「写真甲子園」を取材していておもしろいなぁ、と感じるのは“イコールコンディション”が徹底されていること。写真甲子園では、各校とも共通の貸し出し機材しか使うことができません。選手へのアシストにならないよう、監督も本戦撮影中はスマートフォンを含め、デジタルカメラの使用は一切禁止です。

今回各校に用意されたのは、キヤノンのフルサイズミラーレスのエントリーモデル「EOS RP」が3台、そして標準ズームの「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」が3本。つまり、すべての選手が常にこの組み合わせを使うことになります。さらに高倍率ズームの「RF24-240mmF4-6.3 IS USM」と、単焦点レンズ「RF35mmF1.8 MACRO IS STM」が1本ずつ、クリップオンストロボ「スピードライト430EX III-RT」も1個貸し出されます。

  • 大会期間中、カメラは選手たちの“第3の目”となる。それをどれだけ生かせるか

最初に取材した2004年の第11回は、選手も筆者もまだポジフィルムを使っていました。カメラはキヤノンから上級機・中級機・入門機の3台セットが貸し出されましたが、使い慣れた自分のカメラを使うことも可能でした。ほどなくして、貸し出されるのはデジタル一眼レフになり、同時に機材はそれだけが使えるというルールになりました。機材による有利不利がなく、カメラを持っていない生徒でも公平に戦えるという点で、この制限は意味があると思います。

  • 大会期間中は、キヤノンマーケティングジャパンのスタッフたちが機材をサポート。希望者は夜間預けてメンテナンスをしてもらうこともできる

  • 撮影中はワンボックスカーで対象エリアを巡回。カメラやレンズで困ったことがあれば、選手たちは手を挙げて助けを求める。トラブルが起こることは稀だが、選手たちは心強いはずだ

いくつかの高校に話を聞くと、部の備品としてカメラを保有しつつ、個人でも小さめのデジタル一眼レフやミラーレスを持っている選手が多いようです。カメラマン志望で、大人並みに機材はフルセットを揃えているという選手がいるかどうかは分かりませんでしたが、逆に3人とも本戦で初めてレンズを交換できるカメラを使ったという高校がありました。「廃部から復活、全校80人の分校、サッカー部員が参加 写真甲子園参加校の横顔」の記事でも取り上げた逗子葉山(神奈川)です。昨年同好会として発足し、今年「部」に昇格したばかりで、今回出場した選手は3人ともカメラを持っておらず、本戦への切符を手にした作品もスマートフォンで撮影したそうです。

そこで選手たちに話を聞くと、「スマートフォンより望遠がきれいに撮れるし、ホワイトバランスなど仕上がりも細かく設定できるのが楽しいです」「そうそう望遠! 鳥を撮りたいです」「三脚を立てて水の流れをスローシャッターで狙ったら楽しくて、ついつい写真甲子園とは関係なく撮ってしまいました」といった感想が。やはり、スマートフォンにはない撮影体験にテンションが上がったようです。使い方で戸惑うことはなかったのかを尋ねると、学校の図書室で写真に関する本を読み漁ったり、カメラ系のYouTube動画をたくさん見てきたとのこと。実際カメラの扱いを見ていると、初めてとは思えないほど手慣れていました。

  • その水の流れを撮っているところ。一生懸命だなぁと思ったのだが、写真甲子園とは無関係だったとは…(笑)

ともあれ、共通の機材が入門機~中級機のデジタル一眼レフ、そしてフルサイズミラーレスへと進化し、フィルム時代にあった露出ミスやピントの甘い写真はほとんど見られなくなりました。その結果、ほんのわずかな仕上がりの差が目立つように。たとえば、黒い背景でポートレートを撮影するときは、露出補正をマイナスにして黒を引き締めることで人物を引き立たせる、というのがセオリー。審査員もそこができている、あるいはできていないことに何度も言及していました。

  • 八代白百合学園高等学校のファースト公開審査会発表作品「大好き」より。データをみると、しっかりとマイナス1/3補正がされていた

それくらいの明暗はレタッチで……といいたいところですが、写真甲子園では一切のレタッチが禁止。ただし、カメラでホワイトバランスはもちろん、ピクチャースタイルをアレンジすることは可能です。逆にいえば、ここがカギを握っており、彩度を少し上げて印象の強い写真に仕上げる高校もあれば、モノクロで勝負する高校もありました。

