ニューノーマル時代において、いまや日常の必需品となったマスク。そんなマスクにEMSを搭載し、つけるだけで顔周りを刺激できるアイテムが「ルルドスタイル EMSマスク」(以下、EMSマスク)だ。
※EMS(Electrical Muscle Stimulation):電気刺激を与えて筋肉を動かす機能。この機能を筋トレやダイエット目的で活用した、エクササイズ用機器の総称としても使われる。
「ルルド シェイプアップリボン」(2017年3月発売)を皮切りに、アテックスは「ルルドスタイル EMSシート」(2020年4月発売)など多数のEMS製品を展開してきた。今回はEMSマスクにプロダクトデザインの視点から注目。開発エピソードも交え、企画・開発の中心メンバーに語ってもらった。
「気軽に使えるウェアラブル製品」が出発点
開発を担当した、アテックス 商品開発本部 商品開発第2部・新子翔也氏によると、「ルルドスタイル EMSマスク」誕生のきっかけは、営業担当者から伝え聞いた消費者からの要望だった。
「コロナ禍でマスク生活が日常になり、取引先のお客様から、頬のたるみが気になるという声があったそうです。弊社は多数のEMS製品を発売していますので、『顔に有効なアイテムができないか?』と持ち掛けられたことが発端になりました」(新子氏)
アテックスではこれ以前にも、「ルルド フェイスメイクエステ」(2019年10月発売)というEMS美顔器を発売している。しかし、今回は「気軽に使えてウェアラブルなアイテム」をテーマに企画し、マスク型が採用された。
ウェアラブルなEMS美顔器は他メーカーからもいくつか発売されているが、目元や頭まで覆うフルフェイス型が主流だ。
対してアテックスは、口元だけを覆う一般的なマスクの形をとった。アテックス 企画マーケティング部の吉川安紀氏は「EMSマスクを付けたままふだんの生活ができる。見た目もつけ心地も、通常のマスクと変わらないことがコンセプト」とその理由を語った。
マスクタイプのウェアラブルなEMS製品を開発するにあたり、大阪体育大学大学院・スポーツ科学研究科の石川昌紀教授に相談。その結果、耳の後ろと頬にある神経に電極を流すと、顔全体にもっとも効果的に作用するというデータが示されたそうだ。
EMSマスクには、電極が4カ所設けられている。この配置について新子氏は、「最初はあごに近いところに電極を装備してみたものの、痛みが強すぎたため、頬と耳の後ろに電極を搭載しました」と説明した。
アテックスのEMS製品には、水やジェルなどを使い水分を与えることで通電させる仕組みのものもある。だが、前述の通り、EMSマスクはふだんのマスクと同じような感覚で身に着けて使えることを重視した製品のため、「着けるだけ」という手軽さにこだわった。加えて、「衛生面からも、水を使うのはやめました」(新子氏)と話す。
ホットアイマスクの機能にEMSをプラスした「ルルド おやすみめめホット&EMS」(2020年10月発売)で用いた銅の通電繊維で試作もしてみたところ、「(おやすみめめホット&EMSと)同じ構造でマスク型のサンプルを作ったのですが、肌に水をつけないと導電率が低かったため見送った」(新子氏)と振り返る。
最終的に採用された金属の電極端子は、ストレッチ用ボール全体にEMS機能を備える「ルルドスタイル EMSボール」(2021年4月発売)がヒントになった。
「EMSボールの開発当時、電極部を金属メッキにすると、水がなくても高い導電率が得られることを発見しました。これをヒントに、EMSマスクでも金属の電極端子を採用しました」(新子氏)
しかし、EMSの強度調整が難しく、吉川氏は「試作品が完成してから何パターンも実際に試して検証しました。EMSは筋肉を刺激するものなので、試しすぎて1日中、頬が筋肉痛になっていたこともあったほどです。まさに身体を張りながら調整しました(笑)」と明かした。
「機能性」と「自然な見た目」の両立に苦心
ふだん使いできるマスクとして、見た目のデザイン面にも注力。それゆえに設計、製造上のハードルが高くなり、最も試行錯誤を繰り返した工程となった。
「マスク型のEMSということで、最初は形やデザインに関して安易に考えていたんです。ところが、2カ所を狙うと効果的とのデータが示されたことで、電極を後頭部まで回すことになりました。一般的なマスクのデザインを維持しつつ、電極が正しい位置にくる形になるまで型紙を作り直しました」(吉川氏)
EMSマスクは2枚の布を縫い合わせて、中に電極を挟み込んでいる。しかし、初期段階では構造が大きく異なっていたそうだ。
「最初に作成したサンプルでは、生産効率のよい熱圧着で立体成型しました。ですが、つけると鼻筋に沿って熱圧着の『のりしろ』が飛び出して、まるで鳥のくちばしのようになってしまって……(笑)、着けるのが恥ずかしい見た目でした。そこで、熱圧着より効率は下がりますが、フェイスラインに沿うように糸で縫い合わせ、立体成型する方式になりました」(吉川氏)
人によって顔の大きさや形状は千差万別。ある程度の汎用性を持たせながらも、さまざまな人にフィットするように形状を定めるのは至難の業で、最終的にはM・Lの2サイズ展開とした。
「当初は1つのサイズで、誰にでもフィットする形を模索していました。試作品を作っては何人もの女性社員に試着してもらい、比較検討を続けました。しかし、ある人にはフィットしても、他の人には合わないことが多々ありました。基準とする大きさをどうするのか議論を重ね、フィット感を高めるためには必要だということで、M・Lサイズの2サイズ展開となりました」(吉川氏)
EMSマスクは一般的な耳かけのマスクとは異なり、頭の後ろのベルトを面ファスナーで留めて使う。これは、あらゆる人の顔にフィットさせるためにとられた方法だったが、前例がなく苦労したという。
「面ファスナーで留める方式のマスクが市場になく、すべて一から検討しなければなりませんでした。留めたときに鼻の下や横にずれてしまうとか、(面ファスナーを)付ける場所ひとつとっても、どこにするのかを決めるのが難しかったです」(新子氏)
EMS製品と言っても、使用する部位や目的によってアプローチの仕方はさまざま。加えてEMSマスクの開発には、「ふつうのマスクと同じように使える」という大切な機能性が加わっている。「ふだんと同じ」にこだわったがゆえの苦労とチャレンジ、その積み重ねの数々が明らかになった。