2023年4月22日~30日の9日間にわたって幕張メッセで開催されていた「ニコニコ超会議2023」。去年に続いてリアル開催が実施され、時勢もあって来場者数も大幅に増加。現地への来場者数は118,797人と前年比約1.2倍以上に増えています。協賛企業などから様々なブースが出展する中、KADOKAWAも去年に続いて「超ダ・ヴィンチストア」を出展。書店のDXに取り組むというプロジェクトが進化したとのことだったので、今年も見てきました。

忙しい方向けにまとめておくと、紀伊國屋書店とのコラボレーションによって“メタバース書店”は格段に進化。ちゃんとデジタル空間に本屋が再現されていたほか、本当にリアル書店が必要なものを作ろうとしていることがわかる展示物になっていました。

  • KADOKAWA「超ダ・ヴィンチストア2023」を見てきた! 紀伊國屋書店とコラボして他社書籍の取扱も

VR書店の内容は一変。メタバース一辺倒から脱却?

そもそも超ダ・ヴィンチストアは、もともとKADOKAWAが所在するところざわサクラタウンにあるリアル書店「ダ・ヴィンチストア」をVRで再現し、ニコニコ超会議に出展するべく開発された展示物です。ニコニコ超会議の閉幕後はサクラタウンへと移されたようで、そこでも引き続き体験ができた模様(関連記事1)。

去年展示を見てきた様子はすでに掲載中のレポートから読めますが(関連記事2)、個人的な感想としては去年の展示は微妙でした。α版とでもいうべきか、取り扱われている書籍はKADOKAWAのものだけで、デジタル空間上の書店もやや粗削り。筆者的には「書店のDX」というより、「電子書籍購入サイトのVR化」みたいなものだなあと感じていました。

ところが、今年実施された展示「超ダ・ヴィンチストア2023」ではなんとリアル書店「紀伊國屋書店 新宿本店」と大々的にコラボレーションを実施。デジタル空間における書店は大幅に洗練され、去年の展示からかなり“VR書店”に近づいているように感じました。

  • ニコニコ超会議にブース出展していた「超ダ・ヴィンチストア2023」。後述しますがブースの作り自体も結構変わっていました

  • 入り口では巨大な透過サイネージが設置されています

  • まずはメタバース書店を体験。ゴーグルには手で持ちやすいグリップがついており、いちいち被る必要がなくて手軽でした

今回のVR書店が洗練されていると感じるのもそれはそのはず、新宿本店の監修を受けてVR空間に書店を再現しているためです。ゼロから作ろうとするのではなく模倣してしまうと元も子もないように聞こえるアプローチに思われるかもしれませんが、逆に考えればシンプルに“本屋のDX”に立ち返ろうとしているようにも考えられる気もします。

前年の展示物から良くなったと感じたポイントして、KADOKAWA以外から出版されている刊行物もほぼすべて取り扱われていた点が印象に残りました。再現されているのはKADOKAWAの空間ではなく紀伊國屋書店のものなので当然といえば当然ですが、KADOKAWAの出し物でもちゃんと他社の出版物が扱われている点には感心。KADOKAWAの本だけが並んでおり、荒涼としていた去年の売り場から一新されています。

  • 体験している様子は頭上のモニターに映ります

ちなみにVR空間は二種類あり、紀伊国屋書店の一部を模した3D空間に加え、書店現地で撮影した360度写真を合成して作った「紀伊国屋書店バーチャル新宿本店」もありました。いずれもVRゴーグルで体験できるものですが、双方向に行き来ができるようになっていた点が興味深いです。去年に続いて本は試し読みや購入も行え、自宅への配送か電子書籍のライブラリ追加(BOOK☆WALKER)に対応します。

今年の展示を踏まえると、やはり去年の展示はこれに至るためのα版だったような気もしてくるレベル。去年はいったんVR書店としてのフレームだけ用意する形で、内容物としてとりあえず自社コンテンツを充当していたのでは……と邪推したくなりました。

アキネーターは退役? AIレコメンドやインフルエンサー書店員がお披露目

去年に続いて、今年もレコメンドに関する新サービスがいろいろ展示されていました。今イチオシの書籍をAI書店員であるダ・ヴィンチさんが解析し、対話と表情分析で最適な一冊を提案してくれるという「AIリコメンド」。さまざまなジャンルに詳しいスタッフが“中の人”となり、実際に話しながら本との出会いをサポートしてくれるという「アバター書店員」を体験できました。

  • AIリコメンド

  • アバター書店員

  • マンガ紹介系TikTokクリエイター「ぬん」氏がアバター書店員として登場

アバター書店員ではニコニコ超会議限定の施策として、マンガ紹介系TikTokクリエイターである「ぬん」氏が取材中に折よく登場。どんなマンガを読みたいですか? と質問されたので、思い切って全然知らない「異世界転生が読みたいです!」とオーダーしてみました。今回教えていただいたのは『片田舎のおっさん、剣聖になる~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~』というタイトルで、おっさんがいかに活躍するかに焦点があてられた作品を紹介していただけました。

  • 画面共有でe-honのWebページを見せてもらえるのでわかりやすかったです

RFIDタグで本を管理!? 在庫問題に対処するオンデマンド印刷も

そのほか、リアル書店の悩みの種であり続ける万引きに対処するために、「RFIDタグ」を装着した書籍のデモも印象的。RFIDタグとは接触しなくてもモノの動きを検知できる小さい電子部品で、最近だとユニクロのセルフレジなどで大々的に活用されています。

デモでは本棚にリーダーが取り付けられており、どの本が取り出されたかをすかさず検知可能。これがあれば未会計品を店外に持ち出された際の警報等にも応用できそうで、ならず者への対処も楽になりそうです。出版業界では2023年夏からコミックス新刊へのRFIDタグ装着を開始予定しているとのことで、KADOKAWAでも今冬めどに装着する方向で検討中だそう。

  • RFIDタグのデモ。取り出すと本の内容に応じたティザーが横のモニターで流れるようになっていました

  • どう装着するかが難しいところ。デモなので栞のようなスタイルでした

また、出版業界特有の独特な流通によって制御しにくい在庫問題においても、新しいアプローチで対処。ところざわサクラタウンのDX設備「BEC(BigECOの略)」でオンデマンド印刷でき、小ロットでの出荷・製造に対応するとのこと。個人的には、こういうオンデマンド印刷にもかかわらず多色刷りだったことにびっくり。現物をぱっと見ても見分けがつかない品質です。

  • BEC。返本を減らす取り組みの一環

  • 奥付の印刷所と製本所が「KADOKAWA」となっている個体にBEC製のものが含まれているそう

紀伊国屋書店とのコラボレーションによってコンテンツのクオリティが大幅に引き上げられ、去年の展示から一気に完成度が高まった「超ダ・ヴィンチストア2023」。今回KADOKAWAのブースに出かけてみて、何気にブースの作りそのものも印象に残りました。妙に暗くて圧迫感のあった去年のものから一変、フレーム主体で開放感のある仕様に。正面には巨大な透過スクリーンが設置され、来場者からの注目をしっかり集められていました。2023年開催分でかなりの進化を見せてくれた「超ダ・ヴィンチストア」が、今後どうなるのか楽しみです。

  • パネルの裏側。開放感があってよかったです