SNSのタイムラインに「うおおおお、やっと脱稿できたー! 間に合ったああああ」投稿が流れる7月末。「そのとき、私の薄い本は、1バイトも、できていなかった。(CV.田口トモロヲ)」

そんな状況の私の目の前に、“いつでもどこでも薄い本が作れて夏コミに間に合わせる”にぴったりの“薄いクリエイターノートPC”が現れた。「それが、ASUSの、ProArt PX13、だった。(CV.田口トモロヲ)」

  • ASUSのクリエイターノートPC「ProArt PX13(HN7306WI)」は絶体絶命な私を救えるのか

  • ボディカラーは漆黒と表現したしっとりとしたナノブラック。これは防除加工とアルマイト処理によるナノマイクロポーラス構造で反射を最小限に抑えたためという

  • ロゴも新しいデザインに

「しょしょしょしょしょうがないなあ。そのレビューのためにもう一冊作ってみますよ」と御託を抜かしつつ、やってきたASUSのクリエイターノートPC「ProArt PX13」に一縷の望みをかけることになったのであった。

クリエイターノート“らしからぬ”コンパクトボディ

クリエイターノートPCといったら、16型~17型クラスのでかいディスプレイを載せていると相場が決まっているが(?)、ProArt PX13はその名の通り13.3型と小ぶりなディスプレイを載せていた。

そのおかげでサイズは幅298.2×209.9×15.8~17.7㎜とコンパクトに収まっている。これなら珈琲カップはもとより、カフェでの長時間の滞在を許してくれる免罪符たるフード皿との共存も可能だった。助かる~。

加えて、重さは1.38kgと軽量で、筆者が常用しているThinkPad T14sとほぼ同じ。携帯性能という意味では「ごくごく普通の日常使いのノート」と同様だったのはかなりありがたかった。

  • ProArt PX13はディスプレイが360度開くフリップタイプの2-in-1 PCでもある。なので、用途に合わせた変形も可能。こちらはメディアプレイヤーとして便利なスタンドモード

  • テントモードは省スペースで書類を広げながら、もしくは、食事をしながら使うのに重宝する

  • 本体の重さが1.38kgなのでタブレットモードも非現実ではないかと

日常使いの安心感、という意味では本体の堅牢性も重要だ。ProArt PX13はMIL-STD-810Hに準拠したテストをクリアする堅牢性を有する。また、天版をはじめとしたボディ塗装に防除性を持たせて指紋が付き似にくくしている。本体カラーは「ナノブラック」と名付けたマットでしっとりした風合いなので、経験的に「素手で触れると思いっきり指紋が付きそう」と思いがちだが、実際に使っていると指紋が付着することはほとんどなかった。

キーボードは軽い力でタイプができる。かなり軽い。しかし、軽めのキーボードにありがちな華奢な不安感はない。あくまでもしっかりと押し下げられる。ぐらつきもない。

なので、ProArt PX13のキーボードでは長文の作文が何らストレスを感じることなく続けられる。このレビューの文章は全てProArt PX13で書いているし、普段使いのThinkPad T14sに代わって普段持ち歩くマシンにいきなり昇格してしまっていたりする。それぐらい、ProArt PX13のキーボードは“しっかり”している。

  • 意外なほどに快適だったキーボード。キーピッチは実測で19.5mm(キートップサイズは16mm)

  • キーボードバックライトは輝度を3段階で変更可能(無灯を入れれば4段階)

  • タッチバッドにはASUS Dialとして機能するエリアを設けている。Adobe製品を始めメジャーアプリはプリセットが用意されているのですぐに使い始められるが、必要な機能は人によって違うのもまた現実

  • キートップにはわずかな凹部を設けてタイプする指を受け止める。タイプの感触は軽いが静か

あ、ただ1つだけ。BackSpaceキーを叩くつもりがその左に隣接している(というか、1つの孔を共有している分割キートップの片割れ)「バックスラッシュ」キーやEnterキーへの誤入力が多発したのは書きとどめておきたい。

有機ELのおかげで“超高解像度”問題なし

ディスプレイサイズは13.3型で、それがProArt PX13の存在意義(クリエイターが必要とする強力な処理能力を使い勝手のいいコンパクトなボディに収めている)でもあるのだが、一方で最大解像度は2,880×1,800ドットに達する。現在日本で(一般的流通を使って)入手できる13.3型ディスプレイ搭載ノートPCではかなり高解像度な方だといえるだろう。

