3年ぶりに幕張メッセで開催中の「CEATEC 2022」(会期:10月18日〜10月21日)。ソニーはEV(電気自動車)のプロトタイプ「VISION-S 02」を会場中央に設置し、環境負荷の低減や改善を目指す14の提案を展示しています。この中から特に注目した展示を紹介します。

  • ソニーグループの展示会場の様子

  • ソニーグループのブースで展示されていたものの一部。(左上から時計回りに)電気自動車のプロトタイプ「VISION-S 02」、220型のLEDパネルを使った「バーチャルプロダクション」、人工衛星を活用した「STAR SPHERE」の取り組みの一環となる、実験的なシミュレータ「Space Shooting Lab」。ブースの上にあるソニーロゴも、実は独自の紙素材を使って作られています

地球を知ることで、問題解決の糸口を見つける

14の提案は会場では大きく3つのグループに分けられ、「1.THE PLANET」で3つ、「2.SOCIETY」で5つ、「3.PEOPLE」で6つに分類されています。

  • ソニーブースは大きく3つのグループに分け、14の提案を行っています

第1グループのTHE PLANETは「もっと地球を知る」をテーマとしたまとまりです。宇宙から地球を観察し、地球がどんな姿なのか全体像を掴みながら浮かび上がる課題を見つめていきます。

たとえば、第1の提案「Climate Station(クリミート・ステーション)」は地球の気候変動をVRで理解しようという取り組みで、PlayStation Storeで2023年に配信する予定です。利用料金やヘッドマウントディスプレイを使うかどうかといった詳細は未定で、PlayStation以外のプラットフォームについては検討中となっています。

  • 「Climate Station」のデモ映像

  • 地球の気候変動をVRで理解するコンテンツになるとのこと

  • PlayStation Storeで2023年に配信予定

第3の提案「STAR SPHERE(スター・スフィア)」は、人工衛星にソニーの高性能カメラを搭載し、宇宙や地球の映像を誰でも撮影可能にする内容です。東京大学とJAXAと連携したサービスで、東京ミッドタウンで開催中の「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2022」(会期:10月14日~11月3日)でも出展して紹介しています。人工衛星は年内に打ち上げ、2023年にはサービスを開始したいとのことです。

  • STAR SPHEREでは、コントローラを使って撮影する時間とカメラの角度、動画と静止画のどちらで撮影するかなどを操作できます

  • STAR SPHEREで使用する人工衛星にはソニーのカメラを搭載

当たり前と思っていた社会システムを、より良いものへ

第2グループのSOCIETYは「社会のシステムを考え直す」がテーマになっています。いままで当たり前だと考えられてきたインフラ、エネルギー、農法などのシステムを見つめ直し、人々の生活に深く関わる新しい基盤を構築しようという内容です。

ここで目を引いたのが、冒頭でも触れたSUVタイプのEVプロトタイプ「VISION-S 02」。これも第2グループの展示です。車体には環境に配慮した素材を用い、フロアマットには後述する新しいカーボン素材「Triporous」を採用しています。40種類ものセンサーを搭載し、センシング技術を駆使して周囲の交通状況を把握。より安全で快適な運転を実現します。このプロトタイプは、1月にCESでも公開していましたが、今回は内装をブラッシュアップしています。

会場では運転席にも座れました。左ハンドルというだけで緊張する小市民な筆者には、目に入るすべてがハイテクすぎてまぶしかったです。

  • 運転席に座る筆者

  • 計器類はすべてディスプレイに集約。インテリアには環境に配慮した素材が使われているそうです

  • サイドミラーの位置には、ミラーの代わりにカメラとセンサーが付いています。フロントのバンパー上部やバックのナンバープレート下部にもカメラが備わっていて、運転席から少ない視線の移動で車体周辺を確認できるのです

220型のLEDパネルと業務用ビデオカメラを組み合わせ、映画やドラマなどの撮影で使う「バーチャルプロダクション」も興味深い提案でした。3,027×1,728ドットで映し出される映像の前で、俳優や小物などを撮影することによって、ロケハンはもとより、グリーンバックのCGよりも安価に背景の合成を可能にします。

一般的なロケハンは人やモノの移動が多く、撮影現場のトレーラーの中では発電機を稼働してCO2を排出します。バーチャルプロダクションのシステムであれば、CO2排出量を75~80%程度削減できるとソニーは試算しています。

  • 220型の巨大な画面の前に立つ女性をビデオカメラで撮影

  • 撮影した映像をテレビに映し出した様子。背景の映像は実写でもCGでもよく、光源やメイクにも注意すれば合成とはわからない自然な映像が比較的簡単に作れそうです

  • グラスなどへの光の映り込みも自然

賛同することが環境負荷の低減につながる

第3グループのPEOPLEは「一人ひとりが行動する」がテーマ。人々が毎日選び、使う製品の原料や素材に着目し、環境負荷の低減を提案しています。

たとえば近年、社会問題として認知が進んでいる、マイクロプラスチックによる海洋汚染対策のひとつとなる「紙発泡材」。これは回収古紙などの紙材料を粉砕して作った発泡材です。段ボールと組み合わせることで、発泡スチロールの代替品として十分な性能を持つ緩衝材となっています。折り曲げたり、切り出したり、薄くしたりといった加工も容易です。

  • 回収古紙などの紙材料を粉砕して作った「紙発泡材」

  • 紙でできているので、折ったり切ったりして、形を整えやすいのもメリット

また、実は会場で使われている什器や看板、カーテンなどはすべてこの紙発泡材が使われているとのことで、その汎用性の高さに驚きました。

  • よく見るとブースのソニーロゴも紙発泡材で作られています

紙だけでなく、プラスチックも廃材を活用しています。ソニーの開発した難燃性再生プラスチック「SORPLAS(ソープラス)」は、不要になった光ディスクやウォーターサーバーボトルといった物をリサイクルして作った素材。ソニーの4K有機ELテレビの背面カバーや、スーツケース、ACアダプターなどに利用されているといいます。

  • BRAVIA XR A95K/A80K/A90Kシリーズでは、SORPLASを面積の大きい背面カバーに使用

  • SORPLASは、不要になった光ディスクやウォーターサーバーボトルなどをリサイクルして作られています

消臭・抗菌効果を持つもみ殻に着目して、天然由来の多孔質カーボン素材にした「Triporous(トリポーラス)」も興味深い技術です。家畜の飼料か産業廃棄物になるばかりのもみ殻が、アパレルやインテリア、化粧品や薬剤など、さまざまな分野に用いられるカーボン素材に生まれ変わっているのです。

会場ではソニーのスタッフが着ているウェアに、まさにこのTriporousを用いており、汗やニオイを抑えて清潔感のある状態が保てているとのこと。国際宇宙ステーションで使われるインナーウェアやタオルの素材としても注目されているそうです。

  • ソニーブースのスタッフが着用するTriporousのウェア

このほかにも、ソニーブースでは、地球上で発生する河川洪水や土砂崩れなどの災害を予測する観測プラットフォームや、耕さず肥料や農薬を使わずに生態系を良くする協生農法「Synecoculture(シネコカルチャー)」、音質を保ちながら燃えにくい性質と安定した色調を持つ「高音質再生プラスチック」など、興味深い展示が並んでいました。持続可能な社会を目指すソニーの数々の取り組みが見られる、有意義なブースでした。

  • 協生農法「Synecoculture(シネコカルチャー)」の展示

  • サウンドバーやポータブルスピーカーの一部パーツに使われている「高音質再生プラスチック」