7ORDERの真田佑馬が原案・プロデュースした映画『30S』が公開中だ。30歳の誕生日を前に、向井タケル(小野匠)、長嶺蓮香(財田ありさ)、御手洗甲(真田)といった、誕生日が同じ3人の人生が交錯していく物語。プロデュースを務めた真田自身も、物語が動き出すきっかけとなる御手洗を演じている。

アーティストとしては華々しくアリーナツアーも行いながら、今回の映画は完全なインディペンデントで、真田自身が原案や製作に関わるだけでなく、映画館に営業メールを送るなど、全ての工程に入っているという。今回は作品に込めた思いや、ここに至るまでの苦労などについて話を聞いた。

  • 真田佑馬 撮影:宮田浩史

    真田佑馬 撮影:宮田浩史

■「全部、僕1人でやらせてほしい」と話した

――今回は「映画を作りたい」というところから企画が始まったんですか?

30歳になる時に、今まで応援してくれた方たちに何か作品で返したいという思いはあったんです。言葉で伝えるのが不器用なタイプではあるので、物語を作りたいなと思って。実はイベントなどを行うことも考えたんですけど、それは自分らしくないし、ずっと映画に携わりたいという思いがあったので、映画を作ることにしました。

――例えば配給会社にかけ合うとかではなく、もう自分ですべてというところがすごいですね。

まず伝手がなかったし、「ここによその人が絡んだら失敗してしまう」という気持ちもありました。だから最初に、7ORDERのマネジメントサイドにも、メンバーにも「全部、僕1人でやらせてほしい」と話しました。「リスクも自分が背負うから、できる限り自分の力だけでやりたい」と。そこからは自分で資金も出して、営業メールもして、やっと今映画館にたどり着いたところです。本当にそのレベルだから、「こんなに大変なんだな」と思いました。企画が立ち上がって、スキームを作って、脚本を作ってオーディションして……と、2年間かけて映画製作の流れをひたすらやっていました。

――オーディションもかなり人が集まったそうで。

企画書レベルで僕の名前を公表しているわけではなかったんですが、座組に対して面白いと思ってくださった方が600人集まってくれました。僕は大学で映像の勉強をしていたんですが、集めてくれたのが大学の同級生や後輩で、一人ひとりが職業として「やります」と協力してくれるのがうれしかったです。ただ、本当に手探りでした。自分の宣伝の大切さも感じましたし、SNSのブランディングも全て自分たちでやっているので頭がパンクしそうで、「プレスリリース1本出すのも、こんなに大変なんだ」と(笑)。毎日そんなことばかりでしたが、映画の仕組みも理解できて、いい経験をさせてもらっているなと思います。

だからこそ、自分はふだん恵まれているなと思います。やりたいことを叶えてくれるマネジメントがいたり、雑誌でかっこよく見せてもらっていたり、本来の自分以上のパフォーマンスができているのは周りの支えがあってこそだから、改めて感謝しています。わかってはいたけど、より大変さがわかったというか……本当にありがたいです。

――自分で映画館に営業メールを送ったということも驚きました。

門前払いされることもあったし、まず返事が来ることにうれしさがありました。「アポイント取れた!」みたいな(笑)。でも、普通はこうなんですよね。僕は12歳からこの職業を続けてきて、ちょっと浮世離れしてたんだなと。やっと社会の一部として、芸能人ではなくて理解できた気がします。だからこそ、この職業のありがたみや人の大切さは、モットーとしてちゃんと持とうと……ダジャレっぽくなっちゃったけど、ダジャレじゃないです(笑)

――ちなみにパンフレットに関わられたとのことですが、どんな風に作られたんですか?

工程にはほぼほぼ入ってますし、なんなら発注もかけてます(笑)。パワポでイメージを作って、デザイナーの後輩に頼んだり、現場での写真も撮っていたので載せたり。現場スチール、照明、音声、音楽……でもそれを全部エンドクレジットに入れると、“やりたがり”みたいに見えるから、そこは省略しているところもあります(笑)

■人間を掘った「映画」を作りたかった

――真田さんは舞台『27 -7ORDER-』で主演をされて「27」という曲も作られて、今回は映画『30S』ですが、何か年齢についてテーマにしたいという思いがあるんでしょうか?

