アドビは2月13日、東京ビッグサイトで「Adobe MAX Japan 2025」を開催しました。「Adobe MAX」はクリエイター向けの年次イベントですが、代表取締役社長の中井陽子氏によれば、今年は過去最速となる約1ヵ月でチケットが完売したとのこと。約3200人が詰めかけたキーノートには、日本で開催される同イベントでは初めて、本社会長兼CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏が来日し、登壇しました。
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アドビ株式会社 代表取締役社長の中井陽子氏
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アドビ 会長兼CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏
イベントの開催にあわせて、グローバルで重要なアップデートも発表されました。中でも注目すべきトピックのひとつが、プロンプトや画像による動画の生成を可能にする「Adobe Firefly Video Model」ベータ版の公開です。
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キーノートでは、Adobe Illustratorの日本語エンジン刷新など、日本向けの取り組みも紹介されました。日本語エンジンの刷新については、以前にくわしくご紹介しています
Adobe Firefly Web版のアップデートで、画像に加えて動画、音声も生成可能に
アドビが提供する生成AI「Adobe Firefly」 のWeb版が大幅アップデートされ、画像の生成に加えて、テキストのプロンプトやアップロードした画像から動画を生成できる機能が追加されました。ほかにもアップロードした動画の音声を20カ国以上の言語へ翻訳して、吹き替え音声を生成できる機能などが利用できます。
あわせてAdobe Firefly Web版を本格利用するための、新しい料金プランも登場。月額1,580円で5秒間のビデオを最大20本生成できるFirefly Standard、月額4,780円で同じく最大70本生成できるFirefly Proの提供が開始されています。
リニューアルされたAdobe Firefly Web版が「業界のゲームチェンジャーになる」と話すのは、キーノートに登壇した、マーケティング ストラテジー&コミュニケーション担当バイスプレジデントのステーシー・マルティネット氏。画像だけでなく動画も生成できるようになったことで、「様々なメディアタイプでのアイデア出しが可能になる」と説明します。
Fireflyはクリエイターのためのツールとして開発されているため、生成された動画はPhotoshopやPremiere ProなどのAdobe Creative Cloudアプリケーションと連携が可能です。また、画像の生成と同様に、動画生成のための学習データにも許諾のとれたアセットのみが使用されているため、「安心してコンテンツを生成できる」と言います。生成したコンテンツは「そのままプロダクションで使っていただけます」とアピールしていました。
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アドビ マーケティング ストラテジー&コミュニケーション担当バイスプレジデント、ステーシー・マルティネット氏
キーノートでは、画像から動画を生成し、それをPhotoshopで作成中のグラフィックに組み込むデモも紹介されました。2枚の画像を使って動画の開始点と終了のキーフレームを指定し、その間の動画を生成することもできます。
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画像から動画を生成できるだけでなく、カメラアングルや動きも指定できます
このほか、直観的なUIで3Dデザインが作成できる「Adobe Project Neo」のパブリックベータ版も公開されました。Adobe Firefly Web版ではこのProject Neoで作成した3Dモデルをもとに、画像を生成できる機能もベータ版として提供されています。
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IllustratorやPhotoshopのような使い慣れたUIで3Dデザインができる「Adobe Project Neo」パブリックベータ版
リリース以降、驚くような速度で進化を遂げているFireflyですが、CEOのナラヤン氏は「AIは人の創意工夫を補助し、拡大するもの。生産性を向上させるもので、置き換えるものではない」と強調します。「生成AIはそれ自体が目的ではなくて、クリエイティブなプロセスの材料に過ぎない」とナラヤン氏。だからこそ、Adobe Creative Cloud製品のワークフローに統合し、「クリエイターの皆さんがアドビに期待されるような力や、精度を提供することが重要」だと話しました。
コミュニティからのフィードバックなど、アドビが重要視する日本市場
メディアのグループインタビューに応じた、デザイン & エマージングプロダクト担当 シニアバイスプレジデントのエリック・スノーデン氏も、「Fireflyはクリエイターの課題を解消するためのもの」だと説明します。たとえば画像生成の機能は、すでにPhotoshopの機能の一部に組み込まれています。生成AIによって、ワークフローの中でこれまでできなかったことや、手間がかかっていたことが簡単にできるようになっています。
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デザイン & エマージングプロダクト担当 シニアバイスプレジデント、エリック・スノーデン氏
「私たちが生成AIのような新しいモデルを出すときは、ワークフローの中でこういうところが課題だとか、こういうところが難しいということをユーザーの皆さんに聞いて、ワークフローをより合理的にスムーズに進めるために、必要な機能を提供するようにしています」とスノーデン氏。今回のイベントの直前にも、40名ほどの日本のAdobe Illustratorユーザーと直接会って、フィードバックを受けたと明かしました。
「アドビにとって日本はとても重要な市場です。CEOが来ていることからも、このイベントがアドビにとっていかに重要かがわかると思います。Adobe MAX Japanは米国のAdobe MAXのローカル版ではなく、日本のお客様と直接会って話すための重要な位置づけになっています」と語っていました。
「Adobe MAX Japan 2025」では、そんな日本のユーザー向けに70を超えるセッションが展開されたほか、展示会場にはユーザー同士の情報交換の場として「コミュニティラウンジ」も設けられ、多くのクリエイターで賑わっていました。
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終日多くのクリエイターが足を止めていた、展示会場の「Adobe Firefly」コーナー
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イベントにあわせてリリースされた、日本語バリアブルフォント「百千鳥(ももちどり)」のブースはフォトスポットに
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今年35周年を迎えるPhotoshopのブースには、クリエイターのPhotoshopとの思い出がたくさん貼られていました
次のAdobe MAXイベントは4月24日にロンドンで開催予定
締めくくりに開催されたアフターパーティーでは、クリエイターが作成するイベントビジュアルのコンテスト「MAX Challenge」の表彰が行われました。今年は686作品の応募があったと言います。また、アドビリサーチのテクニカルリサーチアーティスト伊藤大地氏がゲストとして登壇。昨年秋に米国のマイアミビーチで開催された「Adobe MAX 2024」で披露された、Sneaks(開発中の技術をチラ見せするイベント)から選りすぐったものを日本向けにアレンジしたデモが展開されました。
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アドビリサーチ テクニカルリサーチアーティスト 伊藤大地氏
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切り抜き写真をワンクリックで背景になじませ、自然な合成が簡単にできる「Project Perfect Blend」。デモにはアドビブログやCC道場でおなじみのメンバーが登場
実は今回の「Adobe MAX Japan 2025」は例年のような日本法人の主催ではなく、初めてアドビ本社が主催したイベントだったそうです。前述のスノーデン氏によれば、Adobe MAXは今後も、「お客様と話をするのが重要だと思われる時期に、重要だと思われる場所で行っていく」とのこと。次は4月24日にロンドンで開催予定となっています。そこではどんなクリエイターの課題を解決する機能が発表されるのか、注目したいと思います。
著者 : 太田百合子
おおたゆりこ
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