eモータースポーツのプロリーグ「UNIZONE」が2025年2月24日に開幕しました。「UNIZONE」は、レースゲーム『iRacing』を使用したeモータースポーツリーグで、2025年シーズンは全5レースの実施を予定しています。
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国内のeモータースポーツリーグ「UNIZONE」がいよいよ開幕
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開幕戦は「ビエント高崎」にてオフラインで開催されました
参加チームは「遠州ハママツモータース(遠州HM)」「群馬ダイヤモンドペガサス(群馬DP)」「Saishunkan Sol 熊本(SS熊本)」「東京ヴェルディレーシング(東京VR)」「名古屋OJA」の5チームです。どのチームもチーム名に都市名が入っており、地域性を全面に押し出しています。
1チーム3名以上の選手登録が必要で、『iRacing』のレーティングシステム「iRating」において、ロードカテゴリーの「フォーミュラ(オープンホイール)」もしくは「スポーツカー」で4000以上を保有していること、また、JAFで定める「国際B級ライセンス」以上のライセンスを保有していることが条件です。
つまり、『iRacing』のトッププレイヤー以外にリアルレースのレーサーが1人以上参加する義務があるわけです。さらにリアルレーサーはすべてのレースに参加しなくてはならず、勝利の行方はリアルレーサーにかかっているとも言えるレギュレーションです。
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遠州ハママツモータース
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群馬ダイヤモンドペガサス
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Saishunkan Sol 熊本
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東京ヴェルディレーシング
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名古屋OJA
大会は、予選タイムアタック、スプリントレース①、スプリントレース②、セミ耐久レースの4つで構成されます。それぞれのレースで各チームから2名が参加し、個人ポイントとチームポイントを争います。
予選タイムアタックのコースは、富士スピードウェイで、車種Super Formula SF23 – HondaかSuper Formula SF23 – Toyotaのどちらかが使えます。スーパーラップ方式で1周のタイムアタックです。予選の結果は当該ラウンド各レース共通のグリッドを決定します。少なめではありますがポイントも付与されます。
スプリントレース①のレギュレーションは予選タイムアタックと同じ。周回数は10周で、予選順位によるグリッドスタート(縦に整列してレースを始める方式)です。スプリントレース②のコースはスパ・フランコルシャン。車種は・Porsche 911 GT3 R(992)、Ford Mustang GT3、Lamborghini Huracán GT3 EVO、McLaren 720S GT3 EVO、Mercedes-AMG GT3 2020、Ferrari 296 GT3、Chevrolet Corvette Z06 GT3.R、BMW M4 GT3、Audi R8 LMS EVO Ⅱ GT3、Acura NSX GT3 EVO 22の10台から選べます。周回数は8周でこちらもグリッドスタートです。
セミ耐久レースは各チーム2名が参加し、1台のマシンをピットイン時のドライバーチェンジで乗り継いで走行します。コースはスパ・フランコルシャン。使用できる車種はスプリントレース②の10台と同じです。
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スプリントレース①、②は10選手が同時に走り、セミ耐久レースはチームから2人出場し、交代でどちらかが走ります
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実況はモータースポーツ実況でお馴染みの笹川裕昭氏、ゲスト解説はシムレーサーのスオミアッキ氏とレーサーの大嶋和也氏
開幕戦となる「UNIZONE 2025 Rd.1」では、名古屋OJAが2位のSS熊本の約2倍のスコアという、ぶっちぎりのポイント数で首位を獲得します。「SUZUKA eMotorsports Experience 2022(SeCR)」にて、初代シリーズチャンピオンに輝いた武藤壮太選手がその実力を存分に発揮します。
なんとすべてのレースに出場し、すべてのレースで1位を獲得する快挙を成し遂げました。チームメイトの小出峻選手も2位が1回、3位が2回と好成績を残します。
リアルレーサーは、シムレーサー(eモータースポーツのレーサー)に比べ、『iRacing』の練度が低く、かなり苦戦を強いられるとみられていただけに、大健闘と言えます。
はやくも王者の貫禄を見せる名古屋OJAに対して一矢報いたのがSS熊本の黒沢和真選手。高校生でありながら「UNIZONE」に参加するだけの実力を持ち合わせており、唯一、名古屋OJAの牙城に食い下がります。予選タイムアタックとスプリントレース①では2位に入り、ポイントを稼ぎました。
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スプリントレース①はスーパーフォーミュラSF23を使用して行われました
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スプリントレース②とセミ耐久レースはGT3車両を使用しています
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オフライン開催となった「UNIZONE」第1戦は無事閉幕しました
「UNIZONE 2025」の5回の大会のうち、オフラインで開催予定なのは、今回のみ。記念すべき開幕イベントとして、また、唯一のオフラインイベントとして、ビエント高崎では、訪れたファンがより楽しめるように体験プログラムも用意していました。
レースゲームとしても馴染みが薄い『iRacing』を体験してもらうためにグラスルーツコーナーを設置。ハンドルコントローラーやフットアクセル、フットブレーキで操作ができるコクピットでプレイできました。
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『iRacing』の体験コーナー。『iRacing』はかなりシビアなリアル操作を売りにしており、難易度の高さを実際に体験できます。体験したあとにレースを観れば、レーサーのスキルの高さが余計に際立つでしょう
スーパーフォーミュラの実車マシンが展示されたコーナーもありました。撮影することはもちろん、マシンに乗り込むこともできます。思った以上に狭く、低いコクピットに驚く人もいました。
「UNIZONE」のアシスタントMCやフィールドレポーターなどを勤めるセント・フォースのゲームブースも展示。ブース内ではストリーミング配信も行っており、ファンとの交流も行われていました。