考えてそうしたわけではないんです! シリーズにしたら、40歳の時にもやらなきゃいけないし(笑)。ただ今回は「クオーターライフクライシス」がテーマになっていて、20代後半から30代にかけて人生に迷っている時期だから、監督とも最初から「30歳をテーマにした作品を作りたい」と話していました。仲間が集まって、会議を続ける中で「『30S』って言葉がいいね」という意見が出てきて。「Twitterでは数字が前に来ちゃうとトレンドに入りづらいですよ」といったことも伝えたんですが、『30S』を遠目で見ると『SOS』にも見えるし、人生で最後のSOSという意味でもちょうどいいタイミングになるんじゃないかと考えました。

この作品は、もともと“エンタメ映画”にしたくないという思いが大きくて、エンタメとかけ離れて、人間を掘った「映画」を作りたかったんです。たとえば上映時間も2時間15分で「長いんじゃないか」とも思いましたが、現場の全員「それが良い」と言ったから、「わかった」と頷きました。もしかしたらプロデューサー失格かもしれないけど、みんながいいものができたと胸を張って言えることがすべてだと思うし、僕が発起人でもあるから、全部受け皿になろうという思いで立っていました。

――観た方も、特に同年代なら刺さるところがあるのではないかと思いました。

きっと、あの中の誰かが刺さるんじゃないかな。あとは、1回観ただけじゃわからないだろうから、何回も観て友達と話し合ったりするのも楽しいと思います。制作側としては「これってどういう意味ですか?」と聞かれたら、もちろん意図していることはそれぞれにあるんですが、それを全て言ってしまったら映画じゃない。余韻や考察を楽しむのも映画だと思っています。僕自身も、2年前から構想し続けていたけど、今この状況になって完成版を観たら、また違った観え方がありました。だから、色々考えて楽しんでもらいたいです。

――メンバーの感想などはありましたか?

まだ、今回出演しているモロ(諸星翔希)しか観てないですね。撮影当時、モロとやっさん(安井謙太郎)とごはんを食べながら「大変だ」と言ってたら、「俺、何か手伝うよ!」と言ってくれたんです。そしたら数日後に1人足りなくなっちゃって、モロは30歳に1番近いし、「助けてくれるって言ってたよね?」と連絡をとったら、出演してくれました(笑)。スーツも自前のもので来てくれて、さらにやっさんもコーヒーをいっぱい持ってきてくれて、うれしかったですね。

――よく「友情出演」というクレジットがありますが、それは本当に友情出演ですね。

ガチガチな友情出演です(笑)。そういうことができるのも今回の作品の良さだし、僕はモロのお芝居が好きなので、頼んでよかったです。スーツで会社員のシーンだったので、「もし7ORDERになっていない世界で、モロがサラリーマンだったら、こういう感じなのかな?」と想像もしました。

――諸星さんは、阿部顕嵐さん主演の『ツーアウトフルベース』にも出演されていたし、長妻怜央さんの楽曲「シンデレラ・ストーリー」にもサックスで参加されていて、いろいろ関わられているイメージがあります。

モロの良さが気づかれ始めてるんじゃないかな? なんかいいんですよね、人間が良いから。試写も観てくれた後に話しましたけど、やっぱり刺さってました。「本当に頑張ったね」と言ってくれて、「人間ってこうだよね」という話もしました。

――ちなみに、真田さんは自分の基礎になった映画作品はありますか?

ジャンル別にあって……1番と言われたら選べないけど、何度観ても泣いちゃう作品があるとしたら、『アルマゲドン』。

――エンタメですね!

ゴリゴリエンタメです(笑)。『アルマゲドン』の最後のシーンは何回観ても号泣なんですよ! ベン・アフレックのシーン、何分何秒まで言えます。だから今回の作品にも月が出てくるのかもしれない(笑) 大学でも「クリスチャン・ベールとレオナルド・ディカプリオの演技比較と体重変化」というテーマで論文を書いていたので、それくらいいろんな映画が好きなんです。

――もしかしたら次の作品はエンタメ映画になることもありますか?

でも自分が作るなら、もっと切り込んでいくと思います。“いい自分じゃない自分”になりたいのが、映画を作る時の気持ちなのかもしれない。ある種、虚構だから。僕は、普段の自分よりもよく見られる職業だけど、年相応におかしいものをおかしいよねと言いたい瞬間もあって。逆にそれを作品に落とせるのが、自分の職業としての強さだと思います。エンタメに触れる時は、心が救われますけど、「映画」はもっと違うジャンルでもあると思っていて、教科書に近い気がします。フィクションで作っても良いし、ノンフィクションで作ってもいいし、僕は無限の可能性を感じてしまう。

だから、これからも映画を作っていきたいです。今回映画の大変さもこの身をもって理解して、それでもロマンだなと思うから、この映画を成功させてネクストステップに上がりたいし、監督もやりたいし、クリエイティブとしても食い込んでいきたいです。今もいくつか原案を書いていますし、今後のためにも自分でできる範囲のことはやっていけたらと思っています。

■真田佑馬
1992年11月21日生まれ、東京都出身。7ORDERのメンバーとして活躍し、近年の主な出演作に舞台「7ORDER」『PSYCHO-PASS サイコパス Chapter1―犯罪係数―』(19年)、『27 -7ORDER-』(20年)、『キルミーアゲイン’21』(21年)などがある。