今年もBluetoothセミナーを開催。Bluetooth LEへの移行が進む
2024年10月30日、Buletooth SIGはBluetooth東京セミナー2024を都内で開催しました。講演に加えてスポンサー企業の展示がありましたが、ここではBluetooth LEの中でも注目されているLE Audioにまつわる話とAuracast、Bluetooth 6.0に搭載予定の新機能「高精度距離測距」に絞ってお伝えします。
現在、Bluetoothは従来のBluetooth Clasicに加えて、Bluetooth 4.0から規格化された低消費電力のBluetooth LEがあることを知っている人も多いでしょう。現在はBluetooth ClassicとBluetooth LEへの過渡期となっており、現在のパソコンやスマートフォンはClassicとLEの両方に対応しています。
パソコンやスマートフォンの周辺機器はキーボードやマウスなどがすでにBluetooth LE対応製品が増えており、低消費電力というニーズに応えています。一方、人気のBluetooth接続のヘッドホンはBluetooth Classicベースのものがまだ主流で、Bluetooth LEでのヘッドセットは特にLE Audioと呼ばれており、対応製品が徐々に登場しているのが現状です。
Bluetooth Classicベースのヘッドフォンでは音声データをSBCというコーデックで圧縮されるのが標準です。が、音質と遅延の改善のためにappleが主に採用しているAAC、qualcommのaptXやその派生コーデック(aptX HD・aptX LL・aptX adaptive)、SONYのLDACなど複数のコーデックが混在しているというのが現状です。
これに対してLE Audioでは、遅延と音質を大きく改善したLC3コーデックが標準採用されています。SBCは1.5Mbps(CD音質)を最大345kbpsで伝送しますが、LC3では同等以上の音質を192kbpsで実現できます。LE audioで遅延が少なくなった理由は二つあります。一つはデータを送るブロックサイズが小さくなったこと。もう一つはBluetooth 5.2から採用されたアイソクロナス転送によって定期的な送信がサポートされたため、音の途切れをなくすためのバッファサイズも小さくできるようになったことです。
なお、将来のBluetoothでは通信速度が大きく上がることが計画されており、それに伴いハイレゾオーディオへの対応も議論に入っています。LC3の拡張規格LC3plusは日本オーディオ協会がライセンスしている「Hi-Res AUDIO WIRELESS」の認定を受けています(先に上げたコーデックではaptX AdaptiveとLDACがサンプリング周波数96kHz、量子化ビット数24bitに対応しており、これらも認定を受けています)。
Bluetoothのコア規格は今後さらなる速度向上や新しい周波数帯での利用も検討されているため、今後は有線接続に匹敵する製品となるでしょうし、LC3plusはさらにブロックサイズを減らして遅延もさらに減るようです。
ただし、評価機として使用しているGoogle Pixel8ProのAndroid14でもLC3は試験運用中の段階で、LE Audioが一般的になるのはもうちょっと先の話と言えるでしょう。一方で、Bluetooth LEは現時点で音声認識、電話帳やメッセージ表示などが非対応です。このため、現在車載機器などでのLE Audioが難しく、LE Audioの移行を進めるにはさらに標準化の作業が必要です。
マイデバイスでAuracastが体験可能に!
