ファーウェイのE Inkタブレット「MatePad Paper」を使ってみた。10.3インチのE Inkスクリーンを持つタブレットで、同社独自のHarmonyOSをプラットフォームとして稼働する。
このOSは基本的にAndroid互換なのだが、アプリ配信のためのGoogle Playアプリがなく、他のアプリを入手するには、ファーウェイ運営のストアAppGalleryを使う必要がある。ただし、この原稿を書いている今現在、プリインストールされたAppGalleryアプリを使ってインストールできるアプリは8本だけだ。
AppGalleryアプリには検索機能もない。ウェブのAppGalleryをブラウザで参照すれば検索はできるがアプリが入手できないという点では同じだ。アプリの入手は、Andoridアプリの実体であるAPKを各種のサイトから入手するか、手元のAndroidデバイスにインストールされているものを抜き取るしかない。これではとても普通の人にお勧めできない。
ハードウェアは素晴らしい。10.3インチのスクリーンは1,872×1,404ドットで、縦横比は約4:3だ。バックライトも装備されているし、それをオフにすれば環境光だけで紙に印刷されたもののようにコンテンツを読める。本当に読みやすい。重量も360グラムと軽量だ。
本来ならアプリを入れれば何でもできる
手元にはアマゾンのKindle端末Oasisがあるが、こちらのスクリーンはアスペクト比4:3の6インチで、Kindle端末最大だ。かなり重宝して使っている。
大雑把な価格イメージとしては「MatePad Paper」1台でOasis×2台分だ。確かにMatePad Paperは高額だがミドルレンジのスマホよりずっと安い。それにOasisはアマゾンの電子書籍サービスKindleのための専用端末だが、「MatePad Paper」は汎用端末だ。アプリを入れれば本当なら何でもできる。
しかも画面が大きい。電子書籍を読むとしても、Oasisの一画面で表示できる適当なサイズの本文文字が200文字程度であるのに対して、MatePad Paperは300字強で、2倍とはいかないまでもかなり多い。文庫本と単行本の違いのイメージに近い。
MatePad Paperに、Android用のKindleアプリを強引な方法で入れてみたが、普通にインストールできて、普通にコンテンツが開き、普通に読める。ページめくりの際にちょっとした不自然な表示の乱れがあるのだが、そこに目をつぶるだけで、Oasisでは得られなかった大画面の単行本的読書体験ができるようになった。
コミックを読むにはこの画面サイズでもまだ小さいと思う。それに、コミックは見開きで読みたい。一度でも、40型超の大画面でコミックを見開き表示にして読んでみれば、もう携帯端末でコミックを読もうなんて思わなくなる。迫力が違う。でも、文字主体のコンテンツは話が別で、E Inkの優しい表示が魅力に感じる。
こんなに素晴らしい端末なのに、アプリの入手が困難であるというだけで残念な印象しか持てなくなってしまうのか。パソコンハードウェアと流通しているソフトウェアとの互換性が商品としてのパソコンの価値を決めていた80年代に戻ったかのようだ。
アプリストアに求められるのは「安心感」
今でこそ、アプリはストア経由で、OSベンダーであるMicrosoftやアップル、Googleなどによる何らかの審査を経たものをエンドユーザーが入手できる仕組みがある。この仕組みのもとで入手したアプリを使う分にはそれなりに安心していられる。
でも、Windows用アプリの歴史と現状を考えると、ストア配信が整備されつつあるにせよ、流通しているアプリのほとんどは野良アプリだ。Microsoft Officeのような著名アプリでさえ野良アプリだ。ストアを介さず個人の責任で実行ファイルをダウンロードして実行してインストールする。アドビのCreative Cloudなども同様だ。そこで信じるのは、アプリを作ったベンダーであり、そのベンダーの公式サイトからのダウンロードであるという拠り所しかない。
アマゾンがFireタブレット用に各種Androidアプリを提供するストアを独自に運営しているのと同様に、本当ならファーウェイもAppGalleryをもっと充実したものにしなければならない。それにはアプリの開発元に対するリクルーティングの努力が必要だ。話をきけば、ずいぶん熱心にアプローチしているそうなのだが、結果が伴っていないようだ。
それ以前の問題として、この製品にプリインストールされたAppGalleyアプリにはやる気が感じられない。特殊な事情があるのはわかるし、気の毒ではあるが、2022年の一般消費者向け製品として見たときに、これではあまりにもお粗末だ。ハードウェアが素晴らしいだけに本当にもったいないと思う。
スマホ用外付けE Inkディスプレイはどうか
当面、ファーウェイとしてはアプリに依存しない、もっと汎用的なハードウェアを考えるしかないのか。たとえば現行製品であれば、HUAWEI EyewearやHUAWEI FreeBuds Pro 2などのオーディオ製品は、アプリを使わなくてもOSの標準機能だけでつながって、ほぼすべての機能を利用でき不便はない。そしてそれぞれの製品はハードウェアとして素晴らしい。
このタブレットも、そうした使い方の提案が為されていれば、もっと違った評価ができたのではないか。たとえばスマホ用のタッチ機能つき外付けE Inkディスプレイとして訴求しても魅力ある製品になったのではないか。
著者 : 山田祥平
やまだしょうへい
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