シャープが発表した2024年度上期(2024年4月~9月)の連結業績は、売上高が前年同期比5.3%減の1兆964億円、営業利益は前年同期のマイナス58億円の赤字から4億円の黒字に転換。経常利益は前年同期比51.6%減の14億円、当期純利益は前年同期比362.6%増の229億円となった。
シャープの沖津雅浩社長兼CEOは、「全社トータルでは、売上高は減少したものの、営業利益は大きく改善し、2022年度上期以来の黒字となった。上期のブランド事業の売上高は、スマートオフィスが大幅な増収となり、前年同期実績を上回った。製造原価やSCM全体でのコストダウン効果があったほか、付加価値商品にモデルミックスの良化がある。デバイス事業は、減収となった一方で、構造改革の効果もあり、営業赤字が大幅に縮小した」と総括した。
経常利益は、営業外の為替差損益の変動により減益となったが、当期純利益は、投資有価証券売却益などもあり、大幅な増益になっている。
沖津社長兼CEOは、「上期の数字は一過性のものが多い。また、下期も厳しい環境であることに変わりがない。スマートオフィスなどの好調な分野には計画以上に努力していくことになる。AIデータセンター関連の契約や、アセットライト化をきちっとやり切ることが私のミッションである。絶対にやり切らなくてはいけない」と述べた。
強弱入り乱れた白物家電、好調なスマートオフィス
セグメント別業績では、ブランド事業の売上高が前年同期比10.2%増の7129億円、営業利益は10.0%増の302億円となった。そのうち、スマートライフ&エナジーは売上高が前年並みの2290億円、営業利益は42.5%減の83億円となった。
国内白物家電では、美容家電や調理家電が大きく伸長したが、価格競争が激しかった洗濯機や、需要が低調だった冷蔵庫などが前年同期の実績には及ばなかった。一方で、海外白物家電は、ASEANにおいて、冷蔵庫が大型モデルや高付加価値モデルにシフトしたことによって大きく伸長。洗濯機も堅調に推移し、売上げが前年同期を上回った。米国でも高付加価値モデルを中心にした調理家電が伸長したという。国内外を含めた白物家電全体では、第1四半期並みの利益水準を維持しているという。
「海外白物家電は2桁近い伸びを示している。とくに、インドネシアやマレーシアが好調である。今後は、シェアが低い地域でのテコ入れを図り、下期もさらにがんばりたい。だが、国内白物家電はそれほど伸びないなかで、付加価値の高いモデルにシフトしていくことか重要だ。経費を削減し、利益重視でやっていく」と語った。
一方、エネルギーソリューション事業は、EPC(Engineering Procurement and Construction)が大幅な減収となったほか、欧州のエネルギーソリューション事業で一過性の費用が21億円発生した。「海外では厳しい状況が続いている。エネルギーソリューション事業は、国内住宅用ビジネスに重点を置いていく」と述べた。
スマートオフィスは、売上高が前年同期比21.4%増の3296億円、営業利益は83.3%増の182億円。ビジネスソリューション事業は、国内外とも増収となっており、とくに国内では、オフィスソリューションやインフォメーションディスプレイが好調であるほか、MFPも前年同期を上回り、コンビニ向けのMFPを通じたプリントサービス事業が好調だという。また、海外では、欧州のMFPや米州のオフィスソリューションなどが大きく伸長した。PC事業は、法人向けプレミアムモデルが好評であるほか、マネジメントサービスも徐々に拡大。国内法人向けや官公庁向けで大幅な増収となっている。
「PC事業やオフィスソリューション事業で高付加価値化が進んでいることに加えて、課題であったインフォメーションディスプレイ事業も、構造改革が進展しており、安定的に利益を計上している」と述べる一方で、「PCは、2025年10月のWindows 10のサポート終了前の需要があり、2024年度下期も好調だろう。だが、そのあとの対策を考えなくてはいけない」とも語った。また、MFPについては、「市場全体として縮小する方向に行くが、ハード売りの落ち込みをソリューションでカバーしたい。とくに欧米では、IT関連企業の買収により、MFP事業を伸ばしたい」と述べた。
スマートオフィスのなかででは、ロボット事業の立ち上げを進めていることについても説明。「シャープ特有の技術を生かした倉庫内自動搬送システムや、カメラを活用した駐車場管理システムなどの提案を開始しており、こうした新たなビジネスを展開し、今後のMFPの落ち込みをカバーする規模にまで成長させたい」と語った。
