(前編から続く)

インテルにとって、日本市場は重要な位置づけを担っている。シリコノミーの拡大や、インテルが取り組むIDM 2.0の推進、システムファウンダリーの実現において、日本の半導体関連企業やアカデミア、政府との連携が不可欠だからだ。また、インテルが注力する自動車分野への取り組みにおいても、日本市場は最重要エリアのひとつとなる。

見方を変えれば、日本の企業やアカデミア、政府、自治体などの連携が、インテルの成長戦略を支えることになる。そして、今回のインタビューでは、インテルの鈴木国正社長は、新たに「パブリックセクターオフィス」を新設したことを明らかにし、日本政府の半導体戦略と、より緊密な連携を進める体制を強調してみせた。後編では、インテルの日本における取り組みや、新設した「パブリックセクターオフィス」の役割についても聞いた。

  • インテルの鈴木国正社長。半導体進化における日本の可能性を強調し、自動車や教育分野への意欲も見せる

    インテルの鈴木国正社長。日本の可能性を強調し、自動車や教育分野への意欲も見せる

「日本」への注力、自動車分野でも大きなチャンス

―― インテルジャパンは、日本市場に向けて、どんな点に力を注いでいきますか。

鈴木: インテルは、日本の「新AI時代」の到来に向けて、いくつかの挑戦を行います。具体的には、「日本企業によるDXの進捗とAI導入率」、「コンピュータ資源と電力資源問題」、「地政学的リスクの分散」、「データプライバシーの動向」、「デジタル・AI人材」といったテーマにおいて、課題解決に貢献したいと考えています。

とくに、日本における注力分野に位置づけているのが、自動車分野です。未来の自動車を考えると、「ソフトウェアデファインド」、「サステナブル」、「スケーラブル」は必要な不可欠な要素であることは、自動車業界全体で合意されているものだといえます。ここに対して、インテルは自らの技術を活用しながら、キープレイヤーの1社になることを目指しています。

インテルは、グローバルにおいても、自動車分野での動きを加速していますか。2024年1月に米ラスベガスで開催されたCES 2024では、仏Silicon Mobilityの買収によって、インテルの車載ソリューションのラインアップを拡大したことを発表しました。また、中国Zeekerとの提携により、AI PCの体験を車内で実現したり、SAE Internationalの自動車規格に参加し、インテルが有するPCの電力管理規格や実績を提供したり、ベルギーの研究機関であるimecとの協業により、業界初となるオープンな自動車向けチップレットプラットフォームへの対応を実現し、UCIeの技術についても、自動車業界との連携を進めていきます。

  • 今年初めのCESで発表されたインテルの「自動車」に関する取り組み

こうした動きを受けて、日本では、まずは自動車メーカーを中心にし、将来のTier1やTier2との連携も視野に入れながら、IVI(In-Vehicle Infotainment)などでの支援、ファウンダリーとしての協力体制の構築といった連携を行います。活動はまだ緒についたばかりで、自動車メーカーとの議論を進めている段階ですが、これから活動を活発化していきます。インテルジャパンには、長年に渡り、自動車業界専任組織がありますが、ファウンダリーといった新たな動きが出てきましたから、これまでとは異なる提案や連携が始まるといえます。

―― 一方で、先端半導体開発における日本企業との連携についても新たな動きを開始しましたね。

鈴木: 日本国内には、製造装置や素材など、シリコノミーを形成する有数の半導体関連サプライヤーが存在し、こうした企業と、インテルが、いかにがっちり組めるかがこれからの鍵になります。IDM2.0の実現において必須要素となるシリコン、ハイエンドフォトレジスト、マスク/ペリクル素材、サブスレート、先進パッケージングといった領域において、日本のサプライヤー企業、アカデミアとの連携強化を図ります。これらの日本の企業や組織が集まるとどんなことができるのか、そこにインテルがどんな協力ができるのか、このチャンスをどう生かすのか――。いまは、コミュニティを作って、そうしたところから議論を開始しているところです。

  • 先端半導体の開発で日本企業との連携を強化。つい先日には、経産省が支援、レゾナックら日本企業14社とインテルが共同で、半導体後工程の技術開発を目的とする新組織「SATAS」が立ち上がり、鈴木社長はこのSATASの理事長にも就任している

実は、今回初めて明らかにするのですが、インテルジャパンのなかに、「パブリックセクターオフィス」という組織を、2024年3月31日に新設しました。この組織では、アカデミアやサプライヤーとのコミュニケーションを強化しながら、インテルジャパンの半導体戦略を推進することになります。また、教育分野における文部科学省や自治体との連携なども担当し、この分野でも、より積極的な活動を行うことになります。

今回の「パブリックセクターオフィス」は、教育分野を担当していたパブリックセクターの組織と、政策渉外の組織、戦略室において半導体サプライチェーンを担当していた組織を統合したもので、それぞれの活動が切り離せなくなってきたことが、新組織設置の背景にあります。

政府の半導体戦略に対して、インテルはどんな貢献ができるのかといったことにも、ひとつの組織で対応することができますし、米国政府の半導体政策との連携についても支援ができます。こうした体制を敷いているのは、日本以外にはありません。半導体を支えるのは、強靭なサプライチェーンであり、それがあって初めてワールドクラスのシステムファウンダリーを構築することができます。

  • インテルは世界規模で巨額の投資を次々と進めている。そして現在、日本への期待は大きいという

CEOのパット・ゲルシンガーが来日した際に語っていたのは、この仕組みを実現するには、米国と日本、欧州が重要な拠点になるということであり、日本に対する期待が大きいのは明らかです。「パブリックセクターオフィス」は、インテルにとっても、極めて重要な役割を持った組織であり、個人的には、インテルジャパンの社長としてやってきた仕事の集大成というぐらいの成果だと思っていますよ(笑)。

「DX」や「AI」、そして「人」、日本の課題は?

