クラウドファンディング(2022年8月実施)による先行発売を経て、2022年10月25日に一般発売したカドーのスティック型ヘアドライヤー「baton(バトン)」。その名のとおり、直径38.5mmの「バトン」型。これまでになかったスタイルのドライヤーだ。
今回は、baton開発秘話を代表取締役社長の古賀宣行氏と、取締役副社長/クリエイティブ・ディレクターの鈴木健氏に聞いた。
普通のカタチのドライヤーを作らなかった理由
古賀氏によると、batonの企画・開発が始まったのは2017年。発売まで5年以上を費やした。2011年設立のカドー史上においても、ロングプロジェクトとなった製品だ。
batonプロジェクト開始から1年後の2018年、韓国の財閥SKグループとの合弁会社として設立した「カドークオーラ」から、Pの字のような形のドライヤー「BD-E1」を発売した。
ドライヤーと言えば、風の吹き出し口(ノーズ)とハンドルからなるL字型の構造が一般的。今でこそ複数のメーカーがノーズレスドライヤーを展開しているが、当時販売していたメーカーは少なく、BD-E1の形状は画期的だった。
時をさかのぼると、カドークオーラからBD-E1を発売した時点で、バトン型ドライヤーの開発が進行していたことになる。古賀氏は、一般的なL字型ではないドライヤーを開発してきた経緯を次のように説明した。
「プロのヘアスタイリストさんによると、ほとんどの人は、ドライヤーを使った正しい髪の乾かし方ができていないといいます。『クセ毛』、『髪が多い』、あるいは『頭の形が悪い』ために、スタイリングがまとまらないと誤解しているそうです。でも、解決法は至ってシンプルで『後ろから乾かすこと』、たったこれだけ。
とはいえ、L字型のドライヤーを使って、自分の頭を後ろからブローするのは難しいですよね。そこで最初に打ち出したのがノーズレスでした。その後、もっと小型で軽くして、究極を目指したのが今回のバトンです」(古賀氏)
本体を軽くして持ち運びしやすいようにと考えたとき、すぐにたどり着いたのがスティック型。「どうせやるなら握りやすいサイズを」とのことで、思い浮かんだのが陸上競技用のバトンだった。
古賀氏とともにカドーの共同創業者で取締役副社長を務める、クリエイティブ・ディレクターの鈴木健氏は次のように明かした。
「batonは、設計のラフ段階から既にバトンの形でした。実際に陸上競技用の公式のバトンを購入してみたところ、『持ちやすいかもしれない』と満場一致。名前も含めて異論はありませんでした。直径38.5mmという数値は、実際のバトンから必然的にはじき出されたサイズです」(鈴木氏)
実際に陸上競技に使われているバトンの公認サイズを調べてみたところ、直径は39mm。「太すぎもせず細すぎもせず、おそらくちょうど握りやすいサイズなんだろうと。そこでなんとかして中に入っている部品を39mmに収めようと開発を進めました」と古賀氏。
バトンサイズのスティック型のドライヤーを実現した一番のポイントは「モーター」。一般的なドライヤーは、1分間に3,000~4,000回転するモーターを内蔵しているそう。一方、バトンでは1分間に10万回転する、超高速のデジタルモーターを採用した。
「2017年から企画開発を始め、なかなか実現できなかったのは、小型でパワーのあるモーターがなかったからです。そこでまずはモーターの開発を待ち、それができあがってきたところで、スティック状の本体を設計しました。ノーズをなくしたことで本体も小型化され、おの自ずと重さも軽くなりました」(古賀氏)
直径38.5mmというスリムな本体。その中に必要な部品を納めるのは容易でなかった。古賀氏によれば「工場からは40mmにしてくれとギブアップの声もあった」というが、「どうせやるならバトンサイズにしたい」とこだわり続けた。
2つのブレイクスルーでバトン型を実現
最終的にバトン型を可能にした要因として、2つのポイントを挙げた。
「1つ目は、ボディーの素材にアルミ合金を採用したことです。ヘアードライヤーの筐体はプラスチックで作るのが一般的ですが、その場合には2mm前後の肉厚が必要です。アルミ合金を使うことで肉厚が約1mmになり、その結果、外径を2mm小さくできました。
もう1つは、空気のロスを極限まで減らしたこと。本体が細くなればなるほど、中を通る空路も狭くなるため、風量の確保が難しくなります。性能を維持するため、空気のロスをいかにして減らしていくかを技術者と試行錯誤しながら最適化を図っていきました」(古賀氏)
スリムでコンパクトな本体の中に多くの部品を詰め込んだことで、今度は放熱性という物理的な課題が生じた。一般的にはLEDの照明器具などに多く使われているアルミ製のヒートシンクによって熱を逃がすそうだが、「このスリムな本体の中にヒートシンクを入れるスペースはありません」と古賀氏。そこで採用したのが「空冷方式」だ。
「ドライヤーで吸い込んだ風を利用して空冷しようと。熱でもっとも温まる部分にわざわざ風を通すようにした『空冷』のおかげで、部品をあまり増やすことなく解決しました」(古賀氏)
ほかにも、小型化を実現するためにスマホなどに使われているフィルム状の基板を採用するなど、「本体内部の風の流れをできるだけ阻害しないように工夫しました」と明かした。
ノーズレスに続き、スティック型というセンセーショナルなヘアドライヤーが生まれた背景には、問題解決に対する飽くなき挑戦の姿勢が貫かれている。そして、直径わずか38.5mmというスリムな本体の中には、技術的にも業界のブレイクスルーとなる要素が詰まっていた。