米国の制裁によって、日本をはじめ多くの国々でスマートフォンを投入できなくなって久しい中国のファーウェイ・テクノロジーズ。だが中国では新機種を次々投入し、復活を果たしている様子だ。再び中国外で広く展開する可能性があるのか、3つ折りスマートフォンとして話題となった「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」など、同社の製品に触れる機会を得たので、そちらを基に確認してみよう。

技術力を見せつける3つ折りスマホ「Mate XT」

2019年以降、米国から度重なる制裁を受け、スマートフォンに欠かせないプラットフォームの調達やチップセットの製造などに制約が生じた中国のファーウェイ・テクノロジーズ。制裁の影響により一時はスマートフォンを開発することが困難となり、同社のブランドの1つ「HONOR」を手放すなど、経営にも非常に大きな影響を受けることとなった。

だが同社はスマートフォン開発を諦めることなく、制裁を回避しながら新製品の開発を進めてきた。グーグルの「Google モバイルサービス」(GMS)が利用できなくなった代わりに、独自開発の「HarmonyOS」と、独自のアプリストア「AppGallery」をベースとした独自のプラットフォームを構築。さらにチップセットも中国独自の技術を活用する形で制裁を回避し、お膝元の中国を主体として再びスマートフォンを積極投入するようになった。

とりわけ2023年以降はその傾向が顕著で、かつての「P」シリーズの後継としてカメラに注力した「HUAWEI Pura 70」シリーズや、縦折りタイプの折り畳みスマートフォン「HUAWEI Pocket 2」など、高い機能・性能を備えた新機種を相次いで投入。中国内ではシェア上位を占めるメーカーとして復活を果たしているようだ。

  • 中国で復活を果たしたファーウェイ、3つ折りスマホに見る日本市場復活の可能性

    かつて日本でも投入されていた「P」シリーズの後継となる「HUAWEI Pura 70 Ultra」など、ファーウェイ・テクノロジーズは中国で再びフラッグシップモデルを積極投入している

中でも話題となったのは、「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」(以下Mate XT)であろう。これはディスプレイを3つ折りできるスマートフォンで、一般的なタブレットに匹敵する10.2インチのディスプレイを、外折り、内折りすることで6.4インチの一般的なスマートフォンサイズになるというものだ。

  • 世界初の3つ折りタイプのスマートフォンとして注目を集めた「Mate XT」。ディスプレイを内折り、外折りにして3つに折りたたむことが可能だ

ディスプレイを3つ折りできるスマートフォンは世界初であり、それだけでも驚きがあるのだが、それに加えて大きな驚きがあるのは非常に薄いこと。本体を完全に開いた状態での厚さは4.75mmで、韓国サムスン電子の折り畳みスマートフォン「Galaxy Z Fold5」が2つ折りながら5.6mmであることを考えると非常に薄いことが分かる。

もちろん3つ折りにした状態ではそれなりの厚さにはなるのだが、それでも12.8mmと、2つ折りタイプのスマートフォンと大きな差はない厚さだ。重量も約298gと300gを切っており、驚異的なサイズ感を実現していることが分かる。

  • 畳んだ状態では通常のスマートフォンと同じ感覚で使用可能。3つ折りにするためそれなりの厚さはあるものの、非常に薄いため通常の2つ折りスマートフォンを折り畳んだ状態と大きく変わらない厚さだ

またMate XTは3つ折りにできることもあって、2つ折りタイプのスマートフォンよりも柔軟な使い方が可能となっている。1つの面を内折りにすることでキーボードとして活用できるほか、外折りすればスタンドとして活用することも可能だ。もちろん1つの面を完全に折りたたんで2つ折りタイプのスマートフォンと同じ使い方もでき、柔軟性が非常に高いことは間違いない。

依然エコシステムが海外再進出の壁に

ファーウェイ・テクノロジーズは米国から制裁を受ける前から、サムスン電子と同様折り畳みスマートフォンの開発に積極的に取り組んでいたメーカーの1つだった。制裁の影響からか日本で発売されることはなかったが、2019年にはディスプレイが前面に位置する外折りタイプの2つ折りスマートフォン「HUAWEI Mate X」を発売しており、以降継続的に折り畳みスマートフォンを投入している。

そしてそれから5年後の現在、3つ折りタイプのMate XTを発売していることを考えると、制裁を受けてもなお、ファーウェイ・テクノロジーズの技術開発力が健在である様子がうかがえる。とりわけ3つ折りの構造を実現するには、2つ折りスマートフォンで一般的な内折りだけでなく、外折りに関する技術も欠かせなくなるだけに、HUAWEI Mate Xから培ってきた技術を継続して生かせている様子を見て取ることができよう。

  • ファーウェイ・テクノロジーズは2019年に外折りタイプの「HUAWEI Mate X」を投入しており、その技術がMate XTにも生かされているものと考えられる

ただその一方で、やはり超えることができないと感じてしまうのはプラットフォームの壁だ。Mate XTをはじめ中国で販売されている製品にはHarmonyOSとAppGalleryが搭載されており、中国内で以前より築いてきたファーウェイ・テクノロジーズ独自のエコシステムが有効に機能して販売拡大につながっていることが分かる。

だが一方で、中国外の多くの国ではアップルのiOS、そしてグーグルのAndroidとその上で提供されているGMSによって構築されたエコシステムが主流だ。そうしたことからファーウェイ・テクノロジーズも、海外で販売するスマートフォンにはHarmonyOSではなく、従来のAndroidをベースに独自のインターフェースを取り入れた「EMUI」を採用している。

  • Mate XTなど中国で販売されているスマートフォンには「HarmonyOS」が搭載され、プリインストールされているのも中国で使われているアプリが主だ

だが米国の制裁の影響からGSMを採用できないので、アプリストアに「Google Play」ではなくAppGalleryを使う必要がある点が、世界展開する上での障壁となっていることは確かだろう。もちろんファーウェイ・テクノロジーズ側もAppGalleryの世界展開を強化しているだろうが、既にGMSを軸として確立された環境を超える規模には至っていない。

そしてファーウェイ・テクノロジーズがその独自性と優位性をフルに発揮するには、海外展開するモデルにもHarmonyOSを乗せていく必要がある。だがそれにはHarmonyOSをベースとしたプラットフォームで、多くの国の顧客を満足させることも同時に求められることになる。そうしたことを考えると、日本をはじめとした多くの国において、ファーウェイ・テクノロジーズがスマートフォンで復活するというのはまだ厳しいというのが正直な所ではないだろうか。