亡くなったときや病気で入院したとき、老後生活をむかえたときなど、所定の状態になると社会保障制度による保障を受けられる。しかし、いくら日本の社会保障制度が充実しているとはいえ、お金が不足してしまう可能性はある。
こうした事態に備えるためには、社会保障制度からの給付も考慮したうえで必要な保障額を計算し、適切に民間保険に加入することが大切だ。本記事では、お金が不足する可能性があるケースや、金銭的に不足する事態に備えられる保険の種類などを解説する。
お金が足りなくなる事態とは
お金が足りなくなる事態の代表例は、次のとおりだ。
- 亡くなったとき
- 病気・けがになったとき
- 老後生活を迎えたとき
- 介護が必要になったとき
亡くなったとき
一家の大黒柱が亡くなったとしても、残された家族は引き続き生活していかなければならない。小さな子供がいるのであれば、教育費や進学費の支払いも必要だろう。賃貸物件に住んでいる場合は、引き続き家賃の支払が必要だ。また自身の葬儀費用やお墓の購入費などもかかる。
日本国民は原則として公的年金に加入しているため、亡くなったあとは所定の要件を満たす家族「遺族年金」が支給される。しかし遺族年金だけでは、世帯主が亡くなったあとの生活費や住居費、子供の教育費などを賄えるとは限らない。
生命保険文化センターの調査によると、世帯主が亡くなったときに必要な生活資金について尋ねたところ、全年齢平均で約5560万円となった。小さな子供がいると想定される30〜34歳では8400万円、35〜39歳では7263万円となっている。
病気・ケガで入院や手術をしたとき
病気・ケガでの入院や手術は、日常生活におけるもっとも身近なリスクだ。日本国民は、原則として公的医療保険に加入しているため、入院や手術などをしても自己負担するのはかかった医療費の1〜3割でよい。またひと月で自己負担した医療費が高額になった場合「高額療養費制度」を申請すると、いくらか払い戻してもらえる場合がある。
ただし希望して個室に入った場合の差額ベッド代や、入院中の食事代などは全額自己負担だ。先進医療や自由診療など、公的な医療保険の対象外となる医療行為もある。加えて働けなくなった場合は、公的医療保険の傷病手当金を受給できたとしても、収入は低下するのが一般的だ。
生命保険文化センターの調査によると、直近の入院時に自己負担した費用と逸失収入(得られなくなった収入)の総額は平均で30万4000円だ。またアンケートに回答したひとの5.5%が、自己負担と逸失収入の総額が100万円以上であったと回答している。
病気やけがを負った結果、一定の障害が残るケースもある。所定の障害状態になると、障害の度合いに応じた額の障害年金を受給できる場合がある。しかし障害年金を受給しても、生活が金銭的に困難となるケースは少なくない。
老後生活を迎えたとき
老後生活を迎えると、多くの場合、主な収入源が国から支給される老齢年金となる。またサラリーマンや公務員などは、退職一時金や退職年金を受け取れる場合がある。
一方、老齢年金や退職金だけで生活ができるとは限らず、不足分は計画的に準備しなければならない。生命保険文化センターの調査では、老後における最低限の生活費は平均で22万1000円、ゆとりある老後生活を送る場合に必要な生活費は36万1000円となっている。
自助努力で準備すべき老後資金は、老後の生活費や老齢年金の受給額などによって異なり、2000万円とも3000万円ともいわれている。老後の必要生活費から、老齢年金を含む老後の収入を差し引いて不足額を計算し、計画的に準備することが大切だ。
介護が必要になったとき
老後生活においては、介護の費用についても考えなければならない。身体能力が衰えて介護が必要な状態となり、市町村から要介護の認定を受けると、公的介護保険を利用して、訪問介護や訪問入力などの介護サービスを利用できる。
ただし介護サービスを利用するためには、1〜3割の自己負担が必要なだけでなく、所定の上限を超えた介護サービスの利用費は全額自己負担となる。生命保険文化センターの調査によると、過去3年間で介護をした経験がある人が自己負担した費用と、介護をした期間の合計は次のとおりだ。
- 初期費用(住宅の改修費用・介護用ベッドの購入費用など):約69万円
- 月々の費用(公的介護保険の自己負担・おむつ代など):約7万8000円
- 介護をした期間:54.5カ月(約4年半)
単純計算だが、介護費用の自己負担は合計で約7万8000円×54.5+約69万円≒約500万円となる。
お金が不足する事態に備えられる保険
ここでは、お金が不足する事態に備えられる保険の種類を分かりやすく解説する。
死亡・高度障害に備えられる保険の例
死亡や高度障害に備えられる保険を、一般的に生命保険という。生命保険には、次のような種類がある。
- 定期保険
- 収入保障保険
- 終身保険