ユニバーサルネットワークは、売上高が前年同期比5.5%増の1542億円、営業利益は21.5%増の36億円となった。
本丸は2024年度下期、テレビ事業の構造改革
テレビ事業は、海外市場が低調であり、競争環境が激しかったことから減収となったが、国内市場は、XLEDやOLEDの新モデルが好調で、付加価値ゾーンのシェアが増加したという。
その一方で、下期はテレビ事業の構造改革を進める考えも明らかにした。
「2024年9月に発売した新製品が好調である。とくにOLEDが好調だ。だが、海外では低調な中国メーカーがアジアなどの海外市場において、低価格で販売をはじめており、競争が激化している。シャープは、2024年度下期から、自社工場で生産したテレビではなく、すべてをODMやOEMから仕入れて、価格競争力をつけて販売していく施策に転換する」と、海外テレビ事業の新たな施策を明らかにした。
また、通信事業は減収だが、スマホの販売台数は増加しており、なかでも、AQUOS R9やAQUOS wish4などの新製品の販売が好調だったという。
一方、デバイス事業の売上高は前年同期比24.9%減の4010億円、営業利益は前年同期から51億円改善したがマイナス201億円の赤字。そのうち、ディスプレイデバイスは、売上高が前年同期比23.6%減の2679億円、営業利益は前年同期のマイナス296億円の赤字に対して、マイナス248億円の赤字と48億円の改善。車載向けのディスプレイは底堅く推移したものの、スマホ向けやPC、タブレット向けのディスプレイや、堺ディスプレイプロダクトで生産を終了した大型ディスプレイが減収となった。沖津社長兼CEOは、「ディスプレイデバイスは、生産能力の最適化などの構造改革を進めた効果もあり、赤字が大幅に縮小した」としたが、「四半期での黒字化の時期については現時点では明確にできない」と述べた。
エレクトロニックデバイスは、売上高が前年同期比27.4%減の1331億円、営業利益は前年同期比6.9%増の46億円。新規受注を獲得した加工用半導体レーザーや、2024年より量産を開始した車載用の半導体レーザーが大きく伸長。だが、センサーモジュールの顧客需要変動がマイナスに影響した。
通期業績予想は据え置き、アセットライト化で最終黒字を目指す
2024年度(2024年4月~2025年3月)連結業績予想は据え置き、売上高は前年比9.6%減の2兆1000億円、営業利益は100億円、経常利益は100億円と、当期純利益も50億円と黒字化を目指す。
「業績がほぼ想定通り進捗していることから、通期見通しは据え置いた」という。今後の資産売却などの影響は盛り込んでいない。
シャープが重点施策に位置づけているデバイス事業のアセットライト化の進捗状況についても説明した。
液晶パネルの生産を終了したグリーンフロント堺については、ソフトバンクと、2024年度中の土地および建屋の譲渡契約締結に向けて最終協議を行っていること、KDDIとは、2025年度中のAIデータセンターの本格稼働に合わせて、諸条件について協議を行っているという。なお、「データセンターの電力の割り振りは、各社からの申し込みになる」と述べた。
また、カメラモジュールと半導体については、2024年12月までの譲渡契約の締結と、2025年3月までのクロージングに向けて、鴻海と最終協議中であることを明言した。
アセットライト化の観点では、2024年度第4四半期から、堺ディスプレイプロダクツの費用がなくなり、これがプラスに働くことも示した。
一方で、EV、AI、衛星通信の新規事業に対して、研究開発費を投下していることや、2024年5月からスタートした「イノベーションアクセラレートプロジェクト(I-Pro)」として、生成AI関連と、EVエコシステム関連の2つのプロジェクトを推進していることも強調した。
今年6月に就任した沖津社長兼CEOは、その立場では、今回が最初の四半期決算だった。
アセットライト化をやり切ることが、自らのミッションだとし、今回の決算会見でもその姿勢を改めて強調。通期黒字化の必達目標に掲げる沖津社長兼CEOにとっては、上期に2年ぶりの営業黒字化を計上したことは明るい材料だ。就任から短期間で黒字化した姿は、数値の面で捉えると、かつての戴正呉氏にもダブって見える。ブランド事業を中核に据えるシャープの新たな姿が少しずつ形づくられているのは確かだといえそうだ。