FTXは、トレーダーがトレーダーのために構築した、主にデリバティブ取引(金融派生商品)を提供する仮想通貨取引所である。2019年4月にカリブ海のアンティグア・バーブーダで設立され、現在は本社をバハマに置く仮想通貨取引所だ。

一般的な仮想通貨取引所が現物取引やレバレッジ取引を提供していた中で、FTXは業界初となるデリバティブ、オプション、レバレッジトークンなど仮想通貨による金融派生商品を提供し、設立からわずか2年で世界最大規模の取引所であるバイナンス(Binance)やコインベース(Coinbase)と肩を並べる規模にまで成長している。

FTXは2022年1月31日、シリーズCとなる4億ドルの資金調達が完了したと発表した。主な投資家は、テマセクやパラダイム、ライトスピード・ベンチャー・パートナーズ、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2(SVF2)、カナダのオンタリオ州教職員年金基金だった。

半年で3回の資金調達を実施したFTXは、最新のシリーズCの資金調達ラウンドで、企業価値が320億ドルと評価された。

2021年10月のシリーズB-1ラウンド時では、評価額は250億ドルであり、そこから大幅な成長を遂げている。同社のユーザーベースは60%増加し、1日の平均取引量は40%増えた。1日あたりの取引量は約140億ドルに達したという。

FTX設立の経緯とサム・バンクマン=フリードCEO

CEOサムのイラスト

トレーダーによるトレーダーのための仮想通貨デリバティブ取引所であるFTXは、ウォール・ストリート出身のサム・バンクマン=フリード氏と、グーグルでソフトウェアエンジニアを務めた経歴を持つゲイリー・ワン氏によって2019年に創業された。

FTXのCEOであるサム・バンクマン=フリード氏は、FTXの成功などにより、29歳にして115億ドルの資産を保有し、近代において誰よりも早く富を蓄積しビリオネアとなった人物だ。そのスピードは、マーク・ザッカーバーグ氏をもしのぐという。

サム・バンクマン=フリード氏は、マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業したあと、定量取引会社ジェーン・ストリート・キャピタルでETF(上場投資信託)の取引業務を行っていた。

彼は、その頃から何をすれば自分が世界に与えられるインパクトを大きくできるかを常に考えていたという。そのうちの一つがチャリティであり、仮想通貨だった。

17年頃、サム・バンクマン=フリード氏が仮想通貨でアービトラージをしようとした時、取引システムの欠陥が目についた。自分であれば専門知識を生かしてシステムをより良いものにできると思い、仮想通貨の定量取引や流動性提供を行う企業Alameda Research(アラメダ・リサーチ)を創業した。

その後、19年に設立されたデリバティブ取引所のFTXは、Alameda Researchの出身者が中心となって開発してきた。サム・バンクマン=フリード氏は、FTXを別会社にした方がビジネスをスケールしやすいと考えた。FTXの設立当初は、流動性をAlameda Researchに依存していたが、現在ではそのような状態は解消されたという。

豊富な取引を提供するFTX

デリバティブ取引

FTXは仮想通貨デリバティブ取引所ではあるが、もちろん現物取引やレバレッジ取引も可能だ。現物取引では、ビットコインをはじめ主要な仮想通貨10銘柄を取り扱っている。

レバレッジ取引においては、当初は最大レバレッジ倍率は100倍であったが、世界的な規制強化の波に従い、2021年7月より最大レバレッジ倍率を20倍に引き下げた。ちなみに日本国内におけるレバレッジ取引は、最大2倍に制限されている。

先物取引では、対象銘柄となる仮想通貨BTCやETH、XRPほか、USDTなどのステーブルコインを含む多くの仮想通貨先物取引が行える。

FTXのレバレッジトークン

FTXにはレバレッジトークンと呼ばれる特殊なトークンがある。レバレッジトークンは、トークンそのものにレバレッジをかけたイーサリアムの共通規格であるERC-20に準拠したトークンだ。レバレッジトークンを使用することで、証拠金不要で実質的にレバレッジ取引を行うことが可能になる。

レバレッジトークンには、元からレバレッジ倍率の再調整機能が備わっているのだ。具体的にはレバレッジ10倍のロングポジション、レバレッジ10倍のショートポジション、レバレッジ3倍のロングポジション、レバレッジ3倍のショートポジション、レバレッジ1倍のショートポジションという、異なった特徴を持つ5種類のトークンが用意されている。