  • 明瞭な有機ELパネルのおかげで13.3型と小ぶりながら2880×1800ドットという超高解像度でも十分な視認性が確保できている

というわけで、実際の評価作業でもスケーリング設定のお世話になるわけだが、表示がかなりくっきりと見やすい有機ELパネルのおかげで、コンパクトなディスプレイにもかかわらず超高解像度でもズーム設定150%で表示フォントを難なく視認することが可能だった(さすがに125%設定では見にくい)。

それゆえに、Adobe系アプリで作業効率を高めるためにパレットをパカパカパカー!と開きまくっても快適に作業できたのはギリギリの入稿スケジュールでとても助かったのは事実だ。

  • 色の再現領域は独自ユーティリティ「ASUS Splendid」によってネイティブ、sRGB、DCI-P3、Display P3から選択可能。さらに、色温度やブライトネス、ブルーライトカットも設定できる

ただし、光沢パネルを採用したことによって周囲の光を逃がすことなく反射してくれるので、そのあたりで集中力を切らさないことが作業効率維持には肝要だったことも言い添えておきたい。

13.3型ディスプレイを搭載したコンパクトなノートPCだが、本体に搭載するインタフェースは十分に充実している。左右側面に合わせて2基のUSB4 Type-C(Power Delivery対応)を備える他、USB3.2 Gen2 Type-A、microSDスロット、ヘッドホンマイクコンボ端子、HDMI出力を用意している。また、無線接続としては、IEEE802.11beまでサポートするWi-Fi 7)とBluetooth 5.4が利用できる。

  • 左側面にはHDMI出力、USB4 Type-C、ヘッドホンマイクコンボ端子を用意している

  • 右側面にはmicroSDスロットにUSB3.2 Gen2 Type-A、USB4 Type-Cを備える

  • ディスプレイの上にはWebカメラの他に顔認証用のIRカメラ、ステレオマイクアレイを内蔵する

Ryzen “AI”の実力を試す

ProArt PX13では、CPUにAMDがCOMPUTEX TAIPEI 2024にあわせて発表したRyzen AI 300シリーズの「Ryzen AI 9 HX 370」を搭載した。そのアーキテクチャ的特徴と仕様は大原雄介氏によるこちらの記事:「Zen 5」Deep Diveレポート #2 – Ryzen AI 300の正体とRDNA 3.5&XDNA 2 )に詳しい。

Ryzen AI 300シリーズからProArt PX13に採用された「Ryzen AI 9 HX 370」は、TDP(Processor Base Power)は28W、処理能力優先のZen5コアを4基、省電力を重視したZen5cを8基組み込んでいる。CPU全体としては12コア24スレッド対応となる。L2キャッシュの容量は12MBでL3キャッシュの容量は24MB。動作クロックがベース2GHzの最大ブーストで5.1GHzとなる。

さらに、独立した推論演算エンジン(NPU)として「Ryzen AI」(XDNA 2)を実装しており、AI処理に関するスピードを高速かつ高い電力効率で実行できるのも特徴だ。

  • CPU-ZでRyzen AI 9 HX 370の仕様情報を確認する

Ryzen AI 300シリーズには、統合グラフィックスコアとしてRDNA 3.5世代の「Radeon 800M」シリーズが組み込まれているが、ProArt PX13のシステム構成ではディスクリートのGPUとしてGeForce RTX 40シリーズを選択できる。評価用機材ではGeForce RTX 4070 Laptopを搭載していた。

  • GPU-ZでRadeon 800Mの仕様情報を確認する

GeForce RTX 40シリーズはNVIDIAの最新世代ノートPC向けGPUの一部で、現行ラインアップにおいてGeForce RTX 4070 Laptopはミドルレンジに位置するモデルだ。NVIDIAは新しいAda LovelaceアーキテクチャをノートPC向けGPUにも導入しており、CUDAコアの数は4608基、ブーストクロックは1230~2175 MHz、グラフィックスメモリはGDDR6に対応してメモリインタフェースのバス幅は128bit確保している。なお、ProArt PX13ではグラフィックスメモリとしてGDDR6を8GB用意している。

  • GPU-ZでGeForce RTX 4070 Laptopの仕様情報を確認する

なお、CPU以外でProArt PX13に実装された処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、システムメモリはLPDDR5X-7500を32GB搭載。ストレージは1TB SSD(PCIe 4.0対応)だ。

