NTTドコモが2023年2月10日に発売することを発表した、FCNTの新しいスマートフォン「arrows N F-51C」。電子部品を除く部品総重量に対してリサイクル素材を67%活用するなど、近年注目されている環境への配慮に注力した端末となっているが、そのことが端末メーカーのビジネスに新たな課題を突きつけているようにも見える。
再生素材の採用だけにとどまらない環境への配慮
ここ最近、サステナビリティ(持続可能性)やエシカル(環境や社会への配慮)、SDGs(持続可能な開発目標)などといった言葉が注目されるようになり、環境に配慮した製品やサービスなどに力を入れる企業が増えてきている。携帯電話業界もその例外ではなく、国内携帯各社も2030年前後にカーボンニュートラル、要は温室効果ガスの排出量と吸収量の合計でゼロにすることを打ち出すしている。
そうしたことからスマートフォンの側でも、環境への配慮を打ち出すものが増えつつあるが、そこに大きく踏み込んだのがFCNTである。同社が開発し、NTTドコモから2023年2月10日に販売される「arrows N F-51C」は、環境への配慮を端末の最大の特徴に打ち出しているのだ。
実際、arrows Nの本体には再生プラスチックや再生アルミニウムなどを積極的に採用しており、電気電子部品を除く部品総重量に対するリサイクル素材の割合は約67%を占めるとのこと。スマートフォンの一部素材に再生素材を用いたり、箱に再生素材を用いたりするケースは増えているが、ここまで全面的に再生素材を用いるケースはあまりなく、かなり意欲的に環境への配慮に取り組んでいる様子をうかがわせる。
再生素材を用いると本体の強度やデザインに影響が出ることが懸念されるが、FCNTの関係者によると再生素材を用いても強度に大きな影響は出ないとのこと。arrows Nも従来通りIPX5/IPX8の防水性能、IP6Xの防塵性能を備えるほか、米国国防総省の調達基準(MIL-STD-810H)の23項目への準拠、そしてハンドソープで洗ったり、アルコール除菌ができたりするなど強靭さや安全性は従来のFCNT製端末と大きく変わらないという。
一方、デザインに関しては再生素材を用いたことによる影響が出やすいというが、arrows Nでは再生素材を用いながらも通常のスマートフォンと大きく変わらない色味やデザインを実現。実際に手に取っても他のスマートフォンと大きく変わらない印象だ。
だがFCNTのarrows Nに関する環境配慮への取り組みはそれだけにとどまらない。同社では伊藤忠商事とオランダのClosing the Loop社と共同で、arrows Nを1台販売する毎にアフリカの携帯電話端末1台をリサイクルする、廃棄物保証サービスプログラムを提供するとしている。
アフリカでは主として先進国からの電子廃棄物が増加しており、不法投棄による環境汚染や健康被害が問題になっているという。そうしたことからClosing the Loopが提供しているプログラムを活用し、廃棄物保証サービスを提供することでそうした環境問題の解消に向けた取り組むを進めようとしているようだ。
さらにFCNTでは、Gabが運営するエシカルブランドに特化した店舗「エシカルな暮らしLAB」に、arrows Nを出展することも明らかにしている。「arrows」も環境への配慮に重点を置いたブランドへとリブランドすることを打ち出しており、会社全体で環境に重点を置いた取り組みを進めていく考えのようだ。
価格の高騰と販売サイクルの長期化は大きな課題
環境への配慮は地球の将来を考える上で非常に重要なことではある。ただarrows Nを見ると、それをスマートフォンという製品に反映させてビジネスとして成立させるという部分では非常に多くの課題があると感じてしまうのも正直な所だ。
最大の課題は価格である。現状、再生素材を使うとそうでない素材を使うよりコストが高くなる傾向にあり、それを大きく取り入れたarrows Nも価格面での影響は逃れられない印象を受ける。実際NTTドコモのオンラインショップにおけるarrows Nの価格を見ると、機種代金は9万8,780円と、10万円近い値付けとなっている。
arrows Nはチップセットにミドルクラス向けの「Snapdragon 695」、カメラに1/1.5で約5,030万画素のイメージセンサーを採用しているが、同種の半導体を採用するスマートフォンの価格はおおむね5~6万円といったところ。半導体不足や円安など外部要因も影響しているだろうが、arrows Nの価格が性能に相応しくない値付けとなってしまっていることは確かだろう。
しかも円安による値上げラッシュが続き家計が厳しい状況下にあって、社会的意義を付加価値として重視し、コストパフォーマンスで劣るarrows Nをあえて選ぶ人がどれくらいいるのか? という点は未知数だ。社会的意義によって上乗せされるコストを、消費者にどうやって理解してもらうかという点は、環境に配慮した製品を提供していく上で大きな課題となってくるだろう。
そしてもう1つは製品寿命の問題である。arrows Nは環境への配慮に重点を置いたこともあって長く使えることにより重点を置いており、本体の堅牢性に加え新たにQnovo社のバッテリー長寿命化技術を導入したほか、同社として初めて最大3回のOSアップデート、最大4年のセキュリティアップデートを提供するとしている。
だが長く使えるということは、裏を返せば販売サイクルの長期化につながり、ひいてはユーザーが新しい製品を購入する頻度が減ることにもつながってくる。端末を多数販売して売上を増やすメーカーのビジネスを考慮すれば、不利な要素が増えてしまうのも確かだ。
もちろんFCNTとしては、それでも環境への配慮を優先する必要があるという判断が働いたのだろうし、今後環境に配慮した製品をあえて選ぶ人が増えることで、販売が伸びるという算段もあるのかもしれない。だがこうした流れが進めば将来的に端末の販売が減ることも予想されるだけに、FCNTがここ最近シニア向けで力を入れているサービスとの連携で収益を得る手段を増やすなど、ビジネスに何らかの工夫が求められることとなりそうだ。