こうしたレバレッジトークンが、各種仮想通貨に用意されており、レバレッジトークンを使用してレバレッジ取引を行う限り、大きな損失が発生した際の強制ロスカットを受けることがなくなる。ただし、レバレッジトークンでは大きな利益を得られることもあるが、損失も大きくなる可能性があるということも理解しておきたい。

FTX独自トークンのFTT

また、FTXは独自トークンであるFTTを発行している。FTTはガバナンストークンとしても機能するFTXエコシステムを支える取引所トークンであり、長期保有することでステーキングが可能になっている。FTTによるステーキングでは、報酬を受け取ったりFTXにおける手数料の割引など様々な特典を受けることが可能だ。

仮想通貨取引所の最大手であるバイナンスは2019年12月、企業間の戦略的パートナーシップの一環としてFTXに対して金額非公開の投資を行っており、FTTを購入しバイナンスの取扱銘柄としてFTTを上場している。それ以来、FTTは仮想通貨としての人気も高まっている。

仮想通貨インデックス先物

FTXはまた、仮想通貨BTM、IOST、NEO、NULS、ONT、QTUM、TRX、VET、ARPAを対象としたインデックス先物のDragon Perpetual Futures Index(DRGN-PERP)や、DEX「SushiSwap(UniSwapのフォーク版)」のガバナンストークンSUSHIの無期限先物、複数のDeFi関連銘柄を一定の比重でインデックス化して組成したUNISWAP-PERPという独自のインデックス先物取引を考案するなどしている。

数ある仮想通貨の中から時価総額が3位~10位に入っているアルトコインの平均的なパフォーマンス指数を使ったALT-PERPや、時価総額の11位~30位の中間層に位置する仮想通貨の平均的なパフォーマンス指数を使ったMID-PERPなどインデックス先物取引の種類は豊富だ。

株式トークン

また、テスラやアップル、アマゾンなどに代表されるアメリカの優良企業の株式と連動する株式トークンの取引も提供している。株式トークンは、トークンの性質を利用して1株未満で購入することができたり、証券取引所とは無関係に24時間365日取引が可能であるなどの特徴を持っている。

仮想通貨をベースとする、こうしたさまざまな金融派生商品の開発と提供を得意としているのがFTXの大きな特徴だ。

FTXと規制

FTXはアンティグア・バーブーダに本社を、中国・香港にメインオフィスを置いていたが、2021年9月に中国政府が仮想通貨関連の取引を全面的に禁止にしたことから、現在は拠点をバハマに移している。バハマを選択した理由は、バハマは仮想通貨に対して包括的な規制枠組みをしっかりと持っているためだとFTXは答えており、そのような国は世界中を探してもバハマ以外にはほとんどないという。

また、アメリカにおいてFTXは、独立した法人としてFTX.USを立ち上げている。さらにアメリカの法的規制を回避するために、2021年8月にすでにデリバティブ取引の認可済みの仮想通貨デリバティブ会社LedgerXを買収し、傘下に収めている。

FTXのCEOサム・バンクマン=フリード氏は、こうした世界各国の仮想通貨やデリバティブ取引に対する法的規制を回避するために、今後も無駄な争いは避け、現地企業の買収によって海外への拡大を続けていくことを宣言している。シリーズCにて調達した4億ドルの資金は、こうしたM&Aに使われることになるという。

FTXと日本 取引所QUOINEを買収

FTXが日本の取引所を買収

FTXは、以前から一部の国の居住者に対してサービスを提供しない方針を発表していたが、日本からは口座を開設することができた。しかし、2021年9月にFTXの利用制限対象国に日本も追加され、日本のIPアドレスからの口座開設は突如として規制され、新規登録ができなくなった。

これは、日本の金融庁が、無登録で仮想通貨交換業を行う者に対して警告書の発出を行い、その時点で資金決済法の規定に違反したものとして、無登録で仮想通貨交換業を行う者の名称などについて発表を行うようになったためと見られている。

特に2021年5月〜6月になってバイナンスやバイビット(Bybit)ら大手仮想通貨取引所がその対象となり、無登録で仮想通貨交換業を行う者として名称が発表されたことが大きかったようだ。FTXも、それ以降は日本の市場を諦めたかに見えた。

しかし、2021年11月16日、FTXはアメリカのメジャーリーグのロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平投手と長期的なパートナーシップ契約を結び、今後は大谷選手をグローバル・アンバサダーとして、FTXブランドや仮想通貨の認知度を高めていくことを発表したことで雰囲気が一変した。