  • 高い処理能力を発揮するCPUとGPU、システムメモリを組み込むため、リキッドメタル熱伝導材とデュアルクーラーファンといった強力な冷却機構を導入した。排熱孔も左右側面と背面左右端の合計4カ所に設けている

  • 底面にはエアフローを確保する大面積スリットを視認できる

Ryzen AI 9 HX 370とGeForce RTX 4070 Laptopを搭載したProArt PX13の処理能力を検証するため、ベンチマークテストを実施した。まずは“基本的な体力測定”としてPCMark 10、CINEBENCH 2024、CrystalDiskMark 8.0.5 x64、3DMark Time Spyを、加えて、クリエイターノートPCとしての処理能力を測定するベンチマークテストとしてPugetBench for Creators 1.2.20に収録されている「PugetBench for Premiere Pro」を用いた。

比較対象としてCore Ultra 7 155HとGeForce RTX 4050 Laptopを搭載し、ディスプレイ解像度が1920×1200ドット、システムメモリはLPDDR5X-6400を16GB、ストレージは512GB SSD(PCIe 4.0対応)のノートPCで測定したスコアを併記する。

なお、ProArt PX13にはASUSのシステム管理ユーティリティ「My ASUS」のオペレーションモードから消費電力と処理能力の設定を変更できるが、今回の測定においては「スタンダード」モードを選択している。こちらの設定をパフォーマンス優先や静音優先などに変更した場合の変化については、機会を改めて検証してみたい。

  • MyASUSのオペレーションモード設定で処理能力と消費電力の優先度を設定できる

ベンチマークテスト ProArt PX13 比較対象ノートPC
PCMark 10 7746 6329
PCMark 10 Essential 10178 9663
PCMark 10 Productivity 10352 8773
PCMark 10 Digital Content Creation 11971 8116
CINEBENCH2024 GPU 10022 6785
CINEBENCH2024 CPU Single 117 89
CrystalDiskMark 8.0.5 x64 Seq1M Q8T1 Read 5276.51 4466.28
CrystalDiskMark 8.0.5 x64 Seq1M Q8T1 Write 4956.69 2224.79
3DMark Time Spy 9724 5881

総じて、Ryzen AI 9 HX 370とGeForce RTX 4070 Laptopを載せたProArt PX13のスコアは、Core Ultra 7 155HとGeForce RTX 4050 Laptopを搭載した比較対象ノートPCをさらり上回る。PCMark 10は差が迫っているが、それでもDigital Content Creationで大きな差となった。3DMark Time Spyのスコアも圧倒している。

PugetBench for Premiere Proは比較対象ノートPCで測定してないため、スコアを比較することはできない。ただ、参考までにPugetBenchのWebサイトに登録されているデータベースを参照すると、 Core i7-13620H+GeForce RTX 4070 Laptopの構成で測定したスコアとスコアの値が並ぶケースが多いようだ。

小さい「クリエイター向けノートPC」の真価を体感

ベンチマークテストのスコアもさることながら、「入稿締切ギリギリの追い込み時期に限って外に出る案件が連続する」という状況において、ProArt PX13の上ではIllustrator にPhotoshop、InDesignといったヘビーなアプリを同時にひらいてグリグリがりがりと加工しまくっても全然固まることなく、それどころかスイスイサクサクと快適と動いてくれた。

13.3型ディスプレイを搭載し、コンパクトで薄い板のようなシンプルなデザインのノートPCとは、思いもよらないパフォーマンスを持ち出したどこの現場でも発揮してくれたのは正直言って驚きであった。

そんなこんなで超私的には、どこでも持ち出せてどこでもフル稼働してAdobeアプリをグリグリとぶん回せるProArt PX13のおかげで、新刊を用意することができたのであった。めでたしめでたし。

  • 13.3型ディスプレイのモバイルノートPCでPhotoshopとIllustratorとInDesignを同時に立ち上げてガシガシ動かせるというのはちょっと感動もの。ProArt PX13のおかげで「とてもじゃないがもう無理っ」とあきらめていた新刊を間に合わせることができた

  • ACアダプタは専用コネクタで大柄。組み込んだCPUとGPUをフル駆動するには必要と理解できるが、持ち歩くのはちょっと大変