11月2日、富士フイルムは新カメラボディ「FUJIFILM X-T5(以下、X-T5)」を発表しました。メディア向けの発表会が3年ぶりに東京・六本木の本社で大々的に行われ、タッチアンドトライも実施。製品の詳細について知ることができました。

筆者は仕事・私用の両方でX-T4を愛用していることもあり、すでに買い替える気マンマンで臨んだ発表会取材。しかしX-T5の仕様について聞くうちに、かんたんには判断できないことがわかってきました。

  • FUJIFILM X-T5

    「X-T5」と「X-H2」、どっちを買えばいいんだ!

センサーと画像処理エンジンは同じ。価格も同じくらいなX-T5とX-H2

X-T5とX-H2の詳細な仕様については初出時のニュース記事(X-T5)(X-H2)に譲りますが、いくつか主な特徴を紹介しておきましょう。両製品ともに富士フイルムXマウント採用カメラボディとしては第5世代に位置づけられており、共通してセンサーに「X-Trans CMOS 5 HR」を搭載。画像処理エンジンは「X-Processor 5」を組み合わせている点も同じです。つまり乱暴な言い方をすると、同じ設定で同じ場面を撮影すると、ほぼ同じような写真を撮影できるというわけ。

  • X-T5の製品概要。今回、座席の都合でうまくスライド撮影が行えませんでした。申し訳ありません

しかも、メーカー想定売価はX-T5が253,000円前後、X-H2が260,000円前後とほぼ同じ(オープンプライスです)。こうなると、用途や撮影スタイルにあわせた仕様を製品が備えているか、より注意して点検する必要があります。そこで以下では、X-T5とX-H2を見比べつつ、「X-T5に買い替えるぞ!」と単純に決心できない悩ましい性能/仕様の差異について紹介しようと思います。

X-H2のファインダーは段違いに高精細

今回X-T5の発表会を見ていて最も驚いたのは、「約369万ドット/100fps」のEVFが採用された点です。X-H2では「約576万ドット/120fps」というさらに性能の高いEVFが採用されていたため、X-T5でも高精細な新EVFの採用を期待していました。実際に約576万ドットの新EVFを覗いてみるとかなり素晴らしかったこともあり、それだけに約369万ドットのEVF採用はかなりショック。

  • X-T4とX-T5のファインダーにおける仕様差。レスポンスや視度調整機構は改善しています

どうせX-T4から買い替えるならしっかりと性能向上を図りたいと考えているので、最もネックになったのがこのEVFの仕様。ファインダーの見え具合は撮影体験に直結してわかりやすく違いを体感できるところなので、個人的に約369万ドットのEVF搭載はX-T5の購入において大きく二の足を踏むポイントになっています。

  • X-T5のファインダーの様子。解像度は同じですが光学系は新設計で、ファインダー倍率は0.8倍、アイポイントは24mmへと性能が高められています

X-H2を買えばこのEVFにおける悩みは解消され、約576万ドット/120fpsの素晴らしい見え具合を堪能できることでしょう。しかし、「じゃあX-H2買うか!」と即断即決できない理由もあります。

X-Tシリーズの操作系が大好きなんだ

筆者はこれまでX-T1からX-Tシリーズのミラーレスカメラを愛用してきており、公私ともにとてもお世話になっています。軍艦部をぱっと見れば撮影設定を一瞬で把握でき、それぞれのダイヤルを回せば直感的な操作を行えます。X-T1の頃には浅すぎたグリップもX-T4ではだいぶ深く改善されており、クラシックな外観も気に入っていました。

  • なにげに便利なのが前面にあるフォーカスモードのダイヤルです。X-Hシリーズにはありません

しかし、もしEVFを重視してX-H2を購入すると、これまで慣れ親しんできた操作系から大きく離れる必要があります。X-H2はモードダイヤルシステムを採用しており、いわば他社製品と似たような一般的な仕様。軍艦部の右肩にサブ液晶を備えたほか、かなり大きく深いグリップの採用でがっしりした威容になっている点も見逃せません。

  • X-H2の軍艦部。モード選択がベースの設計で、他社カメラからの移行もスムーズに行なえます

一方、X-T5はコンセプトとして「Back to origin」を掲げて写真機への回帰を図っている点が特徴で、静止画撮影に重きをおいたモデルに仕上げられています。

特にこの特徴が現れているのが、ダイヤルで各撮影設定の変更を行える軍艦部デザインを継承している点と、軽量コンパクトである点です。X-T5にモードダイヤルはなく、グリップも今どきのカメラとしては浅め。そのかわりにボディは初代機「X-T1」に迫るほど小型化し、X-T4より50gも軽くなっています。

  • X-T5の軍艦部。モードダイヤルはなく、シャッタースピードやISO感度を直感的に設定できます

  • バリアングル液晶は廃止され、3方向チルトに回帰するという大英断。ロック機構もあります

とはいえ、X-H2への移行もできなくはないのかなとも思います。撮影設定は軍艦部のサブ液晶を見れば把握でき、露出とシャッター速度を右手側のダイヤルに割り当てれば気にならないのかも。さらに個人的な印象ですが、背面部のフォーカスレバー(ジョイスティックみたいな操作部のこと)はX-Tシリーズの細くて操作しづらいものより、X-Hシリーズの面で触れて操作しやすいスタイルのほうが好みです。

  • X-H2ではEVFのすぐ側にフォーカスレバーを搭載。面で操作するタイプで、自然なポジションなのも操作しやすそう

性能を取るか、慣れ親しんだスタイルを取るか

これまで「X-Tシリーズ」と「X-Proシリーズ」でダブルフラッグシップのラインナップ戦略を取ってきたのに、動画・静止画を2つのモデルでそれぞれカバーする「X-Hシリーズ」が新しくなって投入された2022年。今回の発表会でも「ダブルフラッグシップ」というワードは出てきていましたが、X-Tシリーズの存在感には若干陰りが見られたように感じます(というより、今は何と何でダブルを構成しているんでしょうか)。

X-T4ユーザーの筆者としては、これ以上撮影機材が重くなることは可能な限り避けたい一方、第5世代センサー・エンジンへの刷新はかなり魅力的。X-T5に買い替えてもEVFの解像度は据え置きですが、慣れ親しんだ操作性と高い機動力もしっかり受け継いでおり、最新センサーと最新画像処理エンジンによる撮影を楽しめるでしょう。

逆に、X-H2を購入すれば性能面で不満に思うことはなくなりそう。ただ操作感には1から慣れていく必要があり、さらにX-T5よりも約100gも重くなる点や、CFexpress Type Bの記録メディアを新しく購入しなければならない点にも留意が必要です。

どちらについて検討してもすぐには結論が出そうになく、「悩んでるうちが一番楽しい」とはいうものの、富士フイルムの現行ラインナップはX-T4を愛用する筆者にとって、とても悩ましいラインナップになってしまいました。

  • 発表会では新しく登場した「XF30mmF2.8 R LM WR Macro」の実機も見られました。レンズ先端から1.2cmまで寄れます

  • 超ドアップに撮れます(等倍マクロです)

  • 完全に余談ですが、X-T5の被写体認識AFのモード選択が「電車」と表記されているのが気になりました。筆者に電車を撮影する趣味はありませんが、「鉄道」のほうが無難だと思います(英語UIではTrainでした)