Uber Japan、日本郵便、加賀市が日本初の公共ライドシェアドライバーによる貨客混載実証事業を開始することを発表した。国土交通省のドライバーシェア推進協議会の方針に沿ったもので、加賀市内でこの3月から正式に開始される予定だ。

  • 日本初の公共ライドシェアドライバーによる貨客混載実証事業が加賀市でスタートする。中央が加賀市長

旅客も荷物も載せて走る公共ライドシェア

加賀市は2024年3月16日の北陸新幹線敦賀延伸を前に、観光客の増加や二次交通不足に備え、同年3月12日からUberアプリを使った公共ライドシェアの本格運用を開始していた。今回の事業には、その公共ライドシェアに加え、そのドライバーの収入向上や、ライドシェア供給の安定化、そして、日本郵便側の配達リソースの確保という効果が期待されるという。

Uberは日本国内の各地のタクシー事業者と連携し、その配車システムサービスを提供している。公共ライドシェアというのは現状のタクシー事業だけでは不足している移動の足を、タクシー事業者の管理のもと、地域の自家用車や一般ドライバーを活用する新たな仕組みだ。つまり、政府が推進する「市町村やNPO法人などが、自家用車を活用して提供する有償の旅客運送」だ。

現時点では京都府京丹後市、北海道中頓別町、石川県加賀市において、Uber アプリで自家用車の配車を受けることができる。加賀市はこの制度を導入した初の自治体だが、今回は、そのUberドライバーが日本郵便のゆうパックの配達を担うという事業だ。

観光客の増加で移動手段不足が発生

ドライバーは加賀郵便局と契約し、ゆうパック小包を受け取り、自家用車のトランク等に収納し、公共ライドシェアの待機中など、活動の空き時間にそれを配達する。当面は配達時間指定のない荷物のみを対象とするそうで、どこかの瞬間では旅客と貨物が混載されている可能性がある。

タクシーは旅客自動車運送、トラックは貨物自動車運送事業だが、その事業のかけもちをできるようになった結果として、2023年に地域の関係者による協議が整ったことを条件として全国でこれができるようになった。

加賀市の公共ライドシェアは、現在、15名の二種免許取得者を含む35人のドライバーが登録し、飲酒後に帰宅する地元住民や出張者を含む国内観光客、外国人観光客の間で利用が伸びているという。ドライバーは加賀市観光交流機構と業務委託契約を締結、2種免許または1種免許で大臣認定講習を受講済みだ。タクシー料金の8割で旅客運送を担う。

加賀市の面積は305.9平方キロで東京23区全体面積のほぼ半分だ。その人口は約6万人となっている。石川県南西部に位置し、北東は小松市、南西は福井県。加賀市には山代温泉、山中温泉、片山津温泉、小松市には粟津温泉があるが、加賀温泉はその総称だ。こうしたバックグラウンドをUberが走る。

効率的な輸送をしないと地方の物流は行き詰まる

発表会で説明にたった加賀市長の宮元睦氏は、加賀市が移動手段不足の危機に直面していると切り出した。公共ライドシェアを開始した昨春は、新幹線の開業にたいへんな期待もっていたが、震災があって大きな被害をうけたこともあり、出足は爆発的なことにならななかったともらす。

だが、人手不足の深刻さは変わらないと宮元氏。今年の1月に規制が変わり、貨客混載が可能になったことから今回の実証事業に踏み切ったという。

EC物流が増加し、宅配の流れも加速している。ロジスティックスの現場にも人がいなくなってきているのだ。もちろん旅客輸送も運転手不足に悩まされている。だから貨客混載などの合理化は必須の課題だというのが市長の考えだ。

将来は、ICTを駆使したMaaS(Mobility as a Service。サービスとしての移動)を人だけではなく貨物を含めたサービスとしてみていかないと地方の物流はどこかで行き詰まる。地方が衰退すれば東京も衰退すると加賀市長は断言する。

貨客混載は配車利用の波が発生することでドライバーに空き時間ができてしまうことをなんとかしたいという願いをかなえるために始めるが、配達料金は荷物の個数による歩合で、1日あたり100個にはとても届かないだろうという説明もあった。

東京から石川県まで一般的な60サイズの荷物を郵便局持ち込みで送る場合、760円の運賃だ。仮に集荷に来てもらった場合は120円の割引きになる。ということは配達コストも同等で120円だとすると、10個配達しても1,200円だ。ドライバーに入るのは1,000円を切るかもしれない。

この地域で10個の配達が1時間ですむはずもなく、結果として東京都の最低賃金時間額1,163円や石川県の984円をクリアするのは難しそうだ。そうした試算も考慮したが、それでもなんとかしなければならないことからの実証事業だと運営側は説明する。待ち時間を1分でも無駄にしない。そのくらい事態は切実だということだ。

テクノロジーによる問題解決を積極的に進めたい

人口減少が厳しく、消滅する都市の危機感を持つというのは、東京にいるとわからないだろうけれど、実に深刻な状況だと加賀市長は訴える。タクシーの配車すら満足にできないといったことが、全国のいたるところで起こっている切羽詰まった状況だという。

個人的にもそのことは実家に戻ったときなどに痛感する。とにかく公共交通機関にたよるのがたいへんなのだ。このタイパの時代に平気で1時間以上を移動待機に求められる。それがいやなら歩く。回数が増えるとUber料金も高額で負担に感じる。高齢化が進む人口構成では暮らしに大きな影響を与えることにもなりそうだ。そういう地域でこそ、テクノロジーを使った問題解決を積極的に進めていく必要がある。明日は我が身だと、全国の自治体は考えた方がいい。