2023年2月7日から19日にかけて、タクティカルシューティングゲーム『レインボーシックス シージ』(以下、R6S)における年間最大の世界大会「Six Invitational 2023」が、カナダ・モントリオールにて行われました。

トーナメント最終3日間の会場は「Place Bell」。「Six Invitational」としては2020年以来となる、待望の有観客開催です。今回は、現地へ取材に行けたので、会場で体感した“熱狂”をお届けします。

  • 会場の「Place Bell」。氷点下の気温で雪が降るなか、多くのファンが入場を待つ

壮大なオーケストラの演奏と歓声に包まれる幕開け

これまで「Six Invitational」は、モントリオールで開催されるのが恒例でしたが、世界的なパンデミックの影響により、2021年はフランス・パリ、2022年はスウェーデン・ストックホルムと場所を移し、無観客で行われていました。しかし、今年は再びモントリオールの地へと戻り、3年ぶりに有観客の「Six Invitational」が復活を遂げました。

モントリオールは、『R6S』の開発スタジオがある都市。初日の会場では、開発スタッフたちが入り口付近にずらりと並び、入場するファンを拍手と歓声で盛大に出迎えていました。あまりの盛り上がりに、最初は選手やキャスターが入場しているのかと勘違いしたほど。有観客の復活を祝うような歓迎の声は、ファンの入場が落ち着くまで鳴り止みませんでした。

観客席には、金曜日午前の時間帯にも関わらず、すでに多くのファンがつめかけていました。オープニングセレモニーのカウントダウンが始まると、大きな歓声が巻き起こります。そして、オーケストラによる壮大な演奏とともに、「Six Invitational 2023」が開幕。勝ち進んだ6チームが入場しました。

日本のオフライン大会ではまだ、コロナ対策のため声を出せず、スティックバルーンを叩いての応援が主流です。しかし、この会場では特に制限がなく、マスクなしで大声を出してもOK。観客席での飲食も可能で、すっかりコロナ以前の世界に戻っているといえる環境でした。

  • 会場に入るとすぐに、『R6S』開発スタッフたちがファンを盛大にお出迎え

  • 通路から観客席へのゲートをくぐると……

  • 目の前に迫力満点のステージ

  • オーケストラによる演奏とともに幕を開ける「Six Invitational 2023」

  • 平日午前からのスタートにも関わらず、多くのファンがつめかけた

  • 最終3日間まで勝ち進んだ6チームが入場

初日から絶好の盛り上がり、会場ならではのユニークな応援も

初日の試合は、ロワーブラケットの「Wolves Esports」対「G2 Esports」からスタートしました。この日、特に印象に残ったのが、1試合目を戦った「Wolves Esports」。観客席のどこかでファンが遠吠えすると、それに呼応するように別のファンが遠吠えするという、チーム名にちなんだ“オオカミ”たちによるユニークな応援には心をつかまれました。

そしてなにより、世界でもまだ数少ない女性コーチである、Lylounコーチの姿が目を引きます。彼女の力強く堂々とした振る舞いはとてもカッコよく、多くの試合を観たいと思いましたが、残念ながら「G2 Esports」に1-2で敗れ、敗退してしまいました。

初日、最も会場が沸いたのは、2試合目の「Astralis」対「KOI」決着の瞬間です。お互いに譲らない戦いが続き、3マップ目では7-7のオーバータイムマッチポイントに突入。最後は1vs1となるギリギリの展開で、「Astralis」が勝利を決めた瞬間は、すさまじい歓声に包まれました。

  • 初日は「Wolves Esports」対「G2 Esports」の試合からスタート

  • 「Wolves Esports」の選手たちの後ろに立つ、女性のLylounコーチ

  • 最後の瞬間まで勝負がわからない、ギリギリの激戦を勝ち切った「Astralis」

  • 敗退が決まり、悔しさをにじませる「KOI」の選手たち

質の高い観戦体験とゲームに連動したこだわりの演出に驚き

この日、会場で試合を見ていて驚いたのは、オフラインの観戦で起きがちな不満を解消しつつ、ゲームと連動した演出で会場をより盛り上げる工夫が凝らされていたことです。

まず、ステージが会場の最も低い位置につくられているため、観客席からは見下ろす形になります。これにより、どの席で観戦していても、選手の姿はモニターに隠ることがありません。グータッチやガッツポーズをする選手たちのリアクションを、生で観られるようになっていました。

そして、大会配信と同じ映像が流れるメインモニターのほかにも、マップやラウンドの取得数、選手の名前や写真、使用オペレーターや体力状況など、さまざまな情報が複数のモニターにわかりやすく映し出されています。大きなメインモニターとはいえオフライン会場で観るには小さく、見にくくなりがちなゲーム画面の情報も、ひと目で把握できました。

