予告もなくいきなり登場した「GR IIIx」、伝統を破って40mm相当のレンズを搭載したことが写真ファンの間で話題になっています。「28mmじゃなきゃGRじゃない」と考える人もいますが、長年GRシリーズを愛用してきた鹿野カメラマンにとってはうれしいサプライズだったようです。
28mmは広すぎる…と感じながらGRを愛用してきた僕
リコーイメージングが9月8日に発表した「GR IIIx」、何の予兆もなく、僕もただただびっくりしました。そういえばGR IIIの登場時、ここでレビューをしたのが2年ちょっと前。平成と令和をまたいでの前後編2本立てでした。今となってはお祭り騒ぎだったあの頃に戻りたい気分ですが、それはともかく新製品が売れないことには次の機種を出せないのがカメラメーカーの常。この記事で少しでも売り上げに貢献できれば…と願いながら作例を撮り、原稿を書いたのを覚えています。まあどれだけ貢献できたのかは知る由もありませんが、たぶん順調に売れたのでしょう。後継機ではなく、なんと派生機を出してくれたのです。というわけで、これも少しでも売り上げに貢献すべく、デモ機をお借りしたその日から撮影し、超特急で原稿を書いています。発売はまだ先ですが。
GRについては、「28mmは広すぎて難しい」「標準を出してくれ」といったユーザーの声をリコーの担当者さんはたぶん3万回くらい聞いたと思います。そのうち15回くらいは僕です。しつこいな自分。しかし、しつこい相手にも「GRとは28mmなのである」という答えが、馬込(前は新横浜)から聞こえたり聞こえなかったり。ともあれ、初代GRデジタルが発売された2005年から、頑固なまでに画角は28mm相当を貫いてきました。
それが突然の40mm相当。レンズ部分に記された「26.1mm」から計算すると本当は39.15mm相当なのですが、スペックシートにはたしかに「約40mm相当」とあります。28mmと39mmじゃあまり違わないけど、28mmと40mmだとすごく違う感じがするし。しかしソーシャルディスタンスだとか肖像権云々だとかで、スナップも被写体ににじり寄っていく時代は終わったのでしょうか。あるいは、スマホのカメラがだいたい28mmか、それよりちょっと広いくらいの今、センサーが大きい=ボケが大きいという優位点を生かすには、焦点距離を伸ばしてみようと考えたのかもしれません。なんて書いていたら、オイ答えはこの記事「リコーGR IIIx、開発者や写真家が語る“40mmのGRの魅力”」にあるぞ…と天の声が聞こえてきました。なるほど。
かくいう僕には、28mm相当という画角はいささか広すぎます。ただ、高画質ながらポケットにも入るカメラというのがほかになく、コロナ禍で行動範囲が狭くなってからは必然的に装備も身軽になり、ほぼ毎日GR IIIを持ち出している状況です。そしてほぼ毎日、その広さに二歩三歩前へ進んだり、頭をひねって構図を工夫していました。
そもそも仕事はともかく、私事ならば35mmと50mmがあれば僕は十分なのです。被写体を前にレンズをガチャガチャ交換するのも無粋なので、できることならその中間の焦点距離1本で済ませたいとも思っています。そのため、ここ数年は40~45mmあるいはそれに相当する交換レンズが増えました。フルサイズセンサーの対角線長は43mmで、つまりは43mm相当が広角と望遠を隔てる本当の標準レンズとなります。
そんなわけで、最近のお気に入りは薄くて小さいペンタックスの「smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited」。これを本来の43mmとして使いたくて、フルサイズセンサーを積んだK-1 Mark IIを買ったほどです。ですから、今回の発表にはシンプルに驚くとともに、クラスの憧れの女子が席替えでいきなり隣にきちゃったようなドキドキ感もあります。
レンズは40mmだけどやっぱりGRだった
では、胸のときめきを隠せない40mm相当のGRは実際どうなのか。3日ほど使ってみましたが「このGRはGRだけど40mm相当なのである!」と強く意識しないと、広い絵をイメージしてしまったり、不必要に寄ってしまうこともありました。GRのデザインは2005年のデジタル初号機から大きく変わっていないので、この形状のカメラを構えると無意識に28mm相当の画角をイメージしてしまうのです。おそるべしデザインの力。
しかし、戸惑うとか困るというほどでもなく、慣れの問題かもしれません。電源を入れて背面液晶を見ると、映るのは視界をスパッと切り取った28mm相当ではなく、対象物を穏やかにすくい取るような40mm相当なのは新鮮でもあります。
今までのGRシリーズは、どんな場面でも強い遠近感がつき、それがハマって傑作を撮れることもありましたが、僕は難儀することの方が多めでした。28mm相当では、どうしても画面内に無駄な空間ができがちで、それをどう処理するかが腕の見せ所であるように思います。GR使いの名手と呼ばれるような方々は、そこが自然とできてしまうのかもしれませんが。でも、自然にできない僕は、たぶん発売と同時にこちらのGR IIIxを使い倒すようになり、年末あたり久しぶりにGR IIIを触ると「広っ!」と思うのでしょう。もちろん、キレ味の鋭い描写力や手になじむ操作感はGR IIIと変わらず、という点も付け加えておきます。
今GR IIIをお使いで、僕のように画角の広さを我慢しているという方は、迷わずGR IIIxをご予約ください。クラスの憧れの女子(あるいは男子)が隣の席にやってくるのです。ただし、軍資金捻出のためGR IIIを下取りに出すという選択は、できることならば控えた方がベター。広角レンズで撮った写真をトリミングして標準レンズで撮ったようにすることはできますが、逆はできないのです。行き先や状況によっては28mm相当が欲しくなるでしょうし、サイズがサイズなのでGR IIIとGR IIIxの二丁拳銃もアリだと思います。左右のポケットに1台ずつ入れれば…なんて話は今回も前後編2本立てというか、これは序章で本編は後ほどじっくりというのが編集部からの指示なので次号で。
鹿野貴司
しかのたかし
この著者の記事一覧はこちら