定期保険や収入保障保険は、いわゆる掛け捨て型の保険だ。解約したり満期を迎えたりしても戻ってくるお金がない代わりに、手頃な保険料で手厚い保障を準備できる。 小さな子供がおり生活費や教育費がかかる世帯は、定期保険や収入保障保険に加入すると保険料負担を抑えて必要な保障を準備できる。
定期保険と収入保障保険の大きな違いは、保険金の支払われ方だ。定期保険は、保険金が一括で支払われるのに対し、収入保障保険は「月額15万円」のように分割で支払われる。
終身保険は、一生涯の死亡保障を得られる保険であるため、葬儀費用や墓の購入費用など亡くなった時に高い確率で発生する支出に備えやすい。また途中で解約すると、支払った保険料以上の解約返戻金が戻ってくることがあるため、 老後資金の準備にも活用できる。
病気・ケガ、障害状態に備えられる保険の例
病気やケガ、所定の障害状態に備えられる保険の例は、以下のとおりだ。
- 医療保険
- がん保険
- 就業不能保険
医療保険は、病気やケガによる入院・手術などで給付金が支払われる保険であり、医療費の自己負担や差額ベッド代などをカバーできる。
がん保険は、保障の対象となる病気をがんに絞っているぶん、がんと診断されたときや所定のがん治療を受けたときに手厚い給付を受けられる傾向にある。がん治療が長引いたり、自由診療を受けたりしたときの高額な医療費負担に備えられるだろう。
就業不能保険は、病気やケガで働けない期間が一定期間を過ぎると、給付金が支払われる保険だ。 所定の障害等級に認定されると給付金が受け取れるタイプもある。
老後資金や介護状態に備えられる保険の例
老後資金を準備するときや、介護状態に備えたいときは以下の保険を検討するとよい。
- 個人年金保険
- 介護保険
個人年金保険に加入して保険料を支払うと、所定の年齢に達したとき10年や15年などの一定期間、または一生涯にわたって年金を受け取れる。老後の生活費を、個人年金保険で準備する人は少なくない。
介護保険は、所定の介護が必要な状態になると「介護年金」や「介護一時金」あるいはその両方が支払われる。介護保険に加入することで、介護サービスの自己負担分や住宅の改修費用など、介護に関するさまざまな支出を賄えるだろう。
亡くなったときの必要保障額をシミュレーション
ここでは、亡くなったときの必要保障額の計算方法を解説する。亡くなったときの必要保障額は、亡くなったあとの支出見込額から、収入見込額を差し引くと算出が可能だ。
今回のシミュレーションでは、年収が500万円である32歳の男性が亡くなったと想定する。家族構成は、30歳の妻と、1歳の子供。妻の年収は300万円、退職金は1000万円とする。保有する金融資産は合計で400万円、毎月の生活費は30万円、家賃は10万円、夫の死亡退職金は300万円にそれぞれ設定した。
以上の条件における支出見込額と収入見込額の目安は、以下のとおりだ。なお支出見込額のうち生活費や居住費は、妻が平気寿命を迎えるまでの金額とする。
万一のときの支出見込額
遺族の生活費 |
1億2200万円 |
子供の教育費 |
1000万円 |
住居費 |
7000万円 |
葬儀費用 |
300万円 |
予備費 |
100万円 |
合計 |
2億400万円 |
万一のときの収入見込額
遺族年金 |
7000万円 |
配偶者の勤労収入 |
8750万円 |
夫の死亡退職金 |
300万円 |
自己資産 |
400万円 |
妻の退職金 |
1000万円 |
合計 |
1億7450万円 |
よって、必要保障額は、2億400万円-1億7450万円=2950万円となる。生命保険に加入する際は、最低でも保険金の受取総額を2950万円に設定する必要があるだろう。また子供の成長に伴い、備えるべき生活費や教育費は減っていくため、生命保険の死亡保障額も適宜見直していく必要がある。
なお本シミュレーションは、あくまで概算の金額だ。詳細な必要保障額は、ファイナンシャルプランナーをはじめとした専門家に試算してもらうと良いだろう。
状況に応じて民間保険を選ぼう
民間保険に加入する際は、「何に備える必要性が高いのか」「いつまで保障が必要なのか」「支出のうちいくらを保険料に充てられるか」などを考えることが大切だ。
たとえば小さな子供がいる家庭の世帯主は、死亡保障に加入する必要性が高いだろう。 一方独身であり、亡くなったあとも経済的に困る家族がおらず、貯蓄が不十分であれば病気やケガに対する備えの優先順位が高いと考えられる。
保障が必要な期間については「子供が独立するまで死亡保障に加入する」「貯蓄が〇〇万円貯まるまで医療保険に加入する」のように決める。
毎月支払っていく保険料の額は、現在だけでなく将来の生活における支出も考えた上で決めることが大切だ。民間保険の加入期間は、長いと数十年にわたるため、今後の生活も踏まえて 払込が可能な保険料の額や保険料の払込期間、保険料の払込方法を決めよう。
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