香港Minisforumから今年9月に発表されたゲーミングPC「Minisforum HX77G(以下、HX77G)」。大好評を博したHX99Gの後継モデルに当たる位置づけで、CPUがRyzen 7000番台へと更新されている点が特徴です。ゲーミングノートPCをデスクトップ型にまとめ上げたスタイルで、コンパクトかつ高性能、さらに低価格を実現しています。
今回このHX77Gのサンプルが提供されたので、実機の性能についてご紹介。忙しい方向けにまとめておくと、実はRyzen 7 7735HSはZen4ではなくZen3+。dGPUのRadeon RX 6600Mも続投で性能はほとんど変わっていませんが、ついにPCIe 4.0対応SSDが利用できるようになって体感速度が結構変わっています。
まったく何も変わらない外装をチェック
早速パッケージから取り出し、本体を眺めていきましょう。ぱっと見ではだいぶ前にレビューしたHX90Gと全く変わっておらず、前からの様子では見わけすらつきません。背面のDisplayPort端子がUSB Type-Cに代わっているのは初見でしたが、HX99GでもすでにType-Cだったので目新しさはありません。
DisplayPort端子をUSB Type-C端子に置き換えるのは感心しました。DisplayPort端子でUSB接続は対応しませんが、USB Type-C端子ならDisplayPort出力もできて便利です。
また、この記事では割愛しますが例によって縦置きスタンドも同梱されています。横置きよりも省スペースになるほか、放熱性も高められるとしています。
わかりにくいRyzenのラインナップを整理
性能について紹介する前に、今回紹介するHX77Gが搭載している「Ryzen 7 7735HS」について触れておこうと思います。これを見て「おっ、7000番台ということは最新なのか」と捉えてしまうと落とし穴にハマります。
というのも、モバイル向けRyzen 7000シリーズの命名規則はかなり複雑になっており、ちょっとCPUの型番がわかる人こそ誤認しやすい状態。Ryzen 7000シリーズだからと言って全然最新仕様でもなんでもないSKUも含まれているため、最新世代にこだわりたいユーザーは型番と仕様には綿密な検討が必要です。
CPUはZen2からZen4までなんと4世代にわたっており、GPUもVegaからRDNA3まで3世代にわたるという混迷の窮まりよう。それぞれメモリの対応規格が異なったり、USB4の対応の有無が異なったり、AI専用コアの有無が異なるというオマケもついています。このうち主要なモデルについて筆者がざっくり分類すると、下記のようになるでしょうか。
- Ryzen 7045:最新CPU、最新GPUをちょっと搭載。dGPU搭載前提のゲーミングノートPC用
- Ryzen 7040:最新CPU、最新GPUたくさん搭載。AIエンジンも内蔵の強力モバイルノートPC用
- Ryzen 7035:やや新しいCPU、やや新しいGPUたくさん搭載。性能と効率も重視のノートPC用
もちろんそれぞれシリーズでしかないため、この中にコア数の違いでRyzen 5やRyzen 7やRyzen 9が存在。型番末尾のUやHS、HXはナンバリングと似たような意味に溶け合っており、とても複雑になっています。一般消費者はおろかPC情報に多少明るいユーザーでもだいぶわかりにくく、次世代ではぜひいったん整理してほしいところ。詳細な分類については『3D V-Cache搭載Ryzen 7000や、モバイル版のZen 4とRDNA 3も – AMDがCES 2023で新製品を大量発表』から確認可能です。
という整理を踏まえてHX77Gが搭載しているRyzen 7 7735HSについて見直してみると、ひと世代前のZen3+ベースであることがわかります。初代機のMinisforum HX90GでもZen3のRyzen 9 5900HXを搭載していたので、2世代前のモデルとCPU性能はほとんど変わらないのは残念。変化したところに目を向けると、メモリがDDR4→DDR5に、内蔵グラフィックスがVega→RDNA2、SSD対応がPCIe 3.0→PCIe 4.0に変わっており、逆にCPU以外の足回りはだいぶ刷新されています。
ところが今回紹介するHX77GではディスクリートグラフィックスにRadeon RX 6600Mを搭載しているので、内蔵グラフィックスの刷新はあまり意味がありません。DDR4とDDR5の違いも性能にはほぼ寄与しないので、やはり体感できる性能差を発揮してくれるのはPCIe 4.0 SSDくらいだと思います。ちなみに、Ryzen 7 7735HSは中国限定SKUなので日本では少しレアです。
ここではHX90Gのスコアを引っ張り出し、並べて掲出しています。
性能 | HX77G | HX90G |
---|---|---|
Speedometer 2.1 | 301 | 310 |
Cinebench 2024(Single/Multi/GPU) | 86/744/4187 | 93/771/4391 |
Geekbench 6 CPU(Single/Multi/OpenGL) | 1958/8546/69082 | 2068/10845/65328 |
FF14 | 12376 | 12846 |
BLUE PROTOCOL | 11132 | 11694 |
やはりCPUとGPUの性能差はほとんどない模様。絶対的には十分すぎるほど高速ですが、過去モデルと比較した相対評価ではあまり変化がないこともわかります。ところがSSDがPCIe 4.0に対応している点がポイント。高速なランダム性能を実現し、もっさりしがちなWindows 11の操作が快適になっています。
ちなみに、2.5GbE有線LANにはIntel I226-Vが搭載されていました。Windows 11の標準ドライバでは動作しないので、OSの新規インストール時に詰む場合があります。事前にドライバを用意しておく方法もあるにはありますが、標準ドライバで動作する外付けアダプタか、標準搭載のWi-Fiを使うのが便利かもしれません。
超絶コスパは健在。でも最新モデルとは感じにくい
ここまでMinisforum HX77Gについて紹介してきた本記事。高いメンテナンス性を実現しつつ、高性能CPU・GPUの組み合わせた圧倒的なコストパフォーマンスは健在です。DDR5メモリもSO-DIMM仕様のものがかんたんに手に入るようになり、高速なPCIe 4.0世代のSSDを生かせるようになりました。
とはいえ、やはりCPUとGPUの世代がほとんど変わっておらず、性能がほぼ据え置きになったのは残念です。個人的にはZen4ベースの「Ryzen 7 7840HS」とRDNA 3ベースの「Radeon RX 7600S」を組み合わせ、CPUとGPUの世代差を大きく刷新するようなアップグレードに期待したかったところです。