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実車のスーパーフォーミュラを展示。コクピットに入って記念撮影もできました
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セント・フォースのゲームブース。アシスタントMCやフィールドレポーターなど役割が多かったので、5人そろう機会は稀でした
各チームのブースも用意。名古屋OJAのブースではNintendo Switchの『ポケモンユナイト』を用意し、プロゲーマーとの対戦を行っていました。SS熊本には『ストリートファイター6』のプロゲーマーであるネモ選手とひぐち選手がチームの応援に駆け付けていました。
東京VRはレーシングスーツやヘルメットを用意し撮影が行えるコーナーを用意。群馬DPには大きなぐんまちゃんのぬいぐるみがあり撮影スポットになっていました。遠州HMは餃子や鰻など浜松の特産物をアピールしていました。
飲食は2台のキッチンカーを用意。会場内で飲食できるのは、より観戦が楽しめるので、今後も続けてほしいところです。
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名古屋OJAのブース。『ポケモンユナイト』のプロ選手と対戦ができました
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名古屋OJA
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撮影スポットがあった東京VR
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東京VR
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『スト6』のネモ選手とひぐち選手が応援に駆け付けていました
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SS熊本
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ぐんまちゃんのぬいぐるみと撮影ができた群馬DPブース
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群馬DP
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浜松をアピールする遠州HM
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遠州HM
さて、初となる「UNIZONE」ですが、ほかのeモータースポーツ、eスポーツと差別化が図られ、大会の方向性なども見えるいいリーグだと感じました。
まずは参加チーム。どのチームも地域名が入っています。そして北は群馬から南は熊本まで、各地に分布しており、地域性を出すとともに、地域活性化の一翼を担うことが考えられています。
大会中に行われたトークセッションでも、今後チームを10チームまで増やす予定があると言っていましたが、おそらく、今参加しているチーム以外の地域からチームが参加すると考えられます。さらに、地域性を出せるかどうかも重要になってくるでしょう。
なので、単純にeスポーツチームとしての人気、規模にかかわらず、参加チームが決定していくと思われます。トークセッションでは海外チームの参戦も見越しているとの発言もありました。eモータースポーツでは海外の大会でもオンラインで参加することがあるので、さまざまな国からの参加がありうるでしょう。
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レースの合間にレーサーによるトークセッションが行われました
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レース終了後には主催者によるトークセッションも行われました
また、次回大会からはオンライン大会となるものの、地域性を活かすためにパブリックビューイングが行われるという話もありました。もしかしたら、観客の前で選手がプレイする形で、オンラインに参加する可能性もあり、地域との密着性を高め、地元に根付いたチーム運営が期待されます。
チーム数は予定の半分であり、大会の規模もそれほど大きいものではありませんでしたが、これは徐々に拡大していくということで、最初から無理をしないように思え、好感が持てました。
また、使用タイトルが『iRacing』を使ったのもeモータースポーツ自体を拡大するためにさまざまなタイトルを広める多様性があっていいと思います。すでに展開しているeモータースポーツの大会との差別化をはかっているのもわかりました。
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『iRacing』らしく3画面を使用したコクピットを使っていました
レギュレーションとして、選手の参加資格に、国際B級ライセンスの保持というのがあり、eモータースポーツとモータースポーツの融合を考えていることも伝わります。
国際B級ライセンス持ちの人が必ずレースに出ていなくてはならないルールなので、リアルレーサーがいかにeモータースポーツに適応してくるかが勝敗のカギとなりそうです。その点においては、練度の高い同じチームのシムレーサーからどれだけ情報を得て、それを反映できるかが注目です。
次の大会は4月29日を予定。約2カ月でどれだけ適応するかが今後の結果につながることでしょう。レーサーとして活躍しているので基本的な操作やポテンシャルは高いと思います。あっという間にシムレーサーを脅かす存在が登場するかもしれません。
ちなみに、eスポーツの世界において、リアルとバーチャルの親和性が高いのがeモータースポーツとモータースポーツと言われています。eモータースポーツはゲームでありながら、シミュレーターの側面もあり、ゲームで培われたスキルがリアルでも活かせますし、もしくはその逆も起こりうる世界です。
それだけに、リアルとバーチャルの融合はほかのジャンルに比べ、期待できると言えます。実際にリアルとバーチャルの両方で活躍している選手もこれまでにいますし、バーチャルからリアルのレーサーになった選手、リアルレースからバーチャルもプレイするようになった選手は数多く存在します。
今回、現地の取材には、eスポーツ関連のメディアと自動車関連のメディアの両方が来ていました。この点においても、eスポーツとしてもモータースポーツとしても注目される存在であることは間違いありません。
そして、それは先述したeモータースポーツとモータースポーツの融合を目指したことによる成果と言えるでしょう。メディアだけでなく、ゲーム業界と車業界が手を携えて、連携することができれば、これまでのeスポーツやフィジカルスポーツでは為し得なかった相乗効果が生まれる可能性があります。
今後「UNIZONE」が、ひいてはeモータースポーツが大きく躍進するには、各ゲームタイトル、団体、バーチャル・リアル、自動車メーカー各社が手を取り合って、協力することが大きなカギとなると感じています。

著者 : 岡安学
おかやすまなぶ
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