文部科学省が推進するGIGAスクール構想。学生がデジタルデバイスを活用して紙の教科書やノートだけでは実現が難しかった創造性を育成する姿勢には強く賛同する。
GIGAスクール構想に賛同するIT企業を取材していると担当者も価値を強調してはいるのだが、一種の文教PCバブルだと躍起になる担当者も少なからずいる。ただ、彼らを批判するのは早計だ。ビジネス視点で見れば至極当然である。
文部科学省は当初、5カ年計画で地方のデジタルデバイス整備を目指していた。現在は計画期間を2年間延長して、2023~2024年度まで環境整備を継続中だ。予算は以前と同じく単年度で1,805億円である(2023年1月23日発表の「令和5年度学校のICT化に向けた環境整備に係る地方財政措置について」のPDFファイルから)。
さて、日本マイクロソフトが2023年10月17日に開催した記者説明会では、「GIGAスクール構想の定着には解決すべき課題があると聞いている」(日本マイクロソフト 執行役員 パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部 統括本部長 中井陽子氏)と述べ、自治体の予算制限や残業に振り回される教職員、不足する精神的幸福度、学習意欲が低下傾向にある児童・生徒――といった問題点を指摘した。
その上で長く文教部門に携わってきた中井氏は「三位一体の改革が必要」としつつ、自社製品・サービス群が適切だと主張する。たとえば教員は教育機関向けのTeams for Educationや、児童・生徒の学びを支援するLearning Acceleratorsの活用、学校全体のクラウド化を推進するMicrosoft 365とWindows Copilotを備えるWindows 11が最適だとした。
日本マイクロソフトの姿勢に異論を挟むつもりはない。だが、同社はNEXT GIGA向けに、児童・生徒が使うPCとしてメモリー4GB、ストレージ64GBを「GIGA Basicパソコン」、メモリー8GB、ストレージ64GB(または128GB)を「GIGA Advancedパソコン」として定義した。今回は教育現場で有用な機能を備えるWindows 11 Pro EducationをプリインストールOSとしているが、「Windows CopilotによるAI活用やフィッシング被害を未然に防ぐ機能、児童・生徒の読解力を支援する機能を備える」(日本マイクロソフト)という。
改めて述べるまでもなく、PCのメモリー容量は重要だ。日常的にWindows 11を使用していると、8GBでも不足を感じる。もちろんNEXT GIGA向けのPCは「1台で何でもこなすPC」ではない。日本マイクロソフトは「クラウドベースのアプリを使用し、作成したファイルはOneDriveに格納する」(日本マイクロソフト 業務執行役員 デバイスパートナーセールス事業本部長 佐藤久氏)として、この性能でも使用に耐えうるそうだ。
確かに、Windows 11のシステム要件(CPUやメモリーの最低条件)は満たしている。説明に含まれなかったがTPMも備えているのだろう。Windowsカーネルは共通開発しているので、Windows 11 Pro Educationに特別な仕組みを導入しているとは考えがたいので、サービスやコンポーネントを削っているのだろうか。それなら教育現場専用のWindows 11 SEを選択すれば済む話だが、Win32アプリの実行制限やデバイス仕様が合致せず、Windows 11 Pro Educationを用意したのかもしれない。
なお、教育現場では「PCはサイズが重要。児童が使う机で大きなデバイスが占有してしまう。机上や課外授業でPCを落とすため堅牢性も重要」(佐藤氏)だ。地方自治体の予算不足も考慮して価格と性能のバランスを取り、USBポートに消しゴムを詰め込んでしまうような小学生のPCを交換しやすくするため、おそらく安価なGIGA Basicパソコンが加わったと思われる。
今回のGIGA Basic/Advancedパソコンを見ると、Windows 95が主流だった編集者時代を思い出す。当時の上司は新人スタッフにハイエンドなPCを割り当てていた。理由を尋ねると「詳しくない人ほど快適なPCが必要」と述べながら、自身はWindows 2000時代までWindows 95と当時のPCを継続利用し、リース期間終了を迎えて切り替えたように記憶している。「必要は発明の母」ではないが、古いPCとOSを使い続けることで、足りない部分を見いだして特集記事のアイデアを絞り出す算段もあったのだろう。
GIGA Basic/Advancedパソコンは、Microsoft Edgeによる電子教科書閲覧やBingの調べ学習は可能だろうが、Microsoft PowerPointによる個人発表やグループ発表、Microsoft Teamsのリモート授業などは、PC性能からして少々酷ではないだろうか。一人の親として、児童・生徒ほど快適なPC環境を使えることを切に願いたい。
少々厳しい立ち位置で述べてきたが、GIGAスクール構想における2018~2022年度は3人に1台のPCしか実現できず、1人に1台は道半ば。まずは目の前にPCが必要だ。児童・生徒がGIGA Basic/Advancedパソコンを果たして快適に使えるかどうかは不安だが、クラウドベースのサービスを得られるのは大きな利点となるだろう。
著者 : 阿久津良和
あくつよしかず
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