携帯各社から販売されるスマートフォンが、他社の主要な周波数帯(バンド)に対応していないことが乗り換え障壁になるとして、総務省でその解消に向けた議論が進められている。ただメーカー側にとって多くのバンドに対応することは負荷が大きく、それを国が強要するようであれば端末メーカーを苦境に陥れることにもなりかねない。
SIMロック原則禁止の実現でバンドに注目
2019年の電気通信事業法改正以降も、総務省の携帯大手3社に対する公正競争促進に向けた強硬姿勢は続いており、2021年にSIMロックの原則禁止がなされたこともその一環といえる。そして今回、新たに浮上したのが「バンド」、つまりスマートフォンの対応周波数帯の問題だ。
携帯各社が販売するスマートフォンの多くは、各社が免許を持つ周波数帯で最大限のパフォーマンスを発揮できるよう設計されているが、一方で他社が免許を持つ主要な周波数帯に対応していないものも多く存在する。ただ以前はSIMロックがあったことから、携帯電話会社を乗り換えるには端末も買い換える必要があり、端末の対応周波数帯の違いを気にする必要はなかった。
だがSIMロックの原則禁止措置により、現在販売されている端末は基本的にSIMロックがかかっていない。それゆえ購入したスマートフォンのSIMを差し替えるだけで他社回線でも利用できるようになったのだが、そこで問題となるのがスマートフォン側が対応する周波数帯である。
携帯各社から販売されているスマートフォンのいくつかは、自社が免許を持つ主要周波数帯のみに対応していることが多い。そのため、例えばNTTドコモで購入したスマートフォンがKDDI(au)の主要周波数帯、代表的な所でいえば広範囲をカバーしている4Gのプラチナバンド(バンド18)に対応しておらず、auのSIMを挿入して使うと多くのエリアで通信ができない、あるいはしづらくなるなどして快適な通信ができなくなるという問題が発生する。
このことを問題視しているのが、SIMの差し替えだけで乗り換えを容易にできるようにし、事業者間競争を促進したい総務省だ。とりわけ総務省が懸念しているのが、携帯電話会社が端末メーカー側に他社の主要な周波数帯に対応しないよう圧力をかけているのではないか? ということである。
確かに海外で販売されているスマートフォンが国内の携帯電話会社から販売される際、海外版では対応していた周波数帯の一部が、国内版では非対応となるケースはこれまでにもいくつか見られ、一部から不満の声も挙がっていた。さらにその原因が、多くのメーカーより立場が強い携帯電話会社側にあると見る向きが少なくなかったことが、そうした懸念につながっているものと考えられる。
バンド数と切り離せないコストの問題
だが2022年4月11日に実施された総務省の有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」の第28回会合で携帯4社は、いずれも端末の周波数対応はメーカー側に任せていると回答。メーカー側への圧力を明確に否定している。
では携帯電話会社が圧力をかけていないのであれば、なぜメーカー側は販売する携帯電話会社によって対応する周波数帯を変える必要があるのだろうか。例えばアップルの「iPhone」シリーズは、基本的にどの携帯電話会社の周波数帯にも対応できるよう設計されており、他社もこれと同じ対応を取ればよいのでは、と考える人も少なくないだろう。
それができない理由として挙がっているのがコストの問題である。多くの周波数帯に対応するほどアンテナを増やすなどの必要があるため内部構成は複雑になるし、各社のネットワークで最高品質で通信できるようにするには試験も必要になってくる。もちろんその対応には全てコストがかかるため、対応周波数帯を増やせば端末価格が高くなったり、場合によっては端末サイズに影響が出てきたりする可能性もある訳だ。
一方iPhoneの場合、アップルは高額かつ少数のモデルを世界各国に大量販売するという、他のメーカーとは一線を画す手法を取って成功を収めている。そのため最初からより多くの周波数帯に対応した方が効率がよく、大量生産・販売でそのコストを吸収している訳だ。より多くの機種を提供しており、なおかつシェアが小さい他のメーカーがアップルの真似するのはコスト的に難しいので、販売する地域や事業者に合わせて対応周波数帯を絞り、コストを抑えていると見られているのだ。
ただ韓国のように、中には全ての携帯電話会社が保有する周波数帯に対応した端末を販売するよう義務化している国もあるという。ただ韓国の場合、携帯各社に割り当てられている周波数帯自体が少なく(4G向けで6つ、5G向けで2つ)と少なく、より割り当て周波数が多い日本(4G向けで9つ、5G向けで4つ)と比べれば対応にかかるコストは少ないと考えられる。ちなみに日本より割り当て周波数が多い米国(4G、5G共に10ずつ)は、そうした義務化がなされていない。
それゆえ日本で携帯各社から販売する端末に、全携帯電話会社が持つ周波数帯に対応することを義務化するとなれば、既に対応しているアップルが圧倒的優位に立ち一層シェアを伸ばす一方、他の端末メーカーにかかる負担は大幅に増え、端末価格の大幅な上昇も避けられないと考えられる。
しかもメーカー各社はただでさえ電気通信事業法改正で端末値引きが規制され、販売が厳しくなっている。それに加えて総務省がバンド問題でも厳しい対応を打ち出してしまえば、とりわけ規模が小さい国内メーカーは撤退に追い込まれる可能性さえあると筆者は見ている。
先の有識者会議での議論は現在進行中であり、今後は端末メーカーの代表などからヒアリングを実施して議論を進めていくものと考えられる。だが以前のSIMロックや2年縛り、通信回線と端末のセット販売などとは違って、この問題の解決に総務省が強硬措置を取れば、携帯電話会社よりもアップル以外の端末メーカーが受ける影響が甚大なものになる可能性が高いだけに、議論にはかなりの慎重さが求められる所だ。