加えて、撃ち合いが始まると、体力を削られた選手の写真が赤く点滅し、キルを獲得した選手の背景には炎のエフェクトが現れるなど、戦況に合わせた演出で盛り上げます。映像のみならず、会場の照明もゲームに連動しており、準備フェーズやアクションフェーズの切り替わり、ディフューザーの設置、トリプルキルの発生時など、要所要所で会場の雰囲気をガラリと変えていました。

なかでも印象的だったのは、ディフューザー設置の演出。ディフューザーが設置されると会場は赤く照らされ、ゲーム内での警報音と相まって、ラウンド終盤の緊迫感が一気に増します。こうしたこだわりの演出の数々が、会場をよりヒートアップさせることに一役買っていたのは間違いないでしょう。

  • メインモニターの上には、マップとラウンドの取得数が見やすく表示される

  • 準備フェーズやアクションフェーズの切り替わりを、映像や照明で演出

  • ディフューザーが設置されると会場は赤く照らされ、一気に緊迫感が増す

  • 選手の前後にあるモニターが、演出とともに戦況をわかりやすく伝える

観客席の外にも豊富なコンテンツ。公式グッズストアも盛況

会場の「Place Bell」は普段、アイスホッケーの試合や音楽アーティストのライブなど、さまざまな催しに使われます。今回の「Six Invitational 2023」では、アリーナを部分的に使う座席パターンで設営されていました。

観客席はステージ正面のエリートエリアと、それ以外のオペレーターエリアの2種類に分かれており、エリア内は自由席。そのため、試合ごとに応援したいチーム側の席に座ることも可能です。エリートエリアのチケットは、いくつかの特典がついていて、オペレーターエリアのチケットよりも価格が高く設定されています。

観客席の外を取り囲む通路は、ぐるりと一周まわれるようになっており、さまざまなコンテンツが用意されていました。フォトスポットや新シーズンの試遊席など、いつ立ち寄っても楽しめるブースがあれば、タイミングによって出場選手たちがサイン会を行っているブースもあり、試合間の待ち時間もあっという間です。

公式グッズを販売するストアは、かなりの広さで展開されていましたが、試合前や試合間になると「Six Invitational 2023」の限定グッズを買い求めるファンで混み合っていました。グッズは特にアパレルの種類が豊富で、会場内を見渡してもアパレルグッズを身に着けているファンがとても多く、人気の高さがうかがえました。

  • 会場の案内図。ステージ正面がエリートエリア、青いエリアがオペレーターエリア

  • エリートエリアのチケットを持っている人が入場できる、ソファ席で観戦できるゾーン

  • フォトスポットにいたコスプレイヤーの方々。衣装もガジェットも驚くべきクオリティ

  • ゲリラ的にサイン会が開催されるブースがあり、出場選手と交流するチャンスも

  • 『R6S』の新シーズンをひと足先にプレイできる「Predator」のブース

  • 『R6S』シーンで功績を残すさまざまな人にスポットライトを当てた展示

  • 会場内の売店では軽食やドリンクを購入でき、観客席に持ち込むことも可能

  • 想像以上の規模で設けられていた公式グッズのストア

  • 試合前や試合間になると、たくさんのファンがグッズを買い求めて混雑していた

  • 豊富なデザインで展開される、Tシャツやフーディーなどのアパレルグッズ

  • 「Six Invitational 2023」のロゴが入ったキャップやキーホルダーなど小物も充実

  • ストアの奥では、チームユニフォームなども販売されていた

  • ストリートファッションブランド「DRKN」とのコラボアパレルも人気

両サイドの観客席から響く、迫力の応援合戦が続いた2日目

2日目の試合は、「G2 Esports」対「Astralis」からスタートし、これを「G2 Esports」が2-0で勝利。新シーズンYear8 Season1の発表を挟んだのち、先ほどの試合を勝ち抜いた「G2 Esports」と「Oxygen Esports」による、ロワーブラケットファイナルの試合が行われました。

この日は土曜日ということもあり、初日よりも観客席はさらに端まで埋まり、より熱気を増しています。それに加え、初日以上に観客席の両サイドに各チームのファンがしっかりと分かれていて、オレンジチーム側から「OXG! OXG!」と応援コールが始まれば、それに続くようにブルーチーム側からは「LET’S GO G2!」と聞こえてくる、迫力の応援合戦が繰り広げられていました。

観客席には、チームや国旗の大きなフラッグを掲げるファンも多く、サッカーなどでイメージするようなスポーツらしい応援スタイルです。日本のオフライン会場では、コロナ対策で声を出せない代わりに、手づくりの応援ボードなどに力を入れる方向に進化してきたことを考えると、応援スタイルにはかなりの違いがあります。

