東プレREALFORCE R3HC22(以下R3HC22と表記)を評価する機会を得た。REALFORCEシリーズは東プレ独自の静電容量無接点方式のキースイッチを使うキーボードである。R3HC22は、第3世代でUSB接続と最大4台のPCへのBluetooth接続が可能なモデル。第3世代のREALFORCEは複数あるのだが、そのうちこれを選んだのは、Chromebookやスマートフォンなど、Windows PC以外とBluetooth接続させてみたいと思ったからだ。
筆者は、日常的にREALFORCEの第一世代のREALFORCE 91U(以下91Uと表記)を利用しているためキーの押し心地などに違和感がない。もう1つ、日本語入力では、ソフトウェアを併用して親指シフト入力で行っている。今回、文字入力の評価は、ローマ字入力でも行ったが、こうした背景があるため、必ずしも公平な評価ではないかもしれない。この点はご容赦願いたい。
・REALFORCE / R3HC22
https://www.realforce.co.jp/products/R3HC22/
・REALFORCE 91U
https://www.realforce.co.jp/products/91U_NG0100/
なお、最終評価は、12月に公開された最新のファームウェアを使って行った。
入力装置としてのR3HC22
REALFORCEシリーズには「変荷重」と呼ばれ、小指で押すキーの荷重値が小さくなっているものがある。たとえば、Aやセミコロンなどのキーなどは軽い力で押すことができる。ただし、小指を使うキーでもキーボード両端にあるタブやCaps Lock、Enter、Shiftキーなどの「機能キー」は通常キーと同じ荷重である。普通に打鍵しているときには、ほとんど違いを感じないが、Shiftキーと隣の荷重の軽いキーとは、小指の先にわずかに力を加えると、堅さの違いを感じることができる。
筆者は、以前使っていた変荷重ではないキーボードでは、小指でキーを押すときに若干ではあるが、力加減を意識していた。91Uにしてからは、こうした意識をすることがなくなった。R3HC22も同様で、小指でキーを押すときに力加減を意識する必要がない。
OASYS配列では、小指で押すキーの頻度は低くない。Aは「う」、セミコロンは「ん」に相当し、Qは句点「。」、@は読点「、」になっている。ローマ字入力だと、これらの文字は頻度が高くないためにあまり気にならないかもしれないが、プログラミング時には、波括弧や角括弧、行末記号としてセミコロンを多用する。比較のために変荷重でないキーボードを使ってみたが小指で押すキーを重く感じた。このため、以前はQやPのキーを薬指で押していたことを思い出した。カラダが覚えていたようである。
R3HC22には、APC(Actuation Point Changer)と呼ばれる、キーがオンになる位置を変更する機能がある。公開されているREALFORCEソフトウェア(以下R3 Softwareと表記)で設定、変更が可能だが、キー操作でも定義したパターンの切り替えは可能だ。これを設定することで、キーがオンになる位置を4段階に変更でき、キー1つ1つに個別に指定することもできる。短めのストロークが好みの場合には、この機能と組み合わせるオプションとしてキーストロークを短くするパーツ「R3 Key Spacer Set」が用意されている。
筆者が試した範囲では、深めの2.2 mmまたは3.0 mmのほうが打ちやすかった。浅いと最大限の速さでキーを打っているときに誤打鍵が目立った。OASYS配列では、文字キーと親指キーを同時打鍵するが、このときにもやはり深めの設定のほうが誤打鍵が少ない感じがある。
ハードウェアとして
R3HC22のキーボードレイアウトは、標準的なものだが、Fnキーが最下段、右から2番目におかれている関係で、アプリケーションキー(メニューキー)のキートップがなく、Fnキーと右Altキーの組み合わせを使う。これ以外は、極めて普通の配列である。細かいことを言えば、筆者は91Uのほうが好みである。というのは、変換キーに常に親指を置くため、変換キーがJの真下にあってほしい。REALFORCEは第2世代になるときに、この部分のレイアウトが変わりスペースキーが長くなった。もっとも、キートップを改造するなど解決策がないわけでもない。91Uでも変換キーを数ミリ左に伸ばし、その分スペースキーを短くしている。東プレの静電容量無接点方式キースイッチとキートップの嵌合部分は、第一世代の91Uと第三世代のR3HC22、同じキースイッチを使う他社製品で変更がないように見える(写真01)。実際、差し替えが可能だったので、加工用素材の入手には困らなさそうだ。