初歩的な失敗写真が減ってくると、相対的に構図やそれを左右するレンズワークの差が目立ってきます。写真甲子園の戦い方としては、たとえば今回の機材であれば標準ズーム担当、高倍率ズーム(望遠)担当、単焦点担当と、3人が使うレンズを分ける作戦が以前はよく見られました。ただし、今回は筆者が見る限り、ほとんどの選手が標準ズームで撮影していました。選手が二手に分かれたり、3名バラバラで行動する高校が多く、そうなると使うレンズが同じほうが後で写真を組みやすいというのもあるのかもしれません。実際のところ、24mmから105mmまでカバーできれば、ほとんどの撮影は十分こなせると思います。

  • ひとつのシーンを左右両側からおさえるの図。こうしてバリエーションを作ることが、のちのセレクトで「撮っててよかった~」となる

プロのカメラマンとして、また美術系高校で写真を教えていた立場から初戦突破、そして本戦出場を目指す高校生にアドバイスをするなら、レンズの焦点距離が変わることで遠近感が変わることを感覚で身につけるといいと思います。これは、初戦に応募する組写真でも重要な要素ですし、本戦の公開審査会でも露出と並んでたびたび指摘されるポイントです。

広角では近いものは近く、遠いものはより遠く写ります。したがって、主題への寄りが足りないと、すべてが遠くて散漫な写真になりがち。また、背景に意図しないものが写り込みやすくなります。2~3歩前に出ることと、ファインダーの四隅をしっかりと確認するクセをつけましょう。反対に、望遠は遠近が圧縮されますが、こちらもまた画面の整理がポイント。背景が引き寄せられることで不必要なものが目立ったり、逆に情報不足となって状況が分からない写真になりやすくなります。主題やファインダーの中ばかりに気を取られず、ファインダーや背面液晶の外から肉眼で状況を把握するといいと思います。

  • そういえば、ファインダーをのぞく選手よりも、ライブビューで撮影する選手が多かった気がする。これも時代か

そして何より大切なのは、35~55mmくらいの標準域をしっかり使いこなすこと。標準域でほとんどの撮影をこなし、広角や望遠はここぞというときに使うようになると、組写真が飛躍的にレベルアップします。筆者が美術系高校で写真を教えていたときは、ズームリングを好きな焦点距離で固定(ガムテープでぐるぐる巻き)し、校内を撮影するという実習を時折行なっていました。今までファインダーをのぞきながら無意識にズームリングを回していた生徒も、構図を決めるには自分自身が動く必要に迫られます。それを繰り返すことで焦点距離と画角、遠近感の関係を体で覚えることができます。すると、被写体と出会ってから撮影するまでがスピーディーになるのです。

一枚の素晴らしい写真ではなく、組写真の完成度で競う写真甲子園では、写真にある程度の物語性が求められます。そのためには主題、副題、背景をうまく重ね合わせて、“写真に語らせる”必要があります。慣れない環境や限られた時間でそれを成功させられるのは、何mmでどこから撮るとどう写るかが、ファインダーをのぞく前に想像できている選手です。

  • 浦添工業高等学校のファイナル公開審査会発表作品「ぬくもり」より。母、息子、猫の三者三様ぶりと、舞台となるダイニングキッチンの空気感が絶妙なバランスで封じ込められている

カメラという道具を使いながら、その技術の優劣を競うわけではないのが写真甲子園。実際、審査員各氏による総評では「写真を撮ることとは、世界をどう見ているかということ」(中西敏貴氏)、「見ているものや感じたもの、日々思っていることが凝縮されてセンスに現れる」(須藤絢乃氏)、など、日ごろからの思考や視点が大切というメッセージが印象的でした。しかし、感じたことや考えたこと、そこから伝えたいことを的確に伝えるには、カメラを操る技術が必要なのも事実。たとえば、カメラを持っていないときでも、気になる光景に出会ったらレンズは何mmで、どんな構図や露出で撮るかをイメージするだけでもトレーニングになります。高校生の皆さん、ぜひ実践して、そして(1~2年生は)来年の写真甲子園にチャレンジしてみてください。