ティム・クック氏がCEOに正式就任した10年前、スマートフォン市場が成熟期にさしかかり、iPhoneと共にAppleもピークアウトしてしまう可能性がしばらく懸念され続けました。ところが、同社はiPhoneとMacを基盤に、ウェアラブル(Apple Watch、AirPods、AirTag)やスマートホーム(HomePod、Apple TV)、サービス&コンテンツといった新分野を開拓してきました。iPhoneのように社会を一変させるインパクトの再現はなく、革新性が薄れたという声も聞こえてきますが、Appleは成功に満足することなく挑戦を積み重ね、変化し続けながら、今なお成長しています。
そんなAppleが早ければ今年に、新分野に参入するのではないかと噂されています。具体的には、ハイエンドVR(仮想現実)ヘッドセットです。AR(現実拡張)への関心を示していたAppleが「VR?」と思うかもしれませんが、パススルー(透過やカメラによるキャプチャを用いて現実世界の情報を取り込む)でMR(Mixed Reality:複合現実)機能を利用できるヘッドセットと報じられています。
Meta(旧社名Facebook)も昨年、カラーパススルー機能を備えたハイエンドVRヘッドセットの開発を公表しました。AppleとFacebookというと、プライバシーに関してクック氏が、利用者のデータを商品にするような無料オンラインサービスのビジネスモデルを強く非難し、そうしたコメントにFacebookのマーク・ザッカバーグ氏が不快感を示すなど、対立が報じられてきました。違う土俵にあっても緊迫しているのに、同じ土俵で直接ぶつかり合うことになったら一体どうなってしまうのでしょう……。昨年末にBloombergのマーク・ガーマン氏が同氏のニュースレターで、AppleがAR事業向けにMetaのPRチームのリーダーを引き抜いたと伝えました。開発者ではなくPRというところに噂のVRデバイス登場への期待が高まりますが、Metaからの引き抜きというのは穏やかではありません。
でも、AppleとMeta(Oculus)がVRヘッドセットで競争するのは市場の活性化という点では楽しみなことです。
VR/ARデバイスはAppleの新たな成長分野になるのでしょうか。前編の「Appleのゆく年くる年」では、2021年にAppleが発表した製品を振り返りながら、今年を見通しました。後編はより長期的な視点で、新分野開拓を含むAppleの今後の展開について考察します。