―― 一方、日本企業におけるDXへの取り組み、AI活用における課題はなんでしょうか。

鈴木: 米国企業はまずは使ってみるというところからはじまりますが、日本の企業は、慎重であり、セキュリティやプライバシーの部分がしっかりと固まらないと踏み込まないところがあります。

経済同友会でDX推進委員会の委員長を務めているのですが、議論の中心のひとつが、「最初の一歩をどう踏み出すか」という点です。速く動くという文化を日本に浸透させないと、新たな技術の導入が常に遅れるということになります。それは世界的な潮流に遅れを取ることでもあり、日本の競争力の低下にもつながると考えています。

日本の経済成長にとっても大きなチャンスになるかもしれない「AI」。ここで出遅れてしまうは痛手になろう

たとえば、生成AIについては、日本の企業はいち早く飛びつき、いまや知らない人はいないほど認知度が高まっていますが、本当に業務に取り入れるという段階になると時間がかかっているのが現状です。日本の企業は確実性を重視しますから、ハルシネーションによって正しい回答が得られないとか、最新版のChatGPT-4でも2023年4月までのデータしか学習していないというものを、業務のなかに組み込むことには、かなりの抵抗感があり、ネガティブに捉えます。

新たな技術を活用していくには、こうしたハードルを乗り越える必要があります。そのための処方箋となるのは、やはり経営者の意識改革であったり、それを一気に浸透させるトップのリージーシップであったりということになります。それによって納得したときの日本の企業の走り方はどこよりも速いですから、そこまでいけば、本当の意味で付加価値がある使い方を、日本の企業がリードしていくことになると思います。ここに、インテルジャパンがどう貢献できるのかということも、今後のテーマのひとつになります。

―― インテルでは、日本のデジタル人材育成にも注力していますね。

鈴木: これ(人材育成)は、インテルジャパンが、長期間に渡って取り組むべきテーマのひとつに位置づけています。

いま取り組んでいるのが、これまでのSTEAMLabでの実証研究を参考に、推奨環境や事例を発信し、採択する高校への環境実装を、パートナーとともに支援していく「DXハイスクール」への展開、Intel Skills for Innovation(SFI)による教員研修を活用した「STEAM/AI 教育プログラムの充実」、デジタル人材育成を中心とした「自治体との連携」の3点です。

  • 人材育成や教育への取り組みは、鈴木社長がこれまで、日本において特に必要とかねてから推進していた分野

ただ、インテルの取り組みは、「点」を作ることしかできません。ですから、いまのインテルの活動はクオリティの高い「点」を作ることに集中しています。これを、「点」から「線」にし、「面」にしていくことが大切です。「線」や「面」にするには、文部科学省や自治体などとの連携が必要であり、その活動も重視していきます。

埼玉県戸田市の戸田東小中学校でのSTEAMLabの実績が、政府が推進する高校向けDXハイスクールの展開にも採用されましたし、今後は、小中学校にも広がることを期待しています。また、インテルでは、長年に渡り、インテル Teachプログラムを実施し、国内数万人の教員に対して、ICTを利活用した授業デザインや、学習指導などが行えるように支援してきましたが、ここで学んだ教員が、いまでは校長先生になり、AIを活用した新たな教育プログラムに率先して取り組む事例が出てきています。渋谷区立原宿外苑中学校では、SFIのトライアルを、2024年度から実施しており、この成果を起点にして、SFIを全国に広げていきたいと思っています。こうした動きをみると、少しずつ「線」にはなってきたかもしれないですね(笑)

  • STEAMLabの事例は、DXハイスクール導入の参考としても発信中

  • 2024年度から、SFI教員研修のトライアルを実施している。今後はこれを全国に広げたいとも

―― デジタル人材の育成は、インテルジャパンのビジネスに直結するのですか。

鈴木: 短期的にみると、まったく効果はありません(笑)。しかし、強い意志を持って取り組んでいます。インテルだけの活動に留まらず、どうやってスケーリングするかを考えているところであり、この取り組みが減速することはありません。

―― 教育分野においては、2024年度から、GIGAスクール構想第2期が始まります。Windows PCやChromebookに搭載されるCPUの最低スペックは、Celeron N4500プロセッサー、あるいは同等以上に定められています。全体では約1000万台規模の更新需要が発生しますが、日本市場向けに、こうした低いスペックのCPUを大量に調達できるのでしょうか。

鈴木: 端末1台あたりの補助金は5万5000円と、第1期に比べると1万円増額になっていますが、その価格に見合った提案になり、それに適したCPUを提供することになります。また、それをしっかりと供給しなくてはなりません。

この点に関しては、米国本社との議論が完了しており、問題なく供給できると考えています。また、自治体からのニーズや要望を聞き、それとミスマッチがない形でPCを提案するといったことも行っています。まだ2廻り目の導入ですから、課題を抽出し、それに向けた改善を進めていく必要があります。

教育現場において、どんな形でPCを利用するのがいいのか、といったことを含めて、現場の声を聞きながら、子供のPCの利活用促進に貢献をしていきたいと考えています。

  • 教育分野では、2024年度からはGIGAスクール構想の第2期が始まる。大きな更新需要が予想され、半導体の安定供給は課題になるが、鈴木社長は「米国本社との議論が完了しており、問題なく供給できる」と見込んでいると説明