アドビが毎年開催している、世界規模のクリエイティブカンファレンス「Adobe MAX」。2021年度は2020年に引き続きオンラインで行われ、Adobe Creative Cloudの最新アップデートや将来搭載される予定の新技術などがお披露目される。
ここでは、発表になった新機能のうち、チームメンバーでコラボレーションしながらクリエイティブワークを進める際に便利な新サービス「Adobe Creative Cloud Web」を中心に紹介していこう。
リアルタイムで効率的な共同作業を実現する「Adobe Creative Cloud Web」
コロナ禍でテレワークの導入が進み、リモートでの共同作業が珍しくなくなったが、そこで課題として浮かび上がってきたのが、チームメンバーでコラボレーションする際のアセット共有やバージョン管理などのやり方。「Adobe Creative Cloud Web」は、それらの課題を解決する新しいサービスだ。
Adobe Creative Cloud Webは、アイデア出しから実制作のプロセスに至るまでのすべての段階でハブとなるような「場」を提供するもの。おもな機能としては、「Adobe Creative Cloud スペース」と「Adobe Creative Cloud カンバス」があり、共同作業を円滑に進めるためのツールとしてPhotoshopやIllustratorのWeb版も用意される。
Adobe Creative Cloud スペース
「Adobe Creative Cloud スペース」は、プロジェクトに関わるすべての人が素材や資料にアクセスできる“デジタル空間”とでもいう機能。プロジェクトの全工程を通して、コンテンツや担当者に関する情報が常に最新の状態にアップデートされるため、関係者全員の情報共有が容易になる。
簡単に言えばブラウザ上で扱える共有フォルダのようなものだが、ファイルだけでなくWebサイトやCreative Cloudライブラリへのリンクなども配置して共有することができる。また、後述する「Adobe Creative Cloud カンバス」にもここからアクセスすることが可能だ。
当初は招待制のベータ版(プライベートベータ版)として提供され、一般のユーザーには2022年から順次利用できるようになる見込み。Adobe Creative Cloudの一部機能として搭載されるほか、PhotoshopやIllustrator、FrescoなどのCCアプリ内からも直接アクセスできるようになるという。
Adobe Creative Cloud カンバス
「Adobe Creative Cloud カンバス」は、プロジェクトの内容をビジュアライズして共有するのに便利なツール。言ってみればブラウザ上で動作するホワイトボードのような機能で、クリエイティブワークや画像のサムネイルを自由に配置できる。
たとえばWebサイトを制作する場合、Webページのデザイン案を並べたり、ページ内で使用する画像のサムネイルを配置したりして、視覚的にわかりやすく整理して共有することが可能。配置されたコンテンツには、コメントやステッカーなどをつけることもできる。画像の場合は、今回同時に発表されたPhotoshop web版で直接開いて編集することもできる。
これらの作業はすべてブラウザ上でリアルタイムに行えるため、チームメンバーと一緒にクリエイティブワークを確認・修正したり、複数の案を比較検討したりするような作業がグッとラクになる。こちらの機能も当初はプライベートベータ版として提供される予定だ。
Adobe Photoshop web版およびAdobe Illustrator web版
「Adobe Photoshop web版」および「Adobe Illustrator web版」は、名称からも分かるようにブラウザ上で動作するPhotoshopとIllustrator。デバイスにこれらのアプリがインストールされていなくても、Webブラウザがあれば主要機能を利用することができる。
デモではPhotoshop web版を使って画像を修正する様子が披露されたが、レイヤーや色調補正などの基本機能はもちろん、オブジェクトの拡大・縮小やクイック選択ツール、スポット修復ブラシなども、アプリ版を使うのと同様に動作していた。
アプリ版に搭載されているすべての機能が使えるわけではないが、簡易的な修正ならアプリを起動しなくても、ブラウザ上で素早く対応できるようになりそうだ。
なお、Illustrator web版に関しては当初はプライベートベータとしての提供になるが、Photoshop web版は一般のユーザーも利用できるパブリックベータとして提供される予定とのこと。期待して待ちたい。
作品の盗用・悪用対策に役立つ「コンテンツ認証イニシアチブ」も進化
アドビの調査では、クリエイターの過半数が作品を盗用されたり、オンラインで悪用されたりした経験があるとのこと。作品がオリジナルであることを簡単に証明できるアトリビューション(コンテンツ属性)ツールがあれば使用したいと回答した人も8割以上にのぼったそうだ。
そうしたクリエイターの声を受けてアドビが2年前に発表したのが「Content Authenticity Initiative(コンテンツ認証イニシアチブ=CAI)」。コンテンツの帰属情報を画像や動画に付与することで改ざんやディープフェイクなどの被害を防ぐという取り組みで、これまでに375以上の企業・団体が参加している。
今回、その一環としてすべてのCreative Cloudユーザーを対象に提供される機能が「コンテンツクレデンシャル(ベータ版)」だ。PhotoshopやAdobe Stockなどで利用することができる。
たとえばクリエイターは、Photoshopに内蔵された同機能を使うと画像の著作権情報や変更履歴を暗号化して署名することができるようになる。消費者側では、新しく開設されたWebサイトで、画像のの編集履歴を簡単に確認することが可能だ。
デモでは、Photoshopでコンテンツクレデンシャル機能を有効にすることで、著作権情報や編集内容、編集者の情報などが自動的に記録されていく様子が披露された。
これらの情報は、書き出しの際に「画像に添付」を選ぶことでJPEG画像などにメタデータとして埋め込むことが可能。また、確認用のWebサイトの画面にドラッグ&ドロップするだけで、どういう機能を使って編集されたかまで確認することができる。
今回はAI機能を使って編集された画像や、合成された画像の変更履歴をWebサイトで確認する様子も紹介されたが、合成前と合成後の画像を簡単に比較することも可能なようだ。作品の悪用やなどに悩んでいるクリエイターは、ぜひこの機能にも注目してみてほしい。