パナソニック くらしアプライアンス社は、滋賀県草津市のパナソニック草津工場の冷蔵庫生産ラインを公開した。パナソニック くらしアプライアンス社常務 キッチン空間事業部長の太田晃雄氏は、「草津工場は、冷蔵庫のグローバルマザー工場に位置づけており、圧倒的な高品質および高品位の実現している。2年以内で世界トップクラスの生産効率を実現するとともに、Panasonic Qualityを磨き上げ、2030年には、冷蔵庫事業を1.5倍に拡大したい」との方針を示した。
パナソニックの冷蔵庫事業は、1953年にスタート。70年以上の歴史を持つ。基幹工場となる草津工場は1969年から操業。55年目を迎えている。現在、冷蔵庫の生産は、草津工場以外に、中国、ベトナム、インド、インドネシア、フィリピン、台湾、ブラジルの生産拠点でも行われており、研究開発センターは、草津、中国、ベトナムの世界3カ所に設置している。販売は34カ国で展開。海外売上げが約3分の2を占めている。
冷蔵庫の生産は、草津工場の一部で行われているが、冷蔵庫の生産エリアだけで、敷地面積は東京ドーム約2個分にあたる10万平方メートルを誇り、700人の従業員が勤務。国内向けおよび輸出向けの冷蔵庫を生産し、日産2000台の性能能力を持つ。
2030年にはCO2排出実施ゼロ工場を目指しているほか、従業員全体がプロ集団となるべく継続的な人材育成を実施。また、「エコ体験学習」の名称で、地元小学校の工場見学を受け入れており、2023年度は43校3100人が参加。2007年からの累計では6万5000人が参加しているという。
草津工場の最大の特徴が、ミックス生産方式の採用である。
草津工場の冷蔵庫の組立ラインは一本だけであり、そこで容量や機能、カラーが異なる様々な機種を、1台ごとに混流生産できるようになっている。
ミックス生産方式では、バーコードを活用。ライン上に設けたセンサーでバーコードを読み取り、生産している1台1台の冷蔵庫を識別して管理。製造する順番にあわせて、作業員の手元に、異なる機種ごとのパーツを正しく届け、正確に作業が行えるようにしている。
一般的な混流生産の場合には、複数用意されたパーツのなかから、作業者が指示に従って選び、組み込む方式が多い。だが、パナソニックのミックス生産方式では、バーコードのデータをもとにパーツを準備。作業者は、探す、選ぶ、取り出すといった手間がなく、間違えることなく、組立作業に集中できるようになっている。
また、ミックス生産方式は、同社が展開している指定価格制度(新販売スキーム)に最適化した生産ラインになっているともいえる。
パナソニックが一部製品で採用している指定価格制度は、メーカーが指定した価格で販売が行われる一方、販売店の在庫はメーカーが責任を持ち、売れ残ったら商品の返品を受け付けることができるというものだ。これを効果的に展開するには、販売店における適正な在庫水準を維持することが重要であり、売れた分を適切なタイミングで補充することが、在庫リスクを減らし、販売機会を逃さないことにもつながる。
指定価格制度による冷蔵庫の販売金額比率は、2023年度実績で約35%であったが、2024年度は4割を目指している。400L超では、15品番をラインアップしており、そのうち10品番が指定価格制度の対象製品になるという。
「理想は1台売れたら、1台作るという体制である。いつでも、どんな機種でも作り、在庫を少なくするモノづくりを目指したい」とし、そこにミックス生産方式の仕組みを生かす考えだ。
多種多様な機種を、タイムリーに生産し、供給できるミックス生産方式は、指定価格制度には不可欠な仕組みだといっていいだろう。
草津工場の冷蔵庫生産ライン
では、草津工場の冷蔵庫生産ラインの様子を見てみよう。
生産ラインを見てもわかるように、生産した冷蔵庫は全量で性能検査や品質検査を実施しているが、設計、開発段階でも厳しい試験を行っている。その試験内容も公開した。
温湿度衝撃試験では、様々な気温や湿度環境で冷却試験を実施。日本各地の平均な気温や降水量をもとに、利用環境を想定して試験することで設計品質を向上。設計の際に放熱スペースの極小化することにもつなげている。
夏場の高温多湿を想定した試験室では、温度35℃、湿度80%の環境で稼働。周りを5mmの幅の枠で囲い、より負荷が高い環境で実施している。冷凍室には実際にアイスクリームを入れて、扉を開閉するといったことも行う。また、5℃の試験室では、庫内に霜がついたり、冷凍サイクルの異常発生していないことを確認したりといったことを行う。
衝撃試験室は27室を用意しており、300台弱の冷蔵庫を一気に検査できる。
ドア開閉試験は、上部の回転側ドアと下部の引き出しドアを含めてすべてのドアが対象に実施する。
試験時にはドアポケットやトレイ内に、最大収納量を搭載した形で実施。開閉試験回数は20年間の利用を想定したものになっており、ドアを開ける際の手の位置についても、真ん中だけでなく、端から引っ張ることを想定した試験を実施している。また、試験室内はあえて寒くしている。ドアについているパッキンのゴム素材が、気温が低くなることで固くなり、劣化しやすいことを考慮し、それを再現した形で試験を行っているという。冬場の朝のキッチンまわりの温度を想定した環境だという。
ビール瓶衝撃試験では、ガラス扉の正面と端面にビール瓶をぶつけて、割れない安全性を確認する。振り向きざまに固いものを扉にぶつけてしまったというシーンを想定した試験だ。当初は、中華鍋やグラタン皿なども使用したが、鍋や皿が変形し衝撃を吸収してしまうため、変形せずにダイレクトに衝撃を与えるビール瓶を選んだという。