加えて2022年2月2日には、FTXは日本向けに商品・サービスを提供するために、金融庁登録の仮想通貨取引所を買収することを発表した。FTXは日本の仮想通貨取引所Liquid by Quoineを運営するQUOINE株式会社の親会社であるLiquid Groupを買収している。買収は、慣習的なクロージング条件が満たされることを前提に、2022年3月に完了する予定だという。

QUOINEは2021年10月に金融庁から第一種金融商品取引業の登録も受けており、デリバティブ取引も可能な企業だ。

FTXによるLiquidの買収後、QUOINEはFTXの商品及びサービスを徐々に自社のサービスに統合していく予定であり、従来のFTXの日本の顧客はQUOINEのプラットフォームに移行することになるという。

2022年2月10日、仮想通貨取引所Liquid by Quoineは日本初となるFTXの取引所トークンFTTとソラナのネイティブトークンSOLの取り扱いを開始した。

FTXとDEX「Serum」 なぜDEXを開始したのか

FTXとAlameda Reserchは2020年、共同設立したSerum Foundationを通じて分散型取引所(DEX)のSerumをローンチした。ブロックチェーン ソラナ(Solana)を基盤としたSerumは、ユーザーが望む高速取引と安い手数料による信頼性の高いクロスチェーン取引を目指して開発されたDEXである。

SerumはDEXで人気を博しているAMM型ではなく、セントラル・リミット・オーダーブック(CLOB)型を採用している。ビットコイン(BTC)、イーサ(ETH)、Serum(SRM)、MegaSerum(MSRM)と、それぞれテザー(USDT)およびUSD Coin(USDC)との取引ペアが用意されている。

発行上限が100億枚に設定されているSerumのネイティブトークンSRMは、Serumにおける取引手数料や手数料割引などに利用されるトークンだ。SRMは100万SRMをロックすることで、より希少性の高いMSRMを入手することができる。1000枚に発行上限が決められているMSRMは、所有することでSerumの取引手数料が60%オフになるという特典などがある。

FTXのCEOサム・バンクマン=フリード氏は、Serumの基盤ブロックチェーンとしてソラナを選んだ理由について、ソラナが産業規模での利用に対応できるであろう唯一のブロックチェーンであるという考えを示している。

ちなみにイーサリアムが1秒間に15件程度のトランザクション処理能力であるのに対して、ソラナはオンチェーンで1秒間に5万件程度のトランザクションを処理することができるという。

サム・バンクマン=フリード氏は、FTXにDeFiトークンを上場する以上にDeFiに関わる手段として、Serumの立ち上げに関わっている。DEXのSerumを中央集権型のFTXが所有すると分散型の良さが薄れ、また、Alameda ReserchとFTXを分離したのと同じように、Serumが拡大していくには別組織・新プロダクトとしてスタートした方が良いという考えからSerum Foundationを通じたローンチに至っている。

FTX、大衆への認知向上とDeFiへの事業拡大

FTXが急速に拡大した一つの要因は、まだ誰もやっていなかったデリバティブ取引に積極的に取り組んできたことにある。そうした取り組みは、今やFTX以外の仮想通貨取引所にも飛び火し、仮想通貨は現物取引やレバレッジ取引のみならず、新たな金融派生商品を生み出すことができる次の段階へと進むことができたのではないだろうか。

それにより、また新たな法的規制の必要性も見え始め、仮想通貨取引所がグローバルに展開する難しさがFTXの台頭であらわにもなった。グローバルな仮想通貨取引所が今後もグローバルな環境で生き残るには、各国の法規制を遵守していかなければならないのは必然であり、これからはより重要なポイントとなりそうだ。

成長を続けているFTXは、アメリカの2つのスポーツの命名権を購入した。一つはプロバスケットボールリーグNBAのチーム「Miami Heat」のホームスタジアムの命名権だ。ホームスタジアムの名称が「FTX Arena(FTXアリーナ)」になる。また人気のeスポーツチーム「TSM」の命名権も購入し、チームは「TSM FTX」となった。

さらにプロアメリカンフットボールリーグNFL2022年の優勝決定戦「第56回スーパーボウル」のCM枠を購入し、露出を拡大している。

こうしたブランド戦略により、一般大衆へのFTXの認知は上がっていくだろう。また、FTXは傘下の20億ドルのベンチャーファンド「FTX Ventures」を通じてブロックチェーンゲームのスタートアップを中心に投資したり、NFTマーケットプレイスを開始したり、デリバティブ取引所以外でも仮想通貨業界での存在を拡大していっている。

FTXはDeFiを万人のユーザーにスケールするという野心を持っており、Serumはその一環だった。今後も積極的にDeFiに関わっていくだろう。

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