パナソニックグループの人的資本経営の進捗状況について、パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCHROの三島茂樹氏が合同取材に応じた。
三島グループCHROは、「社員一人ひとりが、自分らしい働き方に向けて、自律したキャリア形成を進めている。変化が起きている手応えを感じている。社員のウェルビーイングを高めていくことに継続的に力を注ぐ」などと述べた。また、「パナソニックグループのDNAは、『物をつくる前にまず人をつくる』ことであり、人を生かし、育て、活躍を支援する人材戦略が経営に浸透している。多様性、自律性、流動性を持った人事戦略に変えていくことで、人に資する人的資本経営を進めていく」とも語った。
パナソニックグループは、「物と心が共に豊かな理想の社会」を目指す方向性に掲げ、2023年度に、グループ共通の行動指針として、Panasonic Leadership Principles(PLP)を制定した。社員一人ひとりの行動変容を通じて、高い付加価値を創出し、経営基本方針の実践を目指すものであり、「お客さま起点で考える(Customer Focus Focus)」、「大胆に未来を描く(Drives Vision Vision)」、「誠意をもって行動する(Builds Trust)」、「未来起点で行動する(Strategic Thinking and Behavior Behavior)」、「世界一の生産性を追求する(Best Work Processes Processes)」、「自主責任感をもつ(Ownership)」、「日に新たに挑む(Evolution)」、「衆知でより良い決断をする(Harmonizes Wisdom Wisdom)」、「違いを強みとして活かす(Welcomes Uniqueness and Differences Differences)」、「人を第一に考える(People First First)」、「結果にこだわる(Drives Results Results)」の11項目から構成。内容は、常にアップデートしていくという。
「PLPを通じて、多様化するパナソックグループの社員が共通で目指すものを言語化した。社員一人ひとりにとっての成長のガイドラインとしての役割を果たすものであり、仕事への意欲を高め、行動を進化させ、社員の体験価値を向上。経営者やリーダーが自ら実践の姿を見せたり、人材マネジメント施策と連動したりといったことも行う。11項目以外にも、役割ごとにどんな行動を期待しているか、どんなマインドセットを期待しているのかといったことも明文化しており、それに向けた教育カリキュラムや支援ツールの提供も行う」という。
PLPアセスメントとして、パナソニックホールディングスの執行役員および主要事業会社の社長などに適用。役員報酬の評価基準として人材戦略を組み込んでいる。「PLPは、上意下達ではない経営候補を選定する指標にもしていく」という。PLPの策定においては、Amazonの「Our Leadership Principles」が、文化や人事制度に根づいていることも学んだという。
また、それらの方針に基づいたパナソニックグループ共通の人事戦略として、「社員のウェルビーイング」を掲げ、「安全・安心・健康に、はたらく」、「やりがいを持って、はたらく」、「個性を活かしあって、はたらく」を3つの柱とし、この取り組みを通じて、「一人ひとりが、心身ともに健康で、挑戦の機会を通じて、幸せと働きがいを感じている状態」を目指すとしている。
ここでは、社員エンゲージメントの指標と、社員を生かす環境づくりを重視。社員エンゲージメントの肯定回答率は年々上昇しており、2017年度には63だったものが、2022年度には67に到達しているほか、社員を活かす環境への肯定率も2017年度の57から、2022年度には65に上昇している。
「一人ひとりの挑戦したい、という気持ちを支え続け、スキルを活かせる、あるいはやりがいを感じる機会を提供し続けていきたい」と語った。
また、「人的資本経営においては、これまでのような人を管理していた人事部門の仕組みや役割を変えていく必要がある。人事部門として、再度プライドを磨き上げるために、役割、責任、ケイパビリティなどを定義しなおそうと考えている」とも述べた。
「社員のウェルビーイング」の実現に向けたひとつめの要素である「安全・安心・健康に、はたらく」では、「安全・心の職場環境整備」、「人権の尊重とコンプライアンス」、「健康イニシアティブの推進(健康で活力ある人づくり)」の3点にフォーカス。ヘルスリテラシーの向上に向けた啓発や機会の提供、健康パナソニックエクササイズの実施や、健康な食事・食環境認証制度を実施。事業会社においては、社長とのウォーキングチャレンジなど、健康経営への取り組みを実施しており、2022年度は、コロナ禍で一時的に悪化した健康リスクを低減させることができたという。
2つめの柱である「やりがいを持って、はたらく」では、「自己実現の機会創出」と、「仕事を通じた挑戦の後押し」という2つの観点から、自発的な挑戦意欲と自律したキャリア形成を支援しているという。
