携帯電話の技術というと、何か謎めいているように思えるが、実はほとんどの技術文書が公開されていて、誰でも簡単に入手が可能だ。
3G携帯電話は、世界中で利用できることを目指してIMT-2000として仕様の策定が開始されたが、このときに、EUや日本などが推進したのが、日本でW-CDMA、EU圏でUTRA(UMTS Terrestrial Radio Access)と呼ばれる仕様で、そのために「3GPP」(3G Partnership Project)が結成された。このグループは、各国の携帯電話の規格策定にあたる団体が参加しており、日本からは電波産業会(ARIB)と電気通信技術委員会(TTC)が参加している。もともと、EU圏で使われていたGSMをベースにIMT-2000に提案を行っていたが、そのグループに日本が参加した。こうした経緯からGSM関連の技術管理も3GPPの枠内で行われている。2/2.5GのGSMだが、EU圏の鉄道で専用システム(GSM-R)を導入したことなどから、3G以降も技術標準化が行われている。
この3GPPのWebサイトで、2G(GSM)~5Gの技術文書が公開されている。技術文書には、すべて「仕様番号」(specification number。公式の日本語訳はないのでカギ括弧付きで筆者による訳語を使う)がついている。この番号が技術文書を探す手がかりになる。「仕様番号」は、先頭2桁の「系列番号」(Series Number)に続く2または3桁の番号の組み合わせで4桁または5桁となる。「系列番号」と後続番号の間にピリオドを入れ、「ss.nnn」という形式にする。こうした文書には、大きく「TS」(Technical Specification。いわゆる仕様)と「TR」(Technical Report。仕様の定義ではない文書)の2つのタイプがあって、TS ss.nnnのような表記をすることが多い。
「系列番号」は、(表01)のようなもので、2G世代のGSMの定義から始まり、最新の5Gまで45のカテゴリにわけられている。検索でも探すことも可能だが、携帯電話や通信固有の表現もあるため、「系列番号」でアタリをつけて、から検索するほうがよい。1つでも関連の文書を見つけることができれば、文書中に参照している文書の番号が明記されているので、ここから芋づる式に探すことが可能だ。
もう1つの注意点は、携帯電話システムは常に進化しているため、仕様も変化していることだ。このため、技術文書は、「リリース」と呼ばれるタイミングで仕様が確定する(表02)。リリースは1年から数年のサイクルで行われるが、複数のリリースが並行して仕様策定を行っていることもあり、同一の技術文書でも複数のものが見つかることがある。個々の技術文書には、リリースに対応した「バージョン」がある。
リリースには、通し番号がつき、「リリースコード」と呼ばれる略称が付く。最近はあまりみかけなくなったが、3G開始直後には、仕様改定が続いたので「R99準拠」、「Rel-4準拠」といった表記をよく見かけた。それぞれ、“Release 1999”、“Release 4”のリリースコードである。基本的には、最新版を見ればいいのだが、実在のスマートフォンなどは、設計当時のリリースで作られているため、場合によっては、過去のリリースを見る必要が出てくる。GSMで定義された技術が、いまでも更新を続けているものものある。なお、3GPP自体は1998年に発足したが、それ以前からETSI(European Telecommunications Standards Institute)が3G標準化活動を続けていた。2001年のRel-4以前は、3GPPの文書作成ルール成立前に作られた文書であるため、書式やバージョン表記に違いがある。
文書を検索する方法だが、3GPPの以下のページから行うのが簡単だ。
・Specification Numbering
https://www.3gpp.org/specifications/79-specification-numbering
ここで、「系列番号」を選ぶと技術文書の一覧が検索結果として表示されるので、文書番号の右端にあるメガネのアイコンをクリックすると、仕様番号ごとのページが開くので、詳細情報やバージョンごとのリンクをたどるのがよい。また、文書番号とリリースの対応は、以下のページにある。
・3GPP specification Release version matrix
https://www.3gpp.org/DynaReport/SpecReleaseMatrix.htm
3GPPの技術文書で使われている用語に関しては、各文書に簡単な説明はあるが、用語集として「TR 21.905」“Vocabulary for 3GPP Specifications”という文書がある。この文書を探す場合、前記のSpecification Numberingページで21 seriesのリンクを開き、TR 21.905の欄の右側のメガネアイコンをクリックすると文書に関する情報ページが開く。ここで「Version」タブをクリックすると、リリースごとのバージョンが表示されるので必要なものを開けばよい。Wordのdocxファイルを入れたZipファイルのダウンロードが始まる。最近はWordでも翻訳できるので、そのままでもいいのだが、手軽に開きたいならPDFに変換するといいだろう。
今回のタイトルの元ネタは、ハル・クレメントの「重力の使命」(Mission of Gravity。1953年)である。重力加速度gを基準にした加速度非表記では単位として大文字のGを使う。携帯電話では世代をGで表現するのと引っかけて、今回のタイトルにした。