Bluetoothのオーディオ接続は1:1接続が基本ですが、1:nと多数への同時接続を可能にしたLE AudioのブランドがAuracastです。Auracastは複数のデバイスに同時に配信を行う事ができるため、友達との音楽のシェア、公共交通機関や講演会での多言語アナウンスなど多くの利用が想定されています。
複数のTVモニターで別の番組を流している環境下で好きな画面の音声を聞くという使い方や会場には音が流れていないのにオーディエンスはヘッドフォンから音楽が聴け、ノリノリで盛り上がっている「サイレントディスコ」のようなユースケースもあります。公共利用では配信チャネルを選択しての利用になりますが、友人とのシェアなど秘匿性が必要な接続の場合はパスワード保護を掛ける事もできます。
Auracastは2022年6月に発表され、日本ではCEATEC 2023で初お披露目。当時は開発中の専用デバイスを使用していましたが、現在はいくつかの市販製品でもAuracastが利用可能になっています。今回のBluetooth東京セミナー2024では説明コーナーのほか、対応デバイスを持っていれば試験的に講演音声を会場で聞くことが可能でした。
試験的というのはわけがあり、まだAuracastは市販製品が出たばかりという事で検証性テストが十分に行われていない状況です。講演でソニーの方が「WF-1000XM5は(一応)Auracastに対応しているが、検証作業が十分ではないので大々的にアピールしていない」旨の発言をされていました。
筆者はLE audio/Auracast対応のTWSを使っているので試してみたところ、展示ブースのデモ環境では複数のサンプルを聞くことができた半面、講演会場の機材ではうまく接続できず音声が流れそうになるとヘッドフォンが再接続をしてしまっていました。
X(旧Twitter)を見るとJBL Tour Pro 3で講演を聞いたポストがあったので、この辺はBluetooth SIG等で行われている相互接続性テストがまだ不十分な状況かもしれません(ただし、私が使ったスマートフォンがAndroid 12なのでこれが原因かもしれません。ちなみにBluetooth SIGによる互換性検証テストが年3回行われており、日本国内ではMCPCが会員企業向けにBluetooth 互換性検証ワークショップを年3回開催しています)。
以前「一般ユーザーはどうやってAuracast対応機器かどうかを確認できるのか?」という質問をしたことがあります。当時は「Bluetooth SIGに対応一覧が載る」という説明で少々不満でしたが、現在Bluetooth SIGにとって「Auracastはブランド」としてしっかり認識されるようになったようです。
現在はAuracastのロゴプログラムが用意されており、対応製品にAuracastロゴが表記され、Auracastに対応した場所にもその旨の掲示がされるとの事。将来は趣味と実益を兼ねてAuracast TWSを装着した人を講演会場や公共交通機関で見かける日が来るという未来を予見させていました。
Bluetooth 6.0はセンチメーター級の高精度測距が目玉の新機能
また、今回の講演で多く語られていたのが9月3日に発表されたBluetooth 6.0での新機能「高精度測距:チャネルサウンディング」の話題でした。
従来のBluetoothでは受信信号強度(RSSI)を使った粗い距離測定と、Bluetooth 5.1で追加された受信角度(AoA:Angle of Arrival)と放射角度(AoD:Angle of Departure)によって大体の位置を知ることができました。とはいえ、RSSIは端末の状態による誤差が多く精度があまりよくありません。また、ズボンのポケットに入れているなどで電波強度が距離の割に弱いという問題もあります。
Bluetooth 6.0では二つの方法(とその組み合わせ)によってチャネルサウンディングを実現しています。一つはPBR(Phase-Based Ranging)と呼ばれる方法で、二つのチャネルで違う周波数を送信して、その位相差で距離を検出するものです。現在の規格では100mで±20cmの誤差となっており、かなりの高精度。二つのチャネルを利用するのはそれによって測定範囲を約150mまで延ばすためです。
もう一つは時間差によって距離を測定する方法で、Bloetooth 6.0ではイニシエーターとリフレクタの信号の往復時間RTT(Round Trip Time)で測定します。まず、イニシエーターとリフレクタがやり取りを行った後にイニシエーターから信号を発射。これを受けたリフレクタが信号を出して、イニシエーターが受け取ります。往復の時間からリフレクタの処理時間を引いた数値の半分を光速で割った数値が距離となります。
Bluetooth 6.0ではRTTかPBRのどちらか利用することが必須で、オプションとしてRTT/PBRの併用が用意されています。RTT/PBRを併用するのは精度面の向上を狙っているのではなく、セキュリティ面での配慮でRTTとPBRの結果に大きな差異がある≒外部からの攻撃と判断しているためという説明がありました。かつてBluetoothを使用したキーレス装置で「リレーアタック」という攻撃手法が使われているため、その対策という事になります。
ちなみにチャネルサウンディングに対応するため、Bluetooth 6.0のハードウェア認証では出力する信号の位相に関しての基準が強化されています。