手の込んだ個性豊かな応援ボードも日本ではすっかりおなじみですが、こちらでは文字だけのシンプルな応援ボードがほとんどで、比べてみると日本の応援ボードはなかなか独特な文化といえるかもしれません。もちろん声出しの有無という大きな違いもありますが、観客席を眺めていると、地域によって応援のスタイルにも特色があることを実感します。

この試合では、「G2 Esports」が2-0でのストレート勝利を獲得。なかでも、2マップ目では「Oxygen Esports」に1ラウンドも渡さず完勝する強さを見せ、最終日のグランドファイナルへと駒を進めました。

  • ロワーブラケットファイナルを戦った「G2 Esports」と「Oxygen Esports」

  • 「Oxygen Esports」を応援するオレンジチーム側。端までファンで埋まっている

  • 「G2 Esports」を応援するブルーチーム側。スマホのライトを光らせてのアピールも

  • 「G2 Esports」のフラッグを掲げて応援するファン(この写真は初日のもの)

  • 「VAMOS G2」。応援ボードはこれくらいシンプル(この写真は最終日のもの)

「G2 Esports」が王座奪還、再び世界チャンピオンに輝く

「Six Invitational 2023」も、いよいよ最終日へ。グランドファイナルの試合が始まる前に、まずはYear8ロードマップのパネル発表が行われます。ここで、5月の「Six Major」はデンマーク・コペンハーゲン、11月の「Six Major」はアメリカ、そして来年2月の「Six Invitational 2024」はブラジルで開催されることなどが発表されました。

続いて、ステージ上では2022年シーズンを通したMVPの表彰が行われ、『R6S』界のレジェンドPenguが登場。Penguのスピーチによって会場のボルテージが一気に上がったところで、ついに「Six Invitational 2023」の頂点を決める、Bo5でのグランドファイナルがスタートします。

オーケストラによる演奏で迎えられ、入場したのはブラジルチームの「w7m esports」と、EUチームの「G2 Esports」。2022年のグローバルランキング1位という圧倒的な勢いを誇り、アッパーブラケットを勝ち進んだ「w7m esports」に対し、かつて優勝に輝いた「G2 Esports」がロワーブラケットから這い上がり、王座を奪還すべく挑みます。

試合は、互いに1マップずつ取り合う拮抗した展開から始まりましたが、実はこの日の観客席の雰囲気は、かなり「G2 Esports」の応援に寄っていました。もちろん会場に駆けつけている「w7m esports」のファンもたくさんいましたが、開催地による影響なのか、名門「G2 Esports」の人気の高さなのか、観客席を見渡すと「G2 Esports」を応援するファンの多さに驚きます。

会場の大声援を味方につけるようにして「G2 Esports」は3マップ目を獲得し、優勝へ王手をかけます。4マップ目は、食らいつく「w7m esports」がオーバータイムへと持ち込みますが、「G2 Esports」がこれを制して、マップスコア3-1で勝利。見事「Six Invitational 2023」のチャンピオンに輝き、優勝トロフィーのハンマーを掲げました。

  • Year8ロードマップのパネルでは、2023年の世界大会の開催地などが発表された

  • 2022年シーズンMVPに選ばれたレジェンドPenguがステージに登場

  • オーケストラによる演奏で迎えられ、グランドファイナルで戦う2チームが入場する

  • 優勝トロフィーのハンマーは、もう目前。両チームが試合前の円陣を組む

  • グランドファイナルを戦う「w7m esports」と「G2 Esports」

  • ブラジル国旗を掲げて声援を送っていた「w7m esports」のファン

  • 「G2 Esports」がマップスコア3-1で勝利し、「Six Invitational 2023」の優勝を手にした

  • 優勝に輝いた「G2 Esports」の選手たちとコーチが、1人ずつハンマーを掲げる

日本から「Six Major」に3枠。チャンス拡大、勝負の1年に

3日間を通して、現地の会場で「Six Invitational」の熱狂を目の当たりにする体験は、本当にすばらしいものでした。しかし、やはりどの場面を見ていても、「いつかここに立つ日本チームを見られたら……」と思わずにはいられませんでした。

そんななか、2023年のeスポーツシーンにおけるフォーマットの追加情報が発表され、日本からは世界大会の「Six Major」に3チームが出場できることが明らかになりました。これまで世界大会への道のりが遠く、世界での戦いを経験できるチームが少なかった日本にとって、一気にチャンスが拡大することになります。

とはいえ、「Six Invitational 2023」では、日本を含むAPAC地域のチームはすべてグループステージ敗退となるなど、厳しい現実もありました。日本チームとしては、このチャンスをものにして、しっかりと結果を残していかなければならないでしょう。近い将来、輝かしい世界大会のステージで、観客を前に活躍する日本チームの姿が見られることを期待しています。

  • 2023年の日本チームの「Major」への道。日本から3チームが出場できるようになる