なお、ガラス扉は、風熱強化処理を行うことで強化。万が一割れた場合でも、尖ったガラス片が飛び散らないようになっている。
キッチン空間事業部では、事業部長直下に製品審査部門を設置し、設計および製造部門を管理。創業者である松下幸之助氏の「お客様大事」の精神を継承し、メーカー視点だけでなく、生活者視点からの操作性、安全性など、20項目でチェックを行っているという。
パナニソックの冷蔵庫は、本質機能である「収納庫」としての使いやすさ、「保存庫」としての鮮度保持の特徴に加えて、調理にも利用できる「調理庫」としての役割を果たすことを目指しているという。
「冷やしたり、保存したりすることが冷蔵庫の役割であったが、いまは調理にも冷蔵庫が果たす役割がある。たとえば下味をつけたり、肉を柔らかくしたりといった部分に冷蔵庫が利用できる。使いやすさ、鮮度保持といった本質機能に加えて、調理庫として、食と食文化を支えるのが、パナソニックの冷蔵庫の提供価値になる」とする。
パナソニックの冷蔵庫では、早い冷却や冷凍によって食品を良い状態で保存できることに着目した「はやうま冷却」、「はやうま冷凍」、長期間保存する冷凍品をやさしく守って、おいしさを長持ちさせる「うまもりの保存」を実現しており、これらも収納や保存だけでなく、調理につながる提案になる。
また、多様で、変化し続ける顧客ニーズに対応するために、感性価値やサステナビティも重視。「キッチンとリビングが一体化する動きにあわせて、細部までこだわって、インテリアにマッチしたデザインを採用している。キッチン空間に美しくなじませるために、スキマレスや、外観部のビスレスによるデザインを採用している」という。
さらに、徹底した省エネや節電、長期使用やフードロス削減にも貢献できるように工夫している」という。
さらに、業界で唯一トップユニット方式を採用のも、パナソニックの冷蔵庫の特徴だ。
コンプレッサーを上部に配置し、スペースを有効活用しているのに加えて、多くのメーカーが設置している下部の引き出し部分の収納スペースを拡大。さらに、引き出し収納部を手前に100%引き出すことができるようにし、利便性を高めている。
「上部にコンプレッサーを設置することで、上部奥の手が届かないデッドスペースを無くし、下部の引き出しは全開できるため、奥まで見え、整理しやすくしている」という。
トップユニット化するために、独自技術によりコンプレッサーを小型化。さらに、食材がたくさん収納されていても耐荷重を実現するワンダフルオープン機能も採用している。「、従来は1点支持のベアリングローラーであったが、上下48個のベアリングを配置し、レールを6点で支えて重さを分散することにしている。最大重量で収納しても、スムーズな引き出しの開閉ができる」という。
省エネについては、高効率の冷却器やアウターコンデンサーを採用した「冷却技術」、高効率コンプレッサーや「センシング技術」、IoT連携制御による制御技術、高性能真空断熱材のU-Vacuaによる「断熱技術」を強化。最新モデルでは、環境負荷低減を可能にした「新ウレタン発泡剤」を採用。温暖化係数が約10分の1となり、CO2排出量削減か可能になるとしている。さらに、7種類のセンサーを搭載し、それぞれの家庭の利用環境にあわせた省エネ制御を自動で行うこともできる。
「徹底した省エネ技術の磨き上げにより、省エネナンバーワンを目指していく」と語っている。
一方、フードロスへの取り組みにも力を注いでいる。
太田事業部長は、「日本のフードロスの半分が家庭から出ている。この課題解決にも取り組んでいく」とする。
パナソニックでは、2021年に冷蔵庫に設置する重量検知プレートによりを発売し、スマホアプリとの連携によって、食材を管理する「ストックマネージャー」を提供してきた経緯がある。
2024年5月から出荷を開始した新製品の「CVタイプ(NR-F53CV1/NR-E46CV1)」では、AIカメラを搭載。撮影した野菜室の画像をAIが自動認識して、リスト化することができる。これにより、アプリを通じて、保存期間の観点から早めに使う野菜を選び、それを使ったレシピ提案を行うことができる。「野菜の使い切りをサポートし、フードロスの削減に貢献する」という。
さらに、サーキュラエコノミーへの取り組みも開始している。
「冷蔵庫は購入したら、壊れるまでずっとコンセントが刺さったままで利用される商品である。長く安心して利用してもらうことが大切である」とし、2023年からは、IoTを活用した延長サービスを開始しているほか、遠隔故障診断サービスや、使いこなしのためのお知らせ機能を提供。2024年4月からは、パナソニックが検査し保証付き再生品として発売する「Panasonic Factory Refresh」も開始している。
太田事業部長は、「2030年には、冷蔵庫事業を1.5倍に拡大したい」との方針を示す。
国内外ともに1.5倍の成長を目指す計画だ。
ここでは、強いモノづくりとともに、IoT家電の販売拡大や、リファービッシュによる中古家電の販売、ビルトイン型製品のラインアップ強化など、これまでパナソニックが取り組んでこなかった提案を加速する。また、それにあわせて、新たな業態や新たなチャネルでの販売拡大も目指すことになる。
こうした新たな取り組みを支えるのが、草津工場をはじめとした生産拠点となる。
「強い製品と新販売スキーム、新たな販売チャネルの開拓、生産拠点の効率化によって、シェア拡大と事業拡大を目指す。1.5倍は実現可能な数字である」と意気込んでいる。