副業(複業)や能力開発の機会創出、働く時間や場所の選択肢の拡大、公募によるグループ内人材交流などを実施。2022年度からは1日の最低労働時間を撤廃し、働く時間や曜日を柔軟に設定でき、これによって、自らのキャリア開発や、ワークライフバランスの改善につなげることができようにしているという。また、フルリモート勤務を導入したことで、パートナーの転勤にあわせて転職するといったことがなくなったり、自宅や実家などの通勤圏外からも働けるようになったり、週休3日制にできることで、育児や介護が可能になったといった事例がある。さらに、社外副業の事例では、書籍執筆や中小企業診断士としての活動、ボランティアで行っていたカメラマンの活動を本格化したという例がある。
同社によると、1カ月の半分以上を在宅勤務にしているリモートワーク制度利用者は1万1,882人となり、全体の約19%が利用。年次有給休暇の取得率は78.4%となり、前年比10%増になっている。また、男性の育児休暇の取得率が64.8%となり、男性管理職では200日の育児休暇を取得した例もある。労働時間を維持しながら週休3日制としている社員は93人、労働時間短縮で週休3日および4日としている社員は4人、通勤圏外からのリモートワークは131人、社外副業は187人となっている。
また、公募による事業会社間の異動(転籍)は2022年度実績で339人となり、全体の52%を占めたほか、事業会社独自の公募制度も成果をあげており、パナソニックインダストリーでは750人、パナソニックコネクトでは332人が公募制度で異動したという。文系出身の社員がデータ利活用や生成AIの仕事に就いたり、50代のエンジニアが環境戦略に携わったり、ショールームに勤務しながら社内イントラサイトの取材ライターとして社内複業を行っている例を紹介した。
「これらの各種制度を利用する社員の数を増やすことが目的ではない。必要なタイミングで、自分らしい働き方を選択してもらう環境を用意し、あきらめることなくキャリアを継続できるようにすることが、人を生かす経営につながる」との考えを示した。
3つめの「個性を活かしあって、はたらく」では、Diversity, Equity & Inclusion(DE&I)を推進。「トップコミットメント」、「インクルーシブな職場環境づくり」、「一人ひとりへのサポート」の3点から取り組んでいるという。
そのなかで、注力している取り組みのひとつが、「アンコンシャスバイアストレーニング」だ。無意識の思い込みについて、学び、気づき、対処するための研修を実施。全国で約110人の社内アンバサダーを認定し、国内の約6万人の社員を対象に継続的なトレーニングを実施しているという。新卒やキャリア採用のすべての新入社員にも同トレーニングを行っている。
また、女性管理職の比率は6.1%であり、「まだ先行企業とは差がある。努力の余地が大きく、継続的な取り組みが必要である」と説明した。
さらに、社員の自発的なコミュニティ活動についても紹介。共創への関心や課題感を持つ社員が中心となり、すでに20以上の組織を設立し、5,000人以上の社員が参画しているという。障がいやジェンダー、ビジネスモデル構築、技術開発、居場所づくりといった様々な観点からの活動が含まれている。
具体的には、女性管理職のロールモデルを探すために開催したオンライン女子会をきっかけに生まれたグループ唯一の女性有志団体である「Panasonic Women Women’s Network (PWN)」、パナソニックグループ内に航空宇宙事業を本気で立ち上げることを目指して発足した「有志団体 航空宇宙事業本部」、キャリア採用者が増加していることから組織や業務を越えたバーチャル同期会のプラットフォームを提供する「キャリクロ」などがある。
パナソニックグループでは、同じ価値観や思いを持つ社員が、事業会社や部門を越えて、主体的に活動する組織を「ERG(Employee Resource Group=従業員リソースグループ)」と呼び、自主的なコミュニティ活動を支援していくことになるという。
一方、パナソニックグループでは、DXへの取り組みとして、「PX(Panasonic Transformation Transformation)」を推進しており、ITの変革、オペレーティングモデルの変革、カルチャーの変革という3つの変革レイヤーを設定。ITシステムだけの変革に留まらない、経営基盤強化のための重要戦略として取り組んでいる。
「PXは、IT職能だけの仕事ではなく、事業会社のトップが7つの原則にコミットして、現場でのDXを推進している点が特徴である。7つの原則のうちのひとつが、『現場も含めたグループ内で、データ・テクノロジーを利活用できる人材を増やし支援する』ことであり、あらゆる現場で社員一人ひとりがデータやテクノロジーを自発的に利活用する環境の実現にも取り組んでいる」とした。
データ利活用に長けた人材を「PXアンバサダー」として認定し、グループ横断でのDX支援を実施しているほか、データやテクノロジーの利活用による業務プロセスの高度化、風土改革などの具体的事例を表彰し、横展開するための「現場PXコンテスト」を開催しているという。