R3HC22は、Bluetooth用に単三乾電池を2本内蔵できる。しかし、USB接続時には、USB側からの給電でのみ動作でき、Bluetooth接続であっても乾電池を入れておく必要がない。これは大きなメリットだ。まず、バッテリ機器は、常に残量の管理が必要でこれが面倒だ。もう1つは、乾電池の液漏れだ。国産の電池では昔に比べると少なくなったが、乾電池を入れているのを忘れてしまうと、液漏れで接点がさびてしまうことがある。この点、電池を入れないでも動作できるのはありがたい。
Bluetoothは最大4台の接続が可能で、Fnキーと数字キー1~4の組み合わせで切り替えが可能だ。ペアリング時に広告するBluetoothのデバイス名を自由に設定でき、さらに後ろに「1」~「4」が付く。また、R3 Softwareには、接続先の機器名称などを記録できる。こうした配慮により、どのコンピュータにどの番号をペアリングしたのかを覚える必要がない。過去に複数コンピュータと接続可能なBluetoothキーボードはいくつも使ったが、ちょっと使わないと対応関係を忘れてしまうため、接続先を書いたシールをキーボードに貼らねばならなかった。
もう1つ「ヨカッタ」と思える点にキーボード奥側の側面が平らで、ここを下にして立てておくことができることが挙げられる。もっとも意識して設計されたのかどうかまではわからない。
キーマップ入れ替え
R3 Softwareを使うとキーを押したときの出力コード(USB HIDのUsage)を変更することができる(写真02)。これはキーボード内部に記録されるため、専用ソフトなしでカスタマイズしたキーマップを使うことができる。
キーマップ入れ替えは、通常状態とFnキーを押したときの2つの配列をAとBの2つのパターンとして登録できる。AとBの切り替えはキーボードで行えるため、パターンのうち片方を非PC機器用に割り当てて使うことができる。割り当てるUsageは16進数(0x00~0xDF)での指定も可能だ。これは、ユーザープリセットと呼ばれている。詳細な説明はないが、おそらくUSB HIDのKeyboard/Keypad PageのUsage IDを数値で定義するものだと思われる。USB HIDでは、さまざまなキーやボタンを32 bitのUsageで定義している。Usageは、上位16 bitのPageと下位16 bitのUsage IDに別れている。Usageは、以下のドキュメントに定義されている。
・USB.org HID Usage Tables
https://www.usb.org/sites/default/files/documents/hut1_12v2.pdf
キーマップ入れ替え機能で、マルチメディアキーとして用意されているキーコードには、AC Home(Usage IDのApplication Control Home。アンドロイドやChromebookではホーム画面キーに相当する)はあるが、「戻る」(同AC Back)、「進む」(同AC Forward)などの一部のキーが定義されていない。これは、Consumer PageのUsageなので、Keyboard/Keypad Pageを想定してUsage IDを定義するユーザープリセットでは対応できないようだ。このあたりについては、純粋にソフトウェアの問題と思われる。というのは、AC Homeを割り当てることができるのに、AC Forward/Backが割り当てられないハードウェア的な理由を考えにくいからだ。単純な「入れ忘れ」なのかもしれない。これについては、今後のバージョンアップに期待したい。
ここ1カ月ほど、R3HC22を触っているのだが、少なくともデスクトップで使う分には、目立った問題もなく、全般的に好印象である。残念ながらコロナで外出がままならず、外出先での利用はほとんど評価していない。同じ静電容量無接点方式の91Uを、筆者は2006~7年頃から、もう10年以上、毎日叩き続けているが何も問題がない。同じキースイッチを使うR3HC22は、耐久性という点でも心配はなさそうだ。