうがスムーズだと思います

  • 充電はmicroUSB端子。USB Type-C端子だともっとよかった……。ペン先側の穴の奥には、手書きをデータ化するためのスキャナー機能があります

そして、艶仕上げだったsafariのボディに初めてマットカラーが登場したのは2016年のこと。そのときはずいぶん大人っぽく感じたものですが、それがのちにall blackの登場、そしてこのncodeへとつながったのだとしたら――。時代が変わっても、かつての子どもたちが大人になってもずっと使えるものを、という思いから生まれたアイテムなのかもしれません。

デザインのよさや印象を損なわずに新しい技術を取り入れ、後世へと伝えていく。そんなものづくりへのこだわり、二つの企業のよさを生かした真のコラボレーションこそが、文房具の面白さや愛着を生み出しているに違いありません。1930年創業の老舗筆記具メーカー・LAMYと、筆記具の未来を開発するネオラボが生み出した「LAMY safari all black ncode」&「LAMY digital paper notebook」、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。