G-SHOCKのニューアイテム「Street Sprit Series」が発表された。ストリートカルチャーを代表するモチーフのひとつ「グラフィティ」を全身にまとった全5モデルだ。カシオの開発セクションで20代の若手社員が企画を担当した点でも注目のアイテムといえるだろう。
今回はその担当者を直撃。「G-SHOCK新世代」を感じさせるコンセプト、インパクトあふれるビジュアル、こだわりが凝縮されたディテールについて聞く。お話を伺ったのは、カシオ計算機 企画部の加藤武流氏だ。
「グラフィティの進化」と「G-SHOCKの進化」を融合
―― Street Sprit Seriesは、グラフィティをキービジュアルとして、5つのモデルをまたいで展開していますね。
加藤氏:はい。以前私が手がけた「City Camouflage Series(シティ・カモフラージュ・シリーズ)」(現在は生産終了)などもそうですが、今回もバラエティに富んだモデルをラインナップしました。実は、これらはG-SHOCKの進化を象徴するモデルであると同時に、描かれているグラフィティのスタイルは、ベースモデルの登場順に対応しているからです。
―― つまり、Street Sprit Seriesの5モデルをベースモデルの登場順に並べると、グラフィティの進化順にもなる、と?
加藤氏:その通りです。
■グラフィティとは
DJ、MC(ラップ)、ブレイクダンスとともに、ヒップホップの4大要素を構成するストリート発祥のカウンターカルチャー。缶スプレーやマーカーなどで建物の壁や鉄道車両などに文字や絵を描く「落書き」として1960年代から広まった。技術の進化とともにポップアートシーンに影響を与え、1980年代にヒップホップと融合することでストリート発のアートとして広く認知されるようになった。このタイミングはG-SHOCKのブレイクと符合する。
加藤氏:では、ベースモデルの登場順に見ていきましょうか。まずはオリジンの「DW-5000SS」。このモデルはグラフィティが誕生した初期のスタイルのデザインをあしらっています。
加藤氏:これはカタログなどには載っていないのですが、バンド部分をよく見ると「321 SC」という文字が型押しで入っています。これはグラフィティの黎明期に見られた「タギング」と呼ばれる表現のオマージュです。
タギングとは、自分の名前やチーム名、住所などを、いわゆるタグとしていろいろな場所に書き込んだもの。現在のグラフィティの源流といえる表現なので、G-SHOCKの源流であるDW-5000をベースとしたこのモデルだけに入れました。
―― その「321 SC」とはどんな意味なのですか?
加藤氏:G-SHOCK誕生の地、カシオ羽村技術センターの住所である「東京都羽村市栄町3-2-1」です。これに気付いた人は、相当なG-SHOCKマニアですね(笑)。
さらに進化したグラフィティの金属感や光も表現!
加藤氏:そして、ビッグケースモデルがベースの「GA-110SS-1AJR」「GX-56SS-1JR」。どちらも、ベースモデルがグローバル市場で大ヒットしたモデルです。
これらのグラフィティは使われる色の数も増え、他印やグラデーションを組み合わせるなど技法的に進化したもの。GA-110SSでは、ケースとバンドの樹脂に混色成形を利用してコンクリートの壁を表現、その上にグラフィティを印刷することで、ストリートアートの雰囲気を再現しています。また、GX-56SSでは凹凸の多いケース形状に合わせてグラフィックを印刷しています。
―― そして、人気のメタルカバードモデルがベースの「GM-5600SS-1JR」と「GM-2100SS-1AJR」。ケースはもちろん、バンドにも金属感のあるグラフィティが描かれていますね。
加藤氏:これらのモデルは、グラフィティの進化の中でも平面から立体を感じさせる表現や金属の輝度感を醸し出す表現、塗料のしぶきや滴(したた)る動きなど、塗料自体の特性を生かした表現を意識しています。
そこで、時計の金属ケースにIPを2色がけしたり、シルバー蒸着の輝きを生かすために専用のインクを調合したりすることで、インクで蒸着を消し込むことなくキラッとしたグラフィティを描くなどしています。これは金属の質感や輝度感を表現するため、メタリックの下地を作った上にグラフィティの印刷をしています。いろいろな表現をするために、技術をどう組み合わせていくかもG-SHOCKが持つ魅力のひとつかと思います。
―― バンドも樹脂製ながら、金属的な質感のグラフィティになっていますね。
加藤氏:輝度のある塗装を施し、その上にグラフィティを印刷しています。
加藤氏:実は、このスケルトン樹脂も進化の系譜をなぞっています。最初に紹介したDW-5000SS-1JRのバンドもスケルトン樹脂ですが、GM-2100SSのバンドは集光素材になっていて、バンドの成形上のエッジ部分に光が集まって、ちょっと光って見えるんですよ。
G-SHOCKが培ってきた表現や製造技術の集大成
―― こうして1本1本見ていくと、こだわりと見どころがよくわかります。各モデルとも凹凸が多いうえ、ケースから見切りへデザインが(パーツをまたいで)つながるなど、印刷時の位置合わせも難しそうです。
加藤氏:今までのG-SHOCKが培ってきた表現や製造技術の集大成といっていいと思います。今回このシリーズを実現できたのも、一緒にプロジェクトを進めてきたデザイン、設計、品質保証など各チームのメンバー、そしてストリートカルチャーに精通したデザインメンバーも含めた「G-SHOCKが歩んできた歴史」あってこそだと思います。
―― 「Street Sprit Series」は、表現や製造技術的な意味でもG-SHOCKの歴史とグラフィティの歴史が融合したシリーズなんですね。ところで、そもそもグラフィティをテーマに選んだのはどんな理由からなのでしょうか?
加藤氏:私が初めてG-SHOCKと出会ったのは中学生のときでしたが、もうそのときからすでに「G-SHOCK=ストリートカルチャー」のイメージがありました。実際に、世界中のストリートシーンでG-SHOCKのタフネスとファッション性が多くのパフォーマーやアスリート、アーティストに支持されてきました。ほかの時計と大きく異なる「G-SHOCKならでは」の特徴ですよね。
加藤氏:そこで、このストリートカルチャーとG-SHOCKの関係をあらためて意識できるモデルを作りたいと思いました。私自身にヒップホップカルチャーの影響が大きいことも関係していると思います。
―― ちなみに、Street Sprit Seriesの企画を始めたとき、社内での反応はいかがでしたか?
加藤氏:デザイン段階では、いくらG-SHOCKとはいえ時計として派手過ぎるのでは? といった意見もありました。しかし、ダミーの試作機を披露すると、その場で「おぉっ!」と声が上がりました。このときは「やったな!」と思いましたね(笑)。
―― G-SHOCKも2023年でちょうど40周年。これからは、生まれたときからG-SHOCKがあって、ご自身も慣れ親しんで育った世代、つまり加藤さんをはじめ新世代の開発メンバーが新しいG-SHOCKを作って行くのですね。Street Sprit Seriesは、その期待を十分に感じさせるシリーズになっていると思います。
加藤氏:ありがとうございます。G-SHOCKの価値とは何なのか、守るべきもの、変わっていくべきものは何なのかを常に考えながら、ファンの皆さまに新しいG-SHOCKをお